*2002年夏*


Christine Collister / An Equal Love
Jeb Loy Nichols / Easy Now



8月
Camel / a nod and a wink
キャメルは昔から気になるグループです。湿っぽいところがなく叙情的でファンタスティック。その音楽はデビュー30年、通算14作目に当たる本作でも変わりません。
蛇足ですが、Camelはジャケット・デザインが好きなものが多くて、今回も内容を物語るような趣のあるジャケット。「うたたねと瞬き」という題も温かい。
アルバム1曲目は小鳥のさえずりと機関車の音で始まる「A Nod and a Wink」。引き続きオルゴールのような音とアンディ・ラティマーのフルートがかぶさる。優しげだけど哀愁に満ちた響きである。
『おやすみ、疲れた瞳。階段を登ってベッドルームへ行く時間だ』『だけど出て行くときと変わらぬままで、とにかく僕のもとへ戻ってきて』と歌われます。
続く「Simple Pleasures」では『彼女が出て行った後、部屋には彼女の香水が漂っていた。30年経った今もまだ匂いが残っている』と歌い、30年の音楽生活、出入りの激しかったバンドの思いを歌っているようです。この曲での憂いのこもったギターも聴き物です。ちなみにこのアルバムは今まで関わったバンド・メンバー全員に捧げられています。またメンバーの最後に故ピーター・バーデンスに捧げられていて、先の1曲目はピーター・バーデンスに当てているのではと思ったりします。
3曲目「A Boy's Life」はアコースティック・ギターで始まるとても優しげなナンバー。
4曲目「Fox Hill」はちょっと異色のナンバーで、歌詞もこの曲だけ言葉遊びのようなくだけた感じになっています。ライナーの言葉を借りると「中間部はQueenのよう」な曲で、シンフォニックに展開も面白いところです。
ラストの曲「For Today」は世界貿易センタービルで起こったテロ事件に触発されてつくられた曲。ピアノの導入部からブルージーなギター・ソロ部を経て、壮大なコーラスが感動的なエンディングへ向かいます。
なお、日本盤には最後にボーナス・トラック「AfterAll These Years」が収められています。
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Sue Foley / where the action is
スー・フォーリーはシンガー・ソングライターにしてブルース・ギタリスト。しかもテレキャスターでゴリゴリ弾きまくる、なかなか頼もしい方です。
久々のニュー・アルバムは前半ノリのいいアップテンポ気味のブルース・ナンバーでかっこよく飛ばします。
5曲目「Stupid Girl」はThe Rolling Stonesのカバー・ナンバーで、これもかっこいいロック・ナンバー。ここまで一気に飛ばしてくれます。
6曲目「Let It Go」ではアコースティック・ギターも交えて、彼女のソングライティングが光るナンバー。ブルースとポップのバランスがとてもいい感じです。
7曲目「Every Hour」はオールドタイミーでブルージーなスロー・ナンバー。
8曲目「Baby Where Are You?」はとてもポップでほっとするナンバー。ギター・リフといい、メロディー・ラインといい大好きな曲。少し突き放したような歌い方もぴったりで、いい曲です。
続く「Get Yourself Together」もポップで寛いだナンバー。
ギターは全部彼女自身。BassにBrad Jones、KeyBにRichard Bellらが参加。
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Fairport Convention / before the moon
イギリスの伝承歌をフォーク/ロックスタイルで演奏した先駆者としても知られる、今も現役で活躍するイギリスの老舗バンド、フェアポート・コンベンション。このアルバムは、1974年に米国コロラド州のエベッツ・フィールドという小さなライブハウスで収録されたライブアルバムで、名ボーカリスト、Sandy Denny在籍時(まだあったんだ!)のものです。
Sandy Dennyはハスキーでもの悲しくかつ温かみのある歌声が魅力で、彼女の書く穏やかな楽曲もとても魅力的なものです。バンド自体のトラディショナルな部分との方向性の違いのためか、バンドを抜けたり入ったりしていましたが、1978年に不慮の事故で亡くなってしまいました。
アルバムは2枚組で、メンバーの回想によると同一日に行われた2つのステージのようです。
メンバーの入れ替わりの激しいバンドですが、この時のメンバーはDave Pegg(b,vo), Sandy Denny(p,vo), Trevor Lucas(g,vo), Jerry Donahue(g), Dave Mattacks(ds), Dave Swarbrick(fiddle)。
