*2002年秋*

花*花 / リンゴとクローバー
木住野佳子 / Siesta
RIKKI / 蜜



11月
原田知世 / My Pieces
原田知世さんの新譜です。前作のゴンチチをバックに迎えた洋楽のカバー集に続き、新譜は羽毛田丈史をプロデューサーに迎えたオリジナル・アルバムです。
彼女が歌う歌は、それが微妙に表情を変えても、彼女ありきの歌であることがなりよりも魅力。
この新作は、アコースティック・ギター、軽くオーバー・ドライブが掛かったエレクトリック・ギター、それにアコースティカルなリズム隊を主体にして、今までに較べるとややアメリカンな印象。
そこに彼女の少しくぐもった声が流れると、やはり彼女の歌の世界。
作詞は英語詞を除いてすべて彼女自身なのは今まで通り。
オープニングを飾るのに相応しい爽やかな「Let's Fly away」をはじめ、8ビートを主体とした元気な曲が並ぶのが印象的。ミディアムテンポの2曲目「As I Like」ではアコーディオンのバッキングもいい感じ。
そんな中で、6曲目「Lullaby」ではピアノとチェロをバックにしっとりと歌うナンバー。
7曲目「砂の旅人」ではティン・ホイッスルとバウロンが入ってケルト風の味わいも。
9曲目「LOVE-HOLIC」は空間を埋め尽くすアコースティック・ギターの使い方(12弦フレットレス・ギターって何??)、耳慣れない音のパーカッションが不思議な効果を上げています。
ゆったりとしたテンポでつぶやくように歌う10曲目「Sigh of Snow」は彼女自身と羽毛田丈史の共作。綺麗なピアノと彼女のボーカルがことさら素晴らしい。
ラスト・ナンバーの「Angels song」は彼女の作詞作曲。フレンチな雰囲気漂うワルツ・ナンバー。後半アップ・テンポして華やかな雰囲気で終わります。
◇◇◇

RIKKI / 蜜(推薦!)
生で聴いた彼女の歌は素晴らしかった。歌ったのはこのアルバムの最後に入っている「からたち野道」。凛とした歌声、和を感じさせる柔らかいメロディー、メロディの裏に隠された悲しい歌詞。
もとはブームのナンバーのカバーで、宮沢和史作曲の素晴らしい曲。彼の曲はこのアルバムで3曲歌っています。
彼女は奄美大島出身といっても元ちとせさんとは歌い方も方向性も違う。RIKKIの声には独特の可愛らしさと惹き付ける力があります。
このアルバムは今年の8月に発表されたオリジナル・アルバムで、このアルバム発表のわずか一ヵ月後に全曲島歌をアレンジした『シマウタTrickles』を発表。むしろ2枚でひとつのアルバムとみるべきかもしれません。
アルバム『蜜』のほうは、エレクトリックな手法でややトリッキーなバック・トラックの曲とポップな曲が半々といった印象でしょうか。
最初エレクトリックな音作り、声に深めに掛けられたエコーがやや違和感があったのですが、何度も聴くうちにやはり彼女の歌はいいと思うようになりました。
願わくば、東京以外でもライブをして地方の我々にも素晴らしい歌を届けて欲しいものです。

10月
木住野佳子 / Siesta(推薦!)
木住野さんがボサノバに取り組んだアルバムと聞いて、企画アルバムだとか軽いBGMになってしまったのかなと勘ぐって、このアルバムを聴く機会を逃してしまっていたなら、実に勿体無い。
一聴してみると、どこを取っても木住野さんのジャズ。紛れもなく肌触りは良質のジャズ。いや、ジャンルに捉われない試みが随所にあるのだけど、表面上はとても穏やか。12曲中、半数は彼女のオリジナル曲というのも見逃せません。
1曲目はオリジナル曲でアルバム・タイトルでもある「シエスタ」。シエスタとはスペイン語でお昼寝の意味。実は最初聴いたときとてもいい気持ちで眠ってしまったのだけど、悪い意味ではなく実に寛いだ演奏を聴かせます。なお、7曲目に同曲のボーカル入りバージョンが収録されていて、木住野さん自身がつくった日本語詞をなんと白鳥英美子さんが歌っています。
2曲目はジョビンの「赤いブラウス」。コードで降りてくるサビのフレーズが実に小気味良い!
3曲目は再びオリジナルで「プリマヴェーラ」。雨だれのような繊細なニュアンスでビートを刻むのは、元パット・メセニー・グループのドラマー、Danny Gottlieb。木住野さんも会心のフレーズを連発します。
4曲目はMichael Franksのもの悲しいバラード・ナンバー「アントニオの歌」。
6曲目はオリジナル曲「ポコ・ブラジル」。軽やかで愛らしい曲。途中エレクトリック・ピアノに持ち替えて(くるっと振り返って?)弾くソロはとても趣味が良くて実にかっこいい。ちょっとエレピに変わるだけでこうも音楽の表情が変わるのかとびっくりしたり。
11曲目はボサノバ曲としては超有名な「マシュ・ケ・ナダ」。これをなんと打ち込みリズムとクールなベース・ラインに乗ってクラブ風というか重めで粋なアレンジで聴かせます。いれもかっこいい。
ラスト「Pray For Them」はしっとりとしたソロ・ピアノによるバラード。昨年NYで起きたテロ事件に遭遇したことにより作られた曲です。

