辰巳の会は、情報公開制度をつかって、県が辰巳ダム継続の結論を得るために市民グループをだまし討ちにして公共事業評価監視委員会に提出した秘密文書『犀川水系辰巳ダム治水計画に関する所見』を入手しましたが、執筆者の氏名と所属が非公開とされ、黒塗りされていました。また、同時に入手した公文書では、県河川開発課職員が『所見』執筆者を訪ねて執筆依頼を行った際に同行した監視委員(1名)の氏名も黒塗りされていました。
公文書部分公開決定通知書は、河川開発課の決定として、「個人に関する情報」「生命・身体・財産の保護に支障を及ぼすおそれ」を一部非公開の理由としていますが、『所見』の執筆にも、監視委員の同行にも、旅費と執筆料・報償費が支出されており、個人情報にはあたりません。また、生命・身体・財産への具体的な脅威も存在せず、今回の黒塗りはまったく不当です。
辰巳の会事務局長・碇山は、12月1日、ナギの会代表・渡辺寛さんとともに県河川開発課を訪ね、異議申立書を提出しました。今後、この異議申立書は、県情報公開審査会で審議されることになります。
1日夕方のテレビニュースでは、「県河川開発課では『反対派の批判を恐れて名前を非公開にした』と説明しています」と報道されていました(北陸朝日放送)。“批判を恐れての非公開”は、県情報公開条例では認められていません。
以下に、異議申立書を紹介します。(ソフトの制約で、傍点が傍線として表示されます。)
異議申立書 1999年12月1日 石川県知事 谷本正憲殿 異議申立人 碇山 洋 (印) つぎのとおり、異議申し立てをする。
1.異議申立人の氏名・住所
碇山洋 石川県金沢市南四十万1丁目217番地
2.異議申し立てに係る処分
公文書部分公開決定通知書(平成11年10月4日;河開第151号)の公文書部分公開決定
3.異議申し立てに係る処分があったことを知った年月日
1999年10月5日 (通知書の日付は4日になっているが、郵送のため、実際に知ったのは5日。)
4.異議申し立ての趣旨・理由
(1)趣旨
異議申し立てに係る処分のうち「氏名及び住所並びに所属名」を「公開しない部分」とした決定を取り消し、氏名・所属を公開すること。
(2)理由
氏名等を非公開としたことは、以下の理由から不法・不当である。
A)『所見』執筆者について
@上記の公文書部分公開決定通知書は、「公開しない理由」として、石川県情報公開条例第9条第2号の「個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの」に該当するとしている。「個人に関する情報であって」(傍点は引用者。以下、同様)という文言から明らかであるが、個人に関する情報でなければ、特定の個人が識別されても非公開の理由にはならない。当該「氏名及び住所並びに所属名」は、県からの依頼で執筆料を受け取って執筆され、平成11年度第1回石川県公共事業評価監視委員会(公開で開催)という公的な場に資料として提出された『犀川水系辰巳ダム治水計画に関する所見』という公文書に関わることであって、所得や家族構成、信仰、所属政党といったプライバシーなどの「個人に関する情報」にあたらず、条例第9条第2号に該当しない。『所見』執筆に関わった河川開発課職員の氏名などが公開されているのは、所得、家族構成など、彼らの「個人に関する情報」ではないからであって、『所見』執筆者の氏名等も同じである。
申立人の情報公開請求に対して(執筆者の氏名等を伏せてではあるが)公開されたのであるから、『所見』は公文書であり、執筆者の氏名等は、「個人に関する情報」ではなく、「公文書に関する情報」すなわち公的な情報である。『所見』執筆者の氏名等が条例第9条第2号に該当するというのであれば、「個人に関する情報」の定義を示したうえで、「公文書の執筆者名は『個人に関する情報』にあたる」という理由を説明していただきたい。
A同じく、公開しない理由として、条例第9条第4号の「公開することにより、人の生命、身体及び財産の保護、犯罪の予防及び捜査その他公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれのある情報」に該当するとしているが、そのようなおそれはまったくない。
