*2002年春* |
4月 |
Sakura / The Star XVII (推薦!) ■前作『シシラ』は素晴らしいアルバムでした。全体を包むソウル風味、よく伸びる力強い、しかし温かく母性的なボーカルが強く印象に残ったアルバムでした。彼女が台湾のシンガー蕭亞軒に曲を提供して台湾でも人気が盛り上がったのも記憶に新しいところです。 さて、Sakuraの新譜は初セルフ・プロデュースでしかも全曲Sakuraの作詞作曲(先行シングルで本アルバムではボーナス・トラック扱いになっている「光の海」を除く)という、まさに彼女の今の全てが詰まった一枚になっています。 ■1曲目「The Star XVII」はアコースティック・ギターだけをバックに訥々と歌われるナンバー。Sakuraのボーカルはまるで新人のように不安定で繊細。えっ、これがSakuraの声なの?という驚き。 1分23秒の短い1曲目から流れるように続くのは「Smile baby party baby」。いつに無く気負いの無い真っ直ぐなさらさらした声。洗いざらしの生地のような感触。リズムも軽快な曲で『♪ビジョンはあいまい〜だけど』というリフレインが印象的。名曲です。 3曲目「Flow with me」はジミー・クリフみたいな引き摺る歌い方が面白い軽快な曲(曲調はそんなにレゲエではありません)。ファルセットの入り方が、ぼくの好きなスコットランドのバンドTEXASをちょっと思わせたりします。6曲目にはもうちょっとレゲエっぽい「In a trance」という曲もあります。 他の収録曲も実に多彩で、4曲目「Microcosmic Prahna」は80年代の懐かしのディスコ・シーンを思い出すファンキー・ナンバーだし、9曲目「FREEDOM DANCE」に至っては、テクノ・ダンスみたいなナンバー。そういえば、Sakuraの育った実家はディスコを経営してたなんてことも思い出したりしました。 前作の持ち味であった、伸びのあるソウル・ナンバー「Future」「Come back to me」(いい曲!)も忘れていません。 また今までには見られなかったロック色の強いファンキーな「カオス」「コヤニスカチ」も。 (ボーナス・トラックを除く)ラスト2曲がこれまた秀逸。エレクトリック・キーボードの幻想的なイントロで始まる「How can I...」は広い空を思わせる何処までもやさしいメロディー。本編ラストの「カム・アンド・プレイ」はアカペラ・ボーカルで始まるエスニックで一風変わった曲。タブラやシタールのような音が入り、メロディーはケルトぽさもありブルースっぽくもあります。一見エロティックな歌詞も人類愛的。 オーラスはSakuraの母性的な歌が堪能できるバラード「光の海」で、優しく幕を閉じます。 |
◇◇◇ Yuki / PRISMIC ■という訳でアルバムの方も買ってきました。セールス的にも好調のようですが、決して売れ線でない音はなかなかです。 シングルカット第一弾の「the end of shite」は、文句なしにかっこいいロック・ナンバー。オクターブ低いようなドスの効いた歌い方もかっこいい。 3曲目「66db」はYUKIの作詞作曲。静かにゆっくり始まり、後半でリズム隊が倍速になり、最後で爆発するアレンジがかっこいい。ハードエッジな演奏の裏で緩やかにストリングスが被さるあたりはイギリス的で哀愁が漂います。 続く「哀愁ダンス」はCarole Kingの未発表曲にYUKIが日本語詞をつけたもの。 8曲目「忘れる唄」は7thコードの2コード・リフが印象的なブルージーでファンキーなナンバー。キーボードには本田ゆかが参加しています。 9曲目「愛に生きて」はイントロがThe Bandの「the Weight」のような(笑)、メロディーとハーモニカがBob Dylanのような(笑)、土臭いナンバー。演奏は、なるほどスピッツのメンバーが当たっています。 10曲目はAndy Sturmerが書き下ろしたかの名曲「プリズム」。 ラストを飾る12曲目は「呪い」。装飾を剥ぎ取ったどっしりしたリズム、7分という長尺でほぼずっと同じコードの循環がエンディングにふさわしい印象的な曲。「もううたえないわ」という歌詞も印象的です。 |
