*2002−2003年冬*

ケイコ・リー / Sings Super Standards
Alison Krauss + Union Station / Live
Fayray /白い花



2月
Fayray /白い花(推薦!)
フェイレイ。この不思議なアーティスト・ネームを持つ日本人シンガーの歌を聴くのは初めて。
1曲目が始まる。フェイレイ自身が弾くピアノ即興曲。続く「好きだなんて言えない」も彼女自身のピアノがフィーチャーされたミディアムテンポのバラード曲。
全曲、フェイレイの作詞作曲。プロデュースも彼女自身。
どの曲もピアノのまろやかで落ち着いた音を中心に据えて、肌触りの良いさらりとした歌を聴かせる。
打ち込みも使っているが生楽器との相性も良く、響きはとても有機的で温かい。
ミディアム・ナンバー中心の楽曲は、どの曲も真摯に音と向き合っている印象がする。
ルックスからはちょっと意外な低く太さのある落ち着いた歌声もいい。
3曲目「白い花」。ジャジーなくぐもったエレクトリック・ギターの音が哀愁をさそう。
ファンの要望に応える形で再録したという「Baby, if」と「tears」はあくまでもアルバムの流れの一部として6曲目と12曲目に収録され、アルバムの中でも聴き物になっている。
「Baby, if」の滑らかにすべるメロディー・ラインは印象的で、後半に入るゴスペル・コーラスが曲を盛り上げている。
7曲目「別々の帰り道」はブルージーでオールド・タイミーな雰囲気がいい。
9曲目「stay」はマイナー調の憂いのこもったメロディーが印象的。
11曲目「touch me, kiss me」は、70年代のアメリカを思わせる前半の土臭いアレンジがまたよい。
本篇を締めくくるのは「tears」。元バージョンは聴いたことがないのだけど、メロディーラインと詞が一体となって、押し寄せる波を思わせるうねりが感動的なナンバーである。
できればボーナス・トラックのインスト・バージョン4曲は無かったほうがアルバムの余韻が残ってよかったという気がする。

1月
Alison Krauss + Union Station / Live(推薦!)
カントリー/ブルーグラス界の歌姫にしてフィドル奏者、アリソン・クラウスのニュー・アルバムは、自己のバンド、ユニオン・ステーションを従えての2枚組ライブ・アルバムです。
日本人にとってブルーグラスというとどうも馴染みの薄い音楽という印象があるかもしれませんが、彼女の場合は、ポップス/ロック/フォーク・ファンにも十二分にアピールする音楽性が特徴。
特に、彼女の透明で清楚な歌声は非常に魅力的で、歌ものにおける音の佇まいはシンガー・ソングライターの歌ものに通じるものです。また、ライブならではのインストルメンタル曲での盛り上がりも素晴らしい、まさにベスト盤的アルバムです。
編成は、アリソン・クラウスのボーカル/フィドルを中心にRonのギター、バンジョー、ボーカル、Danのギター、マンドリン、ボーカル(何曲かでリードも取っています)、Jerryのドブロ・ギター、Barryのダブル・ベースが基本となり、数曲でドラムが入るという、シンプルなもの。
編成はシンプルだけど、どの曲も楽しく演奏技術も素晴らしく躍動感いっぱい。観客の反応も上々。しっとりしたバラード曲とインストルメンタルとのコントラストも素晴らしく、長丁場を飽きさせることなく一気に聴かせます。
アリソンのボーカルが映える名曲「Baby, Now That I Found You」、「Stay」、「Forget About It」、「Maybe」、「When You Say Nothing At All」、「Oh, Atlanta」を始め、Jerryのドブロ・ギター・ソロ、メンバー全員が美しいアカペラ・ボーカルを披露する感動の「Down to the River to Pray」等、全25曲収録。