もし『所見』執筆者の氏名等を公開することでそのようなおそれがあるというのなら、その「おそれ」の内容と可能性について具体的に示すべきである。申立人が資料の公開部分を受け取った10月7日に県情報公開総合窓口で応対した県河川開発課・尾崎課長補佐は、申立人の質問にたいして「おそれ」の内容を何ら具体的に示すことができなかった。
具体的にどのような「おそれ」があるかを示さずに非公開にできるとなれば、今後、抽象的な「おそれ」を理由に、公文書中の氏名等をあらゆる場合において非公開とすることができるようになってしまう。また、「公開で開催された公共事業評価監視委員会に提出された公文書の執筆者の氏名・所属を公開すれば、執筆者の生命、身体及び財産の保護に支障を及ぼすおそれがある」というのであれば、「監視委員会委員の生命、身体及び財産の保護に支障を及ぼすおそれがある」ので、委員の氏名・所属は非公開にし、委員会審議も非公開にする必要があったはずである。
条例第9条第4号に該当するというのであれば、(a)どのような人物が、どのような目的で、どのような手段で、どのようにして『所見』執筆者の生命・身体・財産に危害を加えるおそれがあるのかを、また、(b)『所見』執筆者の生命・身体・財産は保護しきれないが、その『所見』が提出された公開の委員会に出席し氏名・所属を公開している公共事業評価監視委員会委員の生命・身体・財産の保護は万全であると判断した根拠を、具体的に明示していただきたい。
B『犀川水系辰巳ダム治水計画に関する所見』について、県土木部河川開発課は、「専門家の意見が必要というあくまで委員の要望で教授に現地視察してもらった客観的な資料」と述べている(「毎日新聞」石川県版10月14日付)。氏名や所属が分からなければ『所見』がほんとうに「専門家の意見」であるかどうか判断できないので(工学博士であっても全然ちがう分野の専門家であることは十分ありえる)、『所見』作成のための公金支出が適当であるかどうかを判断できず、情報公開制度の趣旨にもとる(ちなみに、『所見』執筆者は旅費を除いても合計9万6千円を原稿料として県から受け取っている)。
C県河川開発課は、『所見』執筆者の氏名等の非公開について、「個人名を公開することで論争に巻き込まれては迷惑をかけることになるので配慮をした」と述べている(「朝日新聞」石川県版11月25日付)が、このような「配慮」による非公開は条例第9条第4号とは何の関係もなく、条文の曲解、恣意的濫用であり、不法である。
上記@〜Bで見てきたように、条例第9条第2号、第4号に該当しない情報を非公開としたのは、実はこの「配慮」がほんとうの理由で、条例の条文はあとからとってつけた「理由」ではないかと疑われる。
この「配慮」による非公開の条例上の根拠を示していただきたい。また、公文書部分公開決定通知書がこの「配慮」にまったく言及していない理由を説明していただきたい。
そもそも、『所見』執筆者は、『所見』を提出した段階ですでに辰巳ダムをめぐる論争に「巻き込まれて」いるのであり、巻き込んだのは執筆を依頼した県である。論争に巻き込んで迷惑をかけたくなければ、執筆を依頼したり、『所見』を監視委員会に提出したりしなければよい。辰巳ダム推進に有利な内容だからと『所見』を公開で開かれた公式の場に資料として提出しておいて、論争に巻き込みたくないなどと言うこと自体、御都合主義といわざるをえない。
「公共事業の透明性確保」を建前とする公共事業評価監視委員会という公開の場で(巻き込まれたのであれ自発的にであれ)論争に参加しながら氏名等は秘密にしておくなどということは許されることではない。こんなことが許されるのであれば、県民から批判される心配をせずに、いくらでも無責任な発言を公文書の形で行うことができることになってしまう。無責任な内容の文書作成のために公金を支出するのは不当である。公金の支出を受けて書かれる文書の質を担保するためにも、執筆者の氏名等は公開される必要がある。