9月
花*花 / リンゴとクローバー(特薦!)
ピアノを弾いて曲を書いて歌うというシンプルな形が、パーソナルな彩りで美しく輝いていたインディーズ時代のアルバム、前向きな力で万人を振り向かせたポピュラリティー溢れる1st、やりたいことをいろいろたくさん詰め込んだ2nd、そして3rdは「リンゴとクローバー」。
アルバムの印象は、自然。決して地味なアルバムではない。むしろここにもたくさんの音楽が詰まっている。ゴスペル調のノリのいいポップ・ソング、ピアノとバイオリンのしっとりした曲、シリアスな曲、今までになかったクラシカルかつプログレッシブな曲、ニューオリンズ調ブラスが賑やかなブギ・ナンバー、初ギターに挑戦したノリノリ・カントリー・ロック、そして初のカバー曲。
でもちっとも背伸びした感じがない。自然に耳に染み込んできてあっという間に聴き終わって、また聴きたくなってくる。とても自然な統一感、優しい流れに満ちている。
優しくて、媚びてなくて、素の美しさも前向きな力も寂しさも詰め込んで、歩いてきた足跡を軽く飛び越えてしまった、かっこいいアルバム。
◇◇◇

Eva Cassidy / Imagine(特薦!)
Eva Cassidyは1963年、ワシントン生まれ。小さい頃からギターを学び、その音楽性はFolk、Blues、Jazzととても幅広いものです。小さい頃はコンプレックスがあってとても恥ずかしがり屋だったそうですが、控えめな風貌からは想像もつかないような素晴らしい歌唱力を持ったシンガーです。
決して押し捲るような歌唱ではなく、清楚で透明な歌声は時には儚げで時には非常に力強く、シンプルな演奏ゆえ感動的な歌を聴かせます。
彼女は1996年に33才の若さで亡くなっており、2002年8月リリースの本アルバムは、未発表曲集のようです。オリジナル録音は1987年から1996年です。
収録曲は全部で10曲。
3曲目「Who Knows Where the Time Goes」はSandy Dennyの名曲。本家に勝るとも劣らない凛として神聖な雰囲気の歌唱が素晴らしいです。
4曲目「You've Changed」はピアノ中心のジャズ・バラード。静かに始まり、後半高揚していくボーカルが圧巻です。
5曲目「Imagine」はJohn Lennonの有名曲。彼女のソロ・ギターによる切ないアレンジが泣けます。メロディーの崩し方もとても上品で美しい。余りにいろんな人に歌われてきたこの曲ですが、ちっとも安っぽくならないところに彼女の歌心を強く感じました。
「Tennessee Waltz」は原曲よりゆっくりでたゆたうようなアレンジに、「Danny Boy」での美しい弾き語りはあまりにも素晴らしい出来です。
http://evacassidy.org/eva/
http://www.oaksite.co.uk/
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aiko / 秋 そばにいるよ(推薦!)
最近、久しぶりにaikoのメジャー・1st『小さな丸い好日』を聴く機会がありました。そして思ったこと。
独特のメロディー・ライン、意思の強い歌声、この時からaikoの世界は出来上がっているということ、そして、今手にしている新譜『秋 そばにいるよ』もまた、まんまaikoの魅力が詰まっています。
最初の曲「マント」が掛かる。熱く厚い音。中音域にエネルギーを溜めたバンド・サウンドが耳に飛び込んでくる。いつもと変わらないaikoの声。1曲目は「花火」を彷彿とさせるノリの良い曲で始まります。
2曲目「赤いランプ」は切れの良いカッティング・ギターとオルガンの音がかっこいい、アップテンポの曲。
5曲目「鳩になりたい」はスキップ・リズムが愛らしく、歌詞もなかなかかわいい。
6曲目は「おやすみなさい」。イントロのギター・リフからその世界に引き込まれます。切ない歌詞と落ち着いたリズム隊が胸に沁みる、名バラード。
