欺瞞的なリーフレット、不誠実な対応、嘘の弁明
−−山本光利ダム建設室長の嘘の上塗りを検証する−−

2000年8月17日

兼六園と辰巳用水を守り、ダム建設を阻止する会
事務局長 碇山 洋


 「兼六園と辰巳用水を守り、ダム建設を阻止する会」(辰巳の会)が谷本正憲知事あてに提出した「リーフレット『辰巳ダムと犀川』に関する公開質問状」(7月27日付)にたいして、県河川課ダム建設室・山本光利室長から「リーフレット『辰巳ダムと犀川』に関する公開質問状に対する回答について」なる文書(8月11日付。以下、山本文書)が送られてきた。
 山本文書は、「回答について」と題しながら、当会の質問に文字どおり何一つ答えておらず、質問を完全に黙殺し事実上回答を拒否したものであった。その中身も、質問とはまったく関係のない意味不明の無内容のもので、およそ回答の体をなしていない不誠実なものだった。当会は、「『辰巳ダムと犀川』に関する公開質問状への石川県の対応に対する抗議声明」(8月12日付)を知事に提出するとともに、記者発表した。

 この「抗議声明」について報道した「読売」8月15日付(金沢版)には、「昨年からの意見交換会で説明済みのことばかりで、個別の回答は省いた」という山本室長のコメントがつたえられていた。
 リーフレット『辰巳ダムと犀川』の内容が、控えめに言って県民に誤解を与えかねないものであるからこそ、直截に言えば県民を欺こうとする欺瞞的なものであるからこそ、公開質問状を提出したのであり、意見交換会の説明云々は回答を省略する理由にはまったくならない。「意見交換会で欺瞞的な説明をしたから、欺瞞的な内容のリーフレットを配布してもよい」とはならないのだ。
 しかも、「意見交換会で説明済みのことばかり」ということ自体、まったくの嘘なのである。

 お粗末な内容のリーフレットに、お粗末な山本文書、お粗末な嘘の弁明と、あまりのお粗末つづきに少々辟易しているのが正直なところだが、“嘘の上塗りをすると恥の上塗りになる”ということを示しておかないと、山本室長やその後継者たちが同じ誤ちを繰り返すことになるので、最小限の批判だけを加えておくことにする。

 以下、質問状の項目ごとに、「意見交換会で説明済みのことばかり」という山本室長の嘘を明らかにする。

1.「犀川の水害」の欄について

 (1)この表の8つの水害のそれぞれについて、犀川のどの地点で、概ねどのような溢水(溢水地点、溢水開始・終結の日時、溢水量など)があったかお教えください。

 これについては、意見交換会で同様の質問をしたが、県側は、溢水の地点、溢水量などについて、何ら説明していない。「説明済み」は嘘である。

 付言しておくが、意見交換会時点と同様いまでも説明できないのであれば、山本文書にそのように書けばよい。以後の質問にも共通する問題であるが、意見交換会終了からすでに1年ほどが経過しており、その間に県側に新たな知見があるかもしれない。同じ質問でも答えはちがっている可能性があるのだ。県側がいまでも意見交換会時点と変わらない見解をもっているのかどうか、私たちには分かりようがないのだから、意見交換会時と同じなら同じと回答するべきである。「説明済み」というのは「読売」紙上での発言であって、山本文書にはそれさえ書かれていないのである。
 いずれにしても、1966年度の犀川ダム完成以後、犀川は1回もあふれていない。つまり、リーフレットに記載されている「8つの水害」のうち1968年、74年、75年の水害における犀川の溢水量はゼロである。これを答えるとリーフレットの欺瞞が明らかになるので、山本文書は言及を避けたのである。

 (2)これ以外にも、犀川ダム完成以後、犀川本川から水があふれた記録があれば、概ねどのような溢水(溢水地点、溢水開始・終結の日時、溢水量など)があったかお教えください。

 この質問はそもそも意見交換会では出しておらず、「説明済み」は嘘である。

2.「辰巳ダムができれば」の欄について

(1)
 @「2日間雨量280o」なら、どんな降雨パターンでも、辰巳ダムは必要なのでしょうか?