◇◇◇ The Marshall Tucker Band / Face Down in the Blues(推薦!) ■1998年発表の旧譜のご紹介です。 マーシャル・タッカーといえば、サザン・ロックと言われたバンドの中でもカントリー色がどちらかという強く、ジャズやソウルの要素も漂わせたバンドであったと思います。 結成当時のメンバーは既にボーカルのDoug Grayのみになってしまった模様で、2曲ドラムでPaul T. Riddleがクレジットされています。 Doug Grayはもともと曲はつくりませんでしたので、実質結成時とは別のバンドになってしまったのではと懸念しながら聴き始めたのですが、これがどうして、なかなかいいのです。 ■そういった訳で当初の音を求めるわけにはいきませんが、タフでノリのいいブギ、ブルース、ジャズを主軸とした音楽性は、ダルに成り過ぎず適度にタイトでゴキゲンです。Doug Grayは存在感のあるボーカリストなので今の音にもバッチリです。 多くの曲はブルース・ナンバーですが、「Love I Gave To You」はシンプルでポップなナンバーですし(この曲はCate Bros.の作品です)、「Ain't No Justice」はうねるスライド・ギターと哀愁漂うメロディー・ラインがぐっとくるナンバーです。 さらに哀愁いっぱいの6/8ナンバー「Long Goodbye」も素敵な曲。 8曲目「Ain't Nobody's Fool」はファンキーで愛らしいギター・リフが印象的なポップ・チューン。ブラスも入ってゴキゲンです。 10曲目「Ramblin'」は作曲にCaldwellの名が。これまたかっこいいジャジーな6/8ブルース・ナンバー。 ラストはクラプトンでも有名な「Driftin' Blues」。 |
3月 |
Yuki / プリズム(Single CD)(推薦!) ■1曲入り500円!3月27日にソロ・アルバムが出ることを知りながらつい買ってしまいました。 ■もう、むっちゃいい曲。良過ぎ。ピアノのイントロはきらきらと乱反射する水面あるいはプリズムのよう。YUKIの巻き舌の歌も凛としている。落ち着いていてなお胸にずしりとくるメロディー。ぼくの大好きなアメリカの南部のロックの香り。ドラムの入るところで8ビートにならず倍きざみのどしりとしたリズムになるのもかっこいい。後半の「♪咲くのは光の輪、高鳴るは胸の鼓動」のハイトーン・ボーカルは最高!(韻を踏んでいてそれがまたいい)。作曲者のAndy SturmerがYUKIのボーカルを大絶賛したというのも頷けます。 ■現在30歳。かっこいい30代である。 |
◇◇◇ Bird / 極上ハイブリッド(推薦!) ■ぼくが最初にBirdを知ったのはCSのとある番組であった。彼女が生まれ育ち音楽のバックグラウンドとなった懐かしい地に出向き語りながら、アーティスト像に迫るという企画であった(ちなみにこの番組でもうひとりのアーティストであるSakuraも知りました)。彼女が母校を訪ね、後輩のギター(これがまたうまい)の伴奏で歌った『You've Got A Friend』のなんと素晴らしかったことか。 その後、彼女のアルバムを買ったのだけど、テレビで見た雰囲気とはまったく違って、大沢伸一が前面プロデュース/作曲/編曲し非常にタイトに作りこまれたクラブ・ミュージックという印象を受けた。 ■様々なアーティストと音楽をやりたいと思ったと彼女は語る。生音を大切にし一発録りの曲も多いという。「隙間と空気感を感じて欲しい」と自ら語るように、新生Birdは素晴らしい出来である。 アルバムジャケットも今までと打って変って、菩薩様みたいだし(笑)。 Birdが単独作曲した曲が3曲、共作で名を連ねているのが5曲というのも今までになかったこと。残りの曲も山崎まさよし、ピアニカ前田、マンデイ満ちるの作曲とバラエティーに富んでいます。 ■陽だまりでくつろぐような力が抜けた2曲目「ファイル」はBirdの作。メローな歌声もたまらない。 ボサノバっぽい「Frow」があれば、今まで以上に超速人力ビートがすご過ぎる「Number」で畳み込むという塩梅。それにしてもこの人のボーカルはすごいパワーだ。かっこいい、かっこいい。 ジャジーで愛らしい「散歩しよう」、しずかなボッサ・ギターとピアニカの音、包容力のある素晴らしいボーカルを聴かせる「夕風」、渋いファンキー・クロスオーバー「ZERO」など名曲揃い。 テレビで見た、関西弁で人懐っこかったあの姿がオーバーラップする。 とにかく聴いて深いこの音にはまって欲しい、そんなアルバムです。 |