生命・身体・財産に危害を加えることは民主主義の否定であり、公開での相互批判・論争の保障は民主主義の最も重要な基盤のひとつである。もし、県が『所見』執筆者には一方的な見解の表明を保障するべきであり、県民からの批判は生命・身体・財産への危害の一種であると考えているとすれば、それは民主主義についてのまったく逆立ちした理解であり、民主主義を支えるシステムとしての情報公開制度に関するまったくの無理解であるといわざるをえない。
B)監視委員会委員について
@提供を受けた復命書(平成11年6月15日)では、県河川開発課職員が『所見』執筆者を訪ねた際に同行した石川県公共事業評価監視委員会委員(1名)の名前が黒塗りされ非公開とされているが、復命書には「石川県公共事業評価監視委員会の委員として監視委員会の意見を説明していただいた」と記述されている。また、この委員には旅費とは別に3万2千円(「報償費」)が県から支給されている。したがって、この同行・説明は個人としての行為ではなく、条例第9条第2号の「個人に関する情報」には該当しない。
該当するというのであれば、「個人に関する情報」の定義を示したうえで、「県から旅費・報償費の支給を受け県公共事業評価監視委員会の委員として行った行為は個人としての行為であり、当該委員の氏名の公開は『個人に関する情報』の公開にあたる」という理由を説明していただきたい。
A『所見』執筆者同様、当該監視委員についても、氏名を公開することによって生命・身体・財産が危険にさらされるおそれはない。監視委員として行動することが危険にさらされるものであるというのなら、『所見』執筆者に「監視委員会の意見を説明し」たという過去の事実を公開することよりも、委員会を公開で開催する事の方が、委員会での発言を不服とする暴漢に襲われるかも知れず、よほど危険だといえる。もし条例第9条第4号に該当するというのであれば、(a)どのような人物が、どのような目的で、どのような手段で、どのようにして当該委員の生命・身体・財産に危害を加えるおそれがあるのかを、また、(b)同じく監視委員としての職務を果たしながら、当該委員の生命・身体・財産は保護しきれないが、他の公共事業評価監視委員会委員の生命・身体・財産の保護は万全であると判断した根拠を、具体的に明示していただきたい。
5.異議申し立てを却下する場合について
今回の異議申し立てにも関わらず、公文書部分公開決定通知書(河開第151号)の決定を変更しないのであれば、上記4(2)で指摘した諸問題について、マル数字で示した項目ごとに、文書にて貴職の見解を示していただきたい。
6.処分庁の教示の有無およびその内容
公文書部分公開決定通知書(河開第151号)に、「この決定に不服がある場合の救済方法」として、「この決定に不服がある場合は、行政不服審査法第6条の規定により、この決定のあったことを知った翌日から起算して60日以内に、石川県知事に対して異議申立てをすることができます」との記述があった。
7.付記
@どこに居住しているかは、『所見』の内容・質・客観性や、公共事業評価監視委員会委員としての職務、および公金支出の正当性との間に直接のつよい相関関係があるとは考えられないので、通知書で非公開とされた「氏名及び住所並びに所属名」のうち、住所を公開していただく必要はない。
A『所見』は、「公共事業の透明性確保」のために公開で開催された平成11年度第1回公共事業評価監視委員会の席上配付資料である。公開で開催といっても、配布された資料が提供されなければ、委員の発言の意味も理解できないのであるから、本来、『所見』は、第1回監視委員会の場で市民グループ(辰巳ダム意見交換会の「意見発表者」)代表、傍聴者、報道関係者にも配布されるべきものであり、委員に配布されたことさえもが市民グループ代表、傍聴者、報道関係者に隠され、情報公開条例にもとづいて請求しなければ『所見』を見ることが出来なかったこと自体、不当なことである。まして、その執筆者名が黒塗りされているなどということは、まったくありうべからざることであり、準備に関わった監視委員の氏名が非公開とされたこととあわせて、市民グループが指摘している『所見』の“秘密文書”としての性格、その準備・提出の“だまし討ち”としての性格を県が自覚していることを自ら証明しているようなものである(添付資料『市民運動にたいする石川県の背信行為に関する抗議文』参照)。
以上