続く「今度までには」は、前曲を引き継ぐような少しうつむき加減で訴えるような雰囲気が印象的。
7曲目「クローゼット」はニューオリンズ・ジャズを思わせるアレンジの曲。
9曲目はお馴染み「あなたと握手」。アルバムの中で聴いても起伏の多い独特のメロディーはよく目立ち、はっとさせられます。とても印象に残る曲です。
スローで統一されたアルバムの最後3曲の流れもまた美しいものです。落ち着いた曲調の「それだけ」、ストリングスに導かれて始まる柔らかな6拍子の「木星」、そして唯一ドラム・レスの「心に乙女」でしっとりとアルバムは幕を閉じます。
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上松美香 / テソリート TESORITO(推薦!)
日本ではまだ珍しいアルパ(中南米に多い小型のハープの一種)奏者、上松美香さんのニュー・アルバムは有名な映画音楽集です。
アルパは小振りなので、クラシックのハープより快活でぴんと張り詰めた感じの音のイメージがあるのですが、1曲目の音を聴いて驚いたのは、とても柔らかくふくよかな音を出していることです。
選ばれた曲は、ニュー・シネマ・パラダイス、ロミオとジュリエット、マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン(タイタニック)、エデンの東、雨にぬれても、などの名曲11曲に加え、彼女のオリジナル曲が1曲という構成です。
彼女のアルパを中心に、ストリング・カルテット、管楽器、二胡等が加わった演奏は、実に気品に満ちたもの。柔らかく奥行きのある演奏は、できれば大きなステレオで聴いていただきたい素晴らしいものです。
もともとどの曲もアルパ用の曲ではありませんので、アルパの編曲は彼女自身が行っているのですが、高度な演奏技術とそれを感じさせない歌心に満ちた演奏は素晴らしいです。
例えば、「雨にぬれても」はアルパのソロ演奏なのですが、ベース音、主旋律、装飾音をひとりでこなす演奏の素晴らしさととセンスの良さが光ります。
全体的には原曲の良さを大切にしたアレンジですが、「タラのテーマ」では、途中ラテン調のアップ・テンポになったり、ギターやアコーディオンを交えたりしてなかなか楽しいアレンジになっています。
最後の曲「テソリート」は彼女のオリジナル曲。親しみやすく美しいメロディーのバラード曲です。
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長谷川都 / 折々(推薦!)
“つー”こと、長谷川都さん待望の2ndアルバムです。
つーは現在24才ですが、Carole KingやRickie Lee Jonesが好きで、まるで60〜70年代の空気を吸って育ってきたような自然な作風と、それでいて決して古くない今を感じさせるバランス感覚のとれた音、存在感のあるボーカル、そして女性らしくて気取らない自然体の詞が魅力のシンガー・ソングライターです。
1曲目「はなうた」はキーボードの“へっぽこ”プログラミングではじめてデモ・テープを作ってデビューのきっかけとなったと語る曲。とにかくこの曲が素晴らしい。題に反して、力強いメロディーライン、特に2オクターブにも渡って激しく起伏するメロディーに感動!。間奏の勢いあるスライド・ギターのソロも聴き物です。
2曲目「すてきなふたり」はぴぽぱぽ・キーボードが愛らしい小品。
3曲目「この街のどこかに」は1stでは余りなかったマイナー調のシリアスな雰囲気の曲。リズムはヒップ・ホップに通じるものがありますが、彼女の声が乗るとやっぱり彼女の世界。
4曲目「わたしはおんなのこ」では『すこし弱虫なおんなのこ』と歌い、9曲目「大事なのは強く思うこと」では『大事なのは強く思うこと/歯をくいしばって歩き続けること/大事なのは信じること/どんな日にも自分の力を』と歌います。
また6曲目「道」では自分が選んで歩んできた道を信じる、と歌います。
前向きで、時には気弱になったりして、いつもとても温かい長谷川ワールド満載。是非。