*2005年春* |
5月 |
Keren Ann /not going anywhere ■ケレン・アンはイスラエル出身、フランス在住のアーティスト。 最新作は『Nolita』というアルバムですが、ここに取り上げるのは2003年発表の全曲英語アルバム。 (ちなみに、アルバム『Nolita』はフランス語と英語で歌われています。) 1曲目は表題曲「not going anywhere」。アコースティック・ギターの爪弾き、囁くような儚げなボーカル。そこにかぶさる美しすぎるストリングス。 この曲を聴いて、ぼくはニック・ドレイクの持つ空気を思い出しました。 また、曲によってはアグレッシブな面を覗かせ、壊れそうな危うい雰囲気を醸し出しているところは、ニック・ケイヴを思わせる面もあります。 決して陽気な音楽ではないけど、独特の世界を持ったアーティストです。 |
◇◇◇ TRIO melero-miguez-iovino /Beleza Pura(推薦!) ■アルゼンチンのボサノバ・グループなんですが、これはすごくいいです。 ボーカル&ギターのMariana Melero、ボーカル&パーカッションのNorma Iovino、キーボード&バックグラウンド・ボーカルのHernan Miguezからなる3人構成。 まずボサノバで女性ボーカルが2人いて、ユニゾン&ハモリ&掛け合いで歌ったりするのが珍しい。ボーカルはアストラット・ジルベルトや小野リサのようなハスキーボイスではなく、キュートで人懐っこい声でこれまた珍しい。 3人による演奏も素敵で、タンバリンやレイン・トゥリーなどの飛び道具も交えた打楽器群+ギター+ピアノという構成もまったく過不足を感じさせず、とてもハッピー感覚溢れるもの。 2曲目で聴かれるエレクトリック・ピアノのプレイも最高です。 ジャヴァンやカルロス・ジョビンのカバーもあります。 |
◇◇◇ 木住野佳子 /Heartscape ■デビュー10周年を迎える木住野さんの新作は2枚同時発売。 こちらはもともと構想にあった、初の全曲オリジナル・アルバムです。 内容も、彼女の道のりを実感させる内容になっています。 前作『Plaha』の延長線上にあるもので、前作で果たしたストリングスとの共演がここでも聴かれます。 1曲目「Sketch of Plaha」はまさにそう感じさせる曲で、美しく厳かなストリングスとしっとりとしたピアノで始まります。ところが中盤でファンキーなリズムに変わる2部構成の曲。彼女の多面性を良く表した曲ではないでしょうか。 また、彼女のつくる、どこか懐かしい気分にさせてくれるメロディーは、ここでも素晴らしいバラード曲を数多く生み出しています。 二胡、尺八との共演曲もあります。でもそんなことはひとつのデータに過ぎないでしょう。 9曲目のバラード曲「The Good Old Times」は泣けます。 |
◇◇◇ 木住野佳子 /Timescape ■こちらは、全編ピアノ・トリオによる、カバー曲集。なんでも、10周年と言うことで制作サイドからトリオ・アルバムもつくってはどうかと提案があったのだとか。 ジョビン、バカラック、コール・ポーターらの曲に混じって、ビートルズの「Come Together」のカバーが異彩を放っています。Paulの曲じゃないところが何となく彼女らしいような。 驚いたのは、「聖者の行進」。ルイ・アームストロングで有名なあの賑やかな曲を、何とドラムレスのスローで演奏しているのです。もとはこの曲はお葬式の曲。黒人霊歌であることを感じさせる、美しく感動的な演奏です。 |
◇◇◇ Meia Hora Denois /cenas(推薦!) ■ブラジルはサンパウロのカレッジ・シーンのバンド。 とにかく素晴らしい音楽性を持ったバンドです。 1曲目から美しいメロディーが炸裂。優しそうな男性ボーカルもいい感じ。 メンバーのルックスも、ちなみになかなか若くて優しそうな面持ち。 母体と成るのはロック。歯切れのいいリズム、ギター・リフ、歌の一体感の素敵なことといったら。 キメのフレーズ、ブレイク、絡むドラム。ああ、バンドの練習風景まで目に浮かぶような一体感。 1曲目の素敵な余韻に追い討ちをかける、アップ・テンポの2曲目。バンド・サウンドにフルートやサックスも入って幸福感いっぱい。 さらに3曲目はロックンロール・リフのギターにオルガンが入って、タムタムの連打で『タララララッラ〜』のコーラス。う〜ん。素敵。ケニー・ロギンスもびっくりのポップ・ロック・チューン。 6曲目は美しいピアノ・ソロで始まるイントロが圧巻。 ロック以外にもフュージョン、ボサノバ、ジャズなどの要素が一体となった音楽性の広さと、それを難なく聴かせて楽しませてくれる演奏力の高さにも驚きます。 ラスト曲は、これまた何とハード・ロック調のインスト・ナンバー(!)と意表を突いて、幕を閉じます。 |