 Aどんな降雨パターンでも必要であるとすれば、その科学的・技術的根拠を具体的に御説明ください。

 意見交換会で問題となったのは、県が想定している降雨パターンの是非であって、この質問自体、はじめてのものである。したがって、「説明済み」は嘘である。

 B特定の降雨パターンの場合に辰巳ダムが必要であるとすれば、そのパターンについて、必要となる具体的な科学的・技術的根拠とともに、お示しください。

 意見交換会で県側が説明したのは、「県が辰巳ダム計画で想定している降雨パターンのときには、辰巳ダムが必要となる」という県の主張であって、辰巳ダムが必要となる降雨パターンがほかにあるのかないのか、あるとすればどのようなパターンかについては何の説明もなかった。「説明済み」は嘘である。

 C「2日間雨量280o」ならどのような降雨パターンでも、辰巳ダムができれば水害を防ぐことができるのでしょうか? できるとすれば、その科学的・技術的根拠を具体的に御説明ください。

 これは非常に重要な問題である。

 ダムは洪水のピークをカットするものであるから(※)、2日間雨量よりも、ピークの1時間、2時間の最大雨量が重要な意味をもってくる。とくに、最上流部で降った雨が計画の基準となる犀川大橋地点に到達するまでの時間が2時間前後という犀川流域の事情においては、2時間雨量のもつ意味はとりわけ大きい。
 ところが、意見交換会において県側は、「ダムは2日間雨量で計画する。みなさんは1時間、2時間の雨のことを強調されるが、ダムは2日間雨量で計画しているということが大事で、そこを理解してほしい」といった主張を述べた(特に高野哲男氏はこの点を強調した)。
 この県側の主張からすれば、Cの疑問は当然のものである。意見交換会において、県側は、この点についてまったく説明していない。「説明済み」は嘘である。

 (※:今回の山本文書も、「なかでも洪水のピーク時の水位を低下させるダムの役割」と明確に述べている。)

 (2)リーフには、「辰巳ダム計画では、…(中略)…10年に一度程度の渇水に対しても、犀川大橋下流で平均水深10p程度の流水を確保」とあります。辰巳ダムから放流される水量や残流域からの水量、平均水深10p程度が確保されるという地点における犀川の勾配などから、どのようにしてこの「平均水深10p程度」が算出されたのか、具体的に御説明ください。

 意見交換会においても、県側はリーフレットと同じような説明をしたが、それがどのように算出されたかは示さなかった。「説明済み」は嘘である。

3.「犀川の渇水」の欄について
 リーフの「犀川の渇水」の欄には、過去の渇水の状況についての記述や、当時の状況をつたえる新聞記事のコピーが掲載されています。この欄で挙げられている過去の渇水時において、辰巳ダムがあったとすれば、どの程度の流水が確保されていたのでしょうか? 犀川の幅や勾配、辰巳ダムの毎秒0.7トンの河川維持用水などをもとに、具体的な算出根拠とあわせてお教えください。

 意見交換会では、リーフレットに掲載されているような具体的な過去の渇水について市民側も県側も言及していない。「説明済み」は嘘である。

 以上みてきたように、山本室長の「意見交換会で説明済みのことばかり」という発言は、嘘ばかりである。
 質問に何一つ答えられずにいながら、それを「説明済みのことばかり」と嘘でごまかそうとするのは、リーフレット『辰巳ダムと犀川』の記述が、ひいては辰巳ダム計画が、説明のしようのない出鱈目なものであることを、山本室長自身が自覚していることの告白のようなものだ。
 この一文は、辰巳の会ホームページ"Tatsumi Line"に掲載するとともに、山本室長にもお送りするので、ほんとうに「説明済みのことばかり」だというのであれば、意見交換会の記録をもとに、具体的に説明していただきたい。こういうときのために、県は意見交換会の内容をすべて録音し、ワープロ浄書したはずだ。「説明済みのことばかり」であることを具体的にしめすことができなければ、この発言が嘘であることを山本室長自身が認めたものと判断する。
 「説明済みのことばかり」が嘘なら、山本室長の論理からしても、山本文書は公開質問状への回答にはならず、したがって県は未回答ということになる。

