*2001−2002年冬*

上松美香 / パシオン
鈴木桃子 / HAPPINESS
YUNA Solo Project / shadow of your smile



2月
YUNA Solo Project / shadow of your smile(特薦!)
感動。韓国の異色ロックグループ、紫雨林(チャウリム)のボーカリスト、ユナの初ソロ・アルバム。
チャウリムのロック/オルタナ/エキセントリックな音世界を想像してかかるとかなり驚くでしょう。
幅広い音楽性。曲に呼応して自在に変化するボーカル。その音楽を包む世界は崇高にして深遠。
1曲目は静かで深い雰囲気の中、ピアノだけをバックに歌われるマイナー調の3拍子のバラード。ユナの幾重にも織り成すボーカルは神々しく、クラシカルというよりはアイルランド、或いはイギリスのトラッド、例えばジューン・テーバー辺りにも通じるものがあります。
2曲目もやはりピアノだけをバックに