12月
ケイコ・リー / Sings Super Standards(推薦!)
最近、ケイコ・リーの太く深みのある歌声にはまっています。
どちらかというと個人的には柔らかくて透き通った声に惹かれるほうなので、最近まで熱心なファンとは言えなかったのですが、Queenの「We Will Rock You」のカバーを聴いて一気に気持ちがかわりました。
いや、参りました。
そんな個人的なことはさておき、ケイコ・リーの最新作は、偶然にも(Victoria Williamsもですね)有名なスタンダード曲集。
ケイコ・リーといえばピアノの弾き語りアルバム(「ローマからの手紙」)も発表しているだけに、ピアノの印象が強い方ですが、このアルバムはメローなギターがぐっと前面に出た仕上がり。
ドラムがフィーチャーされている曲はロックンロール/ブルース調の軽快な「Route66」とレオン・ラッセル作の「This Masquerade」のみ。他の曲はギターのみ、ウッド・ベース+ギター、あるいは+ケイコ・リー自身のピアノという構成で、いくつかの曲でストリングスが入る程度。その最小限かつ的確で趣深いプレイが、歌心をぐっと引き立てています。
収録曲は「My Way」、「Sentimental Journey」、「Tea For Two」、「Misty」、「Honeysuckle Rose」など、お馴染みの曲目白押し。その聴き慣れた曲をすぐさまケイコ・リーのカラーに引き込んでいく圧倒的な声の存在感は、このアルバムでも格別です。無理に崩したりせず、実に自然に感情を入れていく歌い方は今までどおり。さらにバックがギター主体になった分、まろやかに響きます。
最後に、ケイコ・リー自作の素敵なバラード曲「Closer To One」が収録されていることも付け加えておきましょう。一段とポピュラリティー溢れるメロディー・ラインが心に沁みる作品で、曲作りの才も光っています。

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Victoria Williams / Sings Same Ol' Songs(推薦!)
とても変わった声の持ち主、ヴィクトリア・ウィリアムス。ダミ声というのともまた違うし、とても愛らしく聴こえたり、ひどく悲しそうに聴こえるときもある。
今年出たこのニュー・アルバムは彼女のオリジナル曲ではなく、タイトルからも察せられるように、古いスタンダードのカバー集。1993年から2002年の間に録り溜めたもののようです。
曲はとても有名な曲から(ぼくは)知らない曲まで。
彼女自身のギターとハーモニカをフィーチャーして、土臭い雰囲気が新鮮に響く「Moon River」、ピアノと弦楽四重奏を配した美しい「Over the Rainbow」。彼女自身のギターとDavid Pilchのベースだけをバックに静かに歌う「My Funny Valentine」。どの曲もとても美しい。
古き良き日の雰囲気漂う「Keep Sweeping Cobwebs off the Moon」や、ボサノバ風アレンジが心地よい「I'm Old Fashioned」、ジャグ・バンド風の「Mongoose」なんていう曲も入っています。
彼女自身もコメントしているように、恐ろしいことが起こっているこの世界で、心に響くのは、やはりこのようなGood Songsなのでしょう。
写真で見る限りとても元気そうに見えるのだけど、病気は大丈夫なのでしょうか。出来る事ならこれからも元気な姿を見せて欲しいものです。
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Micheal O Suilleabhain / Templum
ミーハウル・オ・スーラヴァウンは、その名が示すようにアイルランド人で、アイルランド・トラディショナルの研究家でありピアニストでもある人。以前Virgin傘下のニュー・エイジ/フリー・ミュージック系の先鋭的なレーベルVentureからアルバムをリリースしていて日本でも紹介されていました。
そのアルバムは、少数の楽器を加えたのみでほぼピアノ・ソロに近い形でしたが、この新作は、Irish Chamber Orchestra と National Chamber Choir Of Ireland(聖歌隊)をフィーチャーし、彼自身が作曲、ピアノ演奏、指揮を取ったもの。
従って曲調はクラシカルかつ映像的かつ壮大。全11曲なのですが、全部でひとつの組曲を聴いているような仕上がりです。
また、彼自身の弾くころころと良く転がるケルトの旋律のピアノはなかなかいいものです。
なお、クレジットによると1曲目「In Search of Ancient Ireland」は同名のテレビ・ドキュメンタリーのために作った曲のようです。