3月 |
上松美香 /mika AGEMATSU ■3月20日、HMV栄店にてアルパ奏者、上松美香のインストア・ライブに行ってきました。 第一印象は、身長が高く手足がとても細い、とても明るく快活な人。 とにかく終始ニコニコしながら、とても楽しそうに(技術的には難しいに違いない)アルパを演奏していたのが印象的でした。 演奏も素晴らしく、右手で華麗な装飾音符を弾きながら、左手で実に正確で豊かなベース音を鳴らしていて、そのリズム感覚にも驚きました。 そのとき1曲目に演奏したのが、このアルバムの5曲目に入っている「タラの丘にそよぐ風」です。 彼女のオリジナル曲で、初めてアイルランドのタラの丘を訪れ、その印象でつくった曲だと紹介していました。 憂いを帯びた優しいメロディが素敵な曲で、現地アイルランドで演奏し喝采を浴びたそうです。 このようにアルバムには南米にとらわれない、オリジナルを中心とした曲で占められています。 表情や手の動き、一体感、躍動感が音楽の一部だとしたら、ライブで見るのがやっぱり一番。 でも毎回ライブに行くことはできないからCDを聴く事にしよう。 ライブでの空気を想像しながら。 |
◇◇◇ Nanci Griffith /Hearts in Mind(推薦!) ■カントリー系シンガー・ソングライター、ナンシー・グリフィスの久し振りの新譜です。 『This recoding is dedicated to the memory of every soldier and every civilian lost to the horrors of war』とクレジットされているように、アルバム全編には、戦争を憂い、シンプルで平和な生活への願いが込められています。 でも、音楽的には決して暗くふさいだものではなく、ナンシー・グリフィスらしい愛らしいメロディーが詰まった素晴らしいアルバムです。 ■4曲目「Beautiful」は弾んだリズムと懐かしさ溢れるアレンジがとても優しい。 5曲目「Back When Ted Loved Sylvia」はアルバムの中でも聴きものの曲。ストリングスを大きくフィーチャーした物憂げで祈るような歌が印象的です。悲しいけどとてもいい曲。 続く6曲目「Mountain Of Sorrow」は、『Easy come, easy go..』という歌いだしが印象的な美しいバラード曲。ちなみにこの曲の作者は「From A Distance」を作ったJulie Gold。 ちょっとおどけた9曲目「I Love This Town」はなんとClive Gregson(@ Clive Gregson & Christine Collister)の曲。彼はこのアルバムでは彼女のバンド・メンバーにもクレジットされています。 11曲目「Love Conqures All」はスライド・ギターをフィーチャーした軽快なナンバー。 本編ラストの「Big Blue Ball Of War」はクワイアーが入った感動的な曲。 ボーナス・トラック「Our Very Own」は同名の映画より、キース・キャラダインとのデュエット。しっとりした、とてもいい曲です。 |
◇◇◇ Jack Johnson /In Between Dreams(特薦!) ■ジャック・ジョンソン。普通の名前である。ハワイのオアフ島出身。 彼自身、有名なサーファーでもあるらしい。CDの帯には「極上のサーフ・ミュージック」とある。 サーフ・ミュージックというと、ビーチ・ボーイズしか思い浮かばない私である。 しかしこの紹介では、彼の本質を取り違えてしまう(気がする)。 ■全体を包む暖かな雰囲気は、環境に影響されるところもあるだろうけど、収められている曲は、アコースティック・ギターと彼の朴訥としたボーカルをメインに据えた、極上の歌もの。 全曲のんびりした曲かと言うとそうでもなくて、現在ラジオ局でヘビー・ローテーションの「Sitting, Waiting, Wishing」はキャッチーなメロディーが印象的なポップ・チューン。 2コードのファンキーな曲があったり、ボサノバのリズムの曲があったり。 「Banana Pancakes」という、愛らしいナンバーがあったり。 音楽の間口はとても広いのである。 じっくり聴いてよし、ゆったり聴いてよし。お勧めです。 |