 それにしても、今回の山本文書は、これまでに辰巳の会が県から受け取った文書のなかでも特別にお粗末なものだ。
 山本室長は、「読売」の取材にたいして「意見交換会で説明済みのことばかりで、個別の回答は省いた」と言っているが、山本文書のどこをどう読んでも、そのようなことは読みとれない。上述のように「説明済み」は嘘なのだが、説明済みだと思うのなら、また個別の回答を省略するというのなら、公式の文書にそう書かなければならない。たまたま「読売」の取材があったから、山本室長も「真意」の説明の機会があったが、取材がなければ残るのは山本文書だけだ。しかも、「読売」の記事になったところで、辰巳の会側にそれがつたわる保障はどこにもない。

 第一、自分たちが説明済みと思っていても相手に伝わっていなければ、丁寧に説明しなおすのが、「県民にできるだけわかりやすく平易に理解していただくため」(山本文書)というリーフレットの趣旨からは当然のことのはずだ。「理解できない県民の方が悪い」とでも言いたいのだろうか。

 内容もお粗末ではあるが、こういう県職員の仕事の手抜きぶりには、県民・納税者として憤りを感じるものがある。
 公共事業評価監視委員会が辰巳ダム再評価の結論に付けた付帯意見は、「事業全般について、県民の理解を得るよう最大限の努力をすること」を県にもとめている。辰巳ダムを本気でつくりたいのなら、それなりの努力らしきものを見せるべきだろう。
 今回のような県側の対応を見ていると、ダム建設室長はじめ担当者自身が辰巳ダムの実現など関心がなく、自分たちのずさんな仕事のせいで将来のダム建設担当者たちが困ることになってもどうでもよいと考えているようにしか思えない。
 自分たち自身が、20年以上前の先輩たちのいいかげんな計画で苦労しているはずなのだが、もう少し後輩たちのことを考えてあげたほうがいいのではないかと、余計な心配をしてしまうほどだ。

 「これらの質問については意見交換会で説明済みですので、意見交換会の記録をお読みください」くらいのことを「回答」と称する文書になぜ書かないのか? 「説明済み」が嘘だから、公式の文書には書けなかったのだ。
 公式の文書には書かずに、あとで新聞のインタビューでいいかげんなことを言う。県民の多くは質問状や山本文書の全文を見ることはないので、これで当座の責任逃れに成功したと思っているかもしれない。しかし、嘘の上塗りは、いつか必ず恥の上塗りとして自らにかえってくる。公共事業見直しの流れがつよまるなか、その日はそう遠くはないだろう。
 中島浩・県土木部長は、県議会で、近く共有地の買収交渉を開始する方針を明らかにした。私たちは、「問答無用の絶対反対」ではなく、辰巳ダム計画に納得がいけば買収交渉に応じる用意があることをくりかえし表明している。買収交渉の働きかけのなかで、今回の問題をふくめ、山本室長をはじめとする担当者諸君がどのような説得をしてくれるか、期待をもって注目したい。


「欺瞞的なリーフレット、不誠実な対応、嘘の弁明」の送付について

2000年8月17日

石川県河川課ダム建設室
室長 山本光利様

兼六園と辰巳用水を守り、ダム建設を阻止する会 
事務局長 碇山 洋

 当会のホームページ"Tatsumi Line"に本日掲載した「欺瞞的なリーフレット、不誠実な対応、嘘の弁明」をお送りします。
 本文中に、「この一文は、辰巳の会ホームページ"Tatsumi Line"に掲載するとともに、山本室長にもお送りするので、ほんとうに『説明済みのことばかり』だというのであれば、意見交換会の記録をもとに、具体的に説明していただきたい」とあるように、反論等がありましたら、いつでも文書にてお知らせください。内容を検討のうえ、必要な場合、ホームページの記載内容を修正するなどの対応をさせていただきます。


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