小さなライブハウスでの収録ということで、演奏はなかなか寛いだ雰囲気。曲の間のトークも丸々入っていて、その後ろで楽器をぽろぽろ流したりしています。
心配していた音質は結構良く古臭さも感じさせません。時々急にボーカルが大きくなったり小さくなったりバランスが崩れるのは仕方がないところでしょう。
歌ものでじっくり聴かせ、インストではギターもフィドルもリズム隊も一体となった躍動感で乗せる。ある雑誌でライターの方も書いておられましたが、居合わせた人の幸せが伝わるようなライブなのです。
「Solo」、「Sloth」、「Who Knows Where the Time Goes」等収録。
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Christine Collister / An Equal Love(推薦!)
Christine Collisterはイギリスのシンガーで、ぼくが最初に彼女を知ったのは、やはり元フェアポート・コンベンションの主要メンバーだったRichard Thompsonのライブ映像(日本でもLDで紹介されていた)のバックでコーラス&タンバリンを担当していたのを観てです。平行してイギリスのシンガー・ソングライターClive Greggsonとデュオを組んでGreggson & Collister名義で良心的な作品を何枚か発表しています。(日本にもデュオで来日して、ライブを観てきました。)
このアルバムは彼女のソロ6作目、2001年5月発表のたぶん現時点の最新作。(日本盤:VIVID SOUND VSCD-1921(1))
彼女の声は、ハスキーで、Sandy Dennyよりずっと太く、深みのある歌声です。
楽曲は11曲中5曲が彼女のオリジナル曲で、あくまでポップが中心でありながら、楽曲によりトラッドマナーに則ったシンギングを時々聴かせます。
1曲目「Waiting For My Prayer」はいかにもイギリスらしい重厚なナンバー。
2曲目「Can't Cry Had Enough」はうって変わって軽快なキーボード・リフが印象的な、アップ・テンポのナンバー。
3曲目「Full of Grace」は彼女の胸を打つ名唱が堪能できる、素晴らしいバラード曲。ピアノとストリングス、Danny Thompsonのウッドベースによる気品のある演奏も素晴らしい。この曲の作者はSarah McLachlan。
4曲目「Venus Proud」は一転、引きずるようなオルガンの音が面白いブルージーなナンバー。
5曲目は表題曲「An Equal Love」。ゆったりした流れの中、空に溶け込んでいくような多重ボーカルのサビが美しいこのナンバーは彼女のオリジナル曲。軽く回るこぶしも美しい。
6曲目「It's Raining Every Day」も美しいバラード曲です。作者はJames Murphyという人。
8曲目「Motherless Child」はトラディショナル・ナンバーで、完全無伴奏のアカペラで歌っています。
9曲目「Extra Care」は再び彼女のペンによる曲。ペダル・スティール・ギターをフィーチャーしていて、一瞬ハワイアン?かと思いますが、どちらかというと愛らしいブルース・ナンバー。
ラストはなんとヘンリー・マンシーニの「Moon River」のカバー。生ギター一本をバックに歌うシンプルにして感動的なアレンジ。こんなにいい曲だっけという驚きの中、優しい雰囲気でアルバムは幕を閉じます。

7月
Jeb Loy Nichols / Easy Now (推薦!)
な、なんでしょう。このすっとぼけたアルバムジャケット。いったいどんな音楽をやっているのでしょう。
聴いてびっくり。これが、実にいいのです。
「一緒にずっとツアーをしてきた連中と一緒にレコードを作りたかった。ひとつの部屋の中で六人が一緒に演奏している、そんなサウンドにできたらと思ったんだ。」
経歴を見るとアメリカのワイオミングで生まれ、現在はイギリスのウェールズ住まいで、ダブやレゲエにも造詣が深かったよう。しかし出てきた音楽は、自らが語る通り、素朴で訥々としたボーカル、アコースティックで超シンプルな楽器編成、シンガーソングライター然とした佇まいの音。
枯れた力の抜けたボーカルは、ちょっとCat Stevensを思わせ(聴き較べたらそれほど似ていなかったけど)、美しく柔らかいメロディー・ラインはJames Taylorを思わせる瞬間も。さらに、ブルー・アイド・ソウルとカントリー・ミュージックのフレーバー。
必殺美メロの「Better Than Beautiful」、軽快なハネ系「They Don't Know」など、いい曲目白押し。強いて欠点を言えば曲数がちょっと多いことくらいかな(笑)。