*2003年春*


Dusty Springfield /The Very Best of Dusty Springfield
つじあやの / 恋恋風歌



5月
soothing my soul (Compilation)(推薦!)
今、女性誌で表紙を飾らない月はないほど売れっ子のモデル、SHIHOが選曲したコンピレーション・アルバム。
ジャズ・ボーカル、ポップス、ソウル、ボサノバ、映画音楽と選曲の幅は広いですが、全体的に落ち着いた雰囲気で統一され、寛いだ気分で聴けるものとなっています。
驚いたのは、アルバム全体の流れがとても自然な流れになっているところでしょう。
(中には、結構意表を突いた選曲もありますが。)
例えば、1曲目がMinnie Ripertonの「Lovin' You」、2曲目はストリングスを交えたインスト、エンニオ・モリコーネの「ニューシネマ・パラダイス」で、それに続くOlivia Newton-Johnの「I Honestly Love You」もストリングを配したゆったりした曲となっていて、キーの高さが一緒。
もっと驚くのは14曲目、Nina Simoneの「Little Girl Blue」から15曲目、Boz Scaggsの「We're All Alone」への流れ。この一見接点の無さそうな2曲ですが、奥行きのあるピアノの音で引き継がれ、テンポもキーの高さも同じで、メドレーかと錯覚するほどです。
ラストナンバーが再びエンニオ・モリコーネの曲で、映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」から収録の「Deborah's Theme」。この曲で締めくくることにより、アルバムをとても余韻のあるものにしています。
家でゆっくり聴くも良し、車を運転しながら聴くも良しの好アルバムです。
◇◇◇

つじあやの / 恋恋風歌(推薦!)
つじあやのさんの待望の新作の登場です。
本人も語っているように、ウクレレという楽器そのものに対するこだわりより、歌そのものがダイレクトに伝わる仕上がり。『必要な音は素直に入れて、そうじゃない音は単純に入れないでいいと思った』と語る、全体を包むバンド・サウンド、自然なメロディーと歌と声がとても心地よく響いてきます。
1曲目「桜の木の下で」。ふくよかなストリングスの音に、彼女の独特の、少し陰りのある歌声が静かに乗る。頼りなげで、でも温かくて胸に響いてくる歌声。ひとことでは言い切れない、悲しみと優しさを含んだ歌声だと思うのです。
2曲目「ありきたりなロマンス」は、小気味良いブラスやギター・カッティングが冴える、アップ・テンポの曲。この曲も含め、冒頭3曲はトーレ・ヨハンソンのプロデュースで、彼女の歌との相性はバッチリです。
5曲目は先行シングル・カットされた「雨音」。珍しくマイナー・キーで始まるもの悲しい雰囲気が、印象的な曲です。
7曲目「ぎゅっと抱きしめて」は、『この手を離さないで/瞳をそらさないで/悲しみを忘れないで/夜明けにくちづけて』という歌詞がとても耳に残る名曲。落ち着いた雰囲気の曲で、間奏で流れるBig Country風のギターがいい味を出しています。
9曲目は、映画『猫の恩返し』の主題曲となった「風になる」。軽快で、よりポピュラーな仕上がりです。
10曲目「星に願いを」は、オールド・タイミーなジャズ・スタイルの曲。軽快に転がるピアノ、本格的なホーン・セクションを配し、愛らしいメロディー・ラインが映えます。
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Jimmy Smith / The Cat(推薦!)
ジミー・スミスは、超がつくほど有名なジャズ・オルガンの第一人者。
1964年発表のこのアルバムは、長いキャリアの中でも代表作とされる一枚。
とにかく、むちゃむちゃかっこいい。なんでも彼は俳優のアラン・ドロンの友人らしく、アラン・ドロン主演映画『危険がいっぱい』から、主題曲の「危険がいっぱい」と「The Cat」を収録、また「ドロンのブルース」なんてオリジナル曲も入っています。
なので、ジャズに疎くても、映画を観る感覚で気軽に聴けるのもこのアルバムの特徴なのですが、ビッグ・バンドを率いたダイナミックな演奏と、ジミーの火の出るようなファンキーでキレのいい演奏は、ハード・ボイルド映画の一場面を観ているみたいに、そりゃもうかっこいい。
ブルース進行の「The Cat」なんかを聴いていると、彼のプレイが多くのロック・キーボーディストに影響を与えているという話も頷けます。
ドラムスはGrady Tate、ギターはKenny Burrellが担当。
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種ともこ / in
ソニーを離れ、プライベート・レーベル“たまご舎”からのリリース第一弾。ぼくはついぞ店頭で見つけることが出来ず、通販で手に入れました。3月リリース。
相変わらず彼女らしさの漂う歌の数々ですが、ドラムが生音だからか、オーガニックな印象です。
決してかっこ良くない不器用で正直な女性を描いた歌詞も健在。
1曲目「歌にはできなくても」は、畳み掛けるようなフレーズが印象的な曲。
3曲目「人魚姫」は少し投げやりな歌い方、深く沈んだ雰囲気が切ない。
5曲目「サヨナラ」は、文字通り『サヨナラ サヨナラ・・・』のリフレインが胸に沁みる、少しもの悲しい、しっとりとしたバラード曲。
ラストの「守ってあげられないこと」は恐らく子供に宛てた曲。“おかあさんが守ってあげる”じゃないところが彼女らしい。
『守ってあげられないことがこれからもっと増えるよ/見ているしかできない私をそっと追い越してオトナになれ』と歌い、でも最後に『つないだ手と手はおぼえていて』と歌います。

4月
Dusty Springfield /スプーキー〜The Very Best of Dusty Springfield
テレビを観ていたら、某社の車のCMのバックに、ぼくの知っている好きな曲が流れてきた。
曲のタイトルはすぐ「Spooky」だとすぐわかった(かつてAtranta Rythm Sectionがかっこいいカバーをしていた)が、はて、歌っているのは誰?
ハスキーで温かで切なそうな声、ボサノバっぽいアレンジ。小野リサかとも思ったけど、やっぱり違う。
その後しばらくして判った、その歌の主こそ、ダスティ・スプリングフィールドだったのです。
ここにご紹介するのは、彼女の軌跡を辿るのには絶好の、日本発売の25曲入りベスト盤です。
中に英語/日本語の曲解説が入っていますが、1曲目に入っている「Spooky」の英語解説がないところを見ると、オリジナルの盤に日本向けに“Spooky”を追加したもののようです。
曲目は、1963年のソロ・デビュー・シングル曲、ベイ・シティ・ローラーズもカバーしていた「二人だけのデート(I Only Want To Be With You)」から、ペット・ショップ・ボーイズと組んだ1987年の「What Have I Done To Deserve This?」、最も新しい1995年の「Wherever Would I Be?」まで、広範囲に収録。きっと、どこかで聴いた曲が満載。
キャロル・キングがもともと自分で歌うつもりだった、ソウルフルな6拍子のナンバー「Some Of Your Lovin'」、ソロ第2段シングル曲「Stay A While」、感動的なソウル・バラード「Wherever Would I Be?」、映画『カジノ・ロワイヤル』のサウンド・トラックとして使われた「The Look Of Love」、そして「Spooky」が特にお気に入りです。
1999年3月、60歳の誕生日を目前に惜しまれつつその生涯を閉じました。
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Ringo Starr / Ringo Rama(推薦!)
リンゴ・スター。言わずと知れたビートルズのドラマーであった人も、早62歳。なのに、である。
この若々しさはなんでしょう!1曲目「Eye To Eye」からして、重量級パワー全開のドラミングとヘビーなギター・リフ。昔と変わらない、いや、昔より力強くなったボーカル。こりゃ、ヘビー・ロックかハード・ロックかと思ったくらい。
さらに、ビートルズ時代にはほとんど曲を書くことはなかったのに、共作とはいえ全曲書き下ろしという気合いの入りよう。ドラムはもちろん全曲彼自身で、随所でどすどすとしたドラムが全開します。
2曲目「Missouri Loves Company」は、一転して寛いだとても彼らしいナンバー。優しげなメロディー・ラインも冴えています。
3曲目「Instant Amnesia」は、鋭角的なギター・リフが切り込む、さらにハード・ロック色の強いナンバー。
4曲目「Memphis In Your Mind」、7曲目「I Think Therefore I Rock and Roll」はシンプルでパワフで、ご機嫌なロックンロール・ナンバー。この明るさがいかにも彼らしくて好き。彼自身が楽しくてしょうがないのが聴くほうにもダイレクトに伝わってくる感じです。
5曲目「Never Without You」はメロディアスで落ち着いたナンバー。題からも察せられるように、亡くなったGeorge Harrisonに捧げられた曲。そしてかつてのGeorgeの旧友、Eric Claptonが彼らしい情感たっぷりの泣きのギター・ソロを弾いています。
さらに、“Strawberry Fields Forever”を思わせるオルガンの音で始まる6曲目「Imagine Me There」は、John Lennonに捧げられたナンバー。中期ビートルズ色が濃厚な、懐かしくて、でもちっとも古臭くならないどこか普遍的な不思議な感覚が漂います。ウッド・ベースでCharlie Hadenまで参加!。引き続きギターでClaptonが参加。
8曲目「Trippin' On My Own Tears」は泥臭いギター・リフやハーモニカが冴えるスワンプ色のロック。
10曲目「What Love Wants To Be」は美しいメロディーの曲で、Georgeのお株を取ったよう。
12曲目「Elizabeth Reign」での英国サウンドは、今度はPaulのお株を取ったよう。いや、すごくいい曲なのですよ。おや、最後の曲では、まんまPaulの曲の一節が(笑)。
失礼ながら、いつも過小評価されている感のあるリンゴ、ここらで一発盛り上がって欲しいものです。すごくいいから。
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Lunasa / Redwood
久し振りにアイルランド音楽のCDを買いました。ルナサはフルート、笛、フィドル、ユーリアン・パイプといった伝統的な楽器に、ギター、ダブル・ベースをフィーチャーした、アイルランドの伝統音楽を中心に演奏するバンドで、歌なし、インストルメンタル・バンドです。
日本人にとっては、ボーカルの入った曲のほうが取っ付き易い印象があるのですが、彼らの音楽が比較的親しみやすいのは、ギターのカッティングやリズム感に今日的な感覚があるからでしょう。
実際CD店内で掛かっていた3曲目「Harp And Shamrock」を聴いて買った口です。
躍動的な曲はもちろん、叙情的なニュアンスに富んだ演奏が聴かれるのがうれしい。
本作は今までのアルバムに較べて、オーバー・ダブを最小限にして、よりライブに近い形で納められている模様ですが、ライブではまた違った楽しさを見せてくれるに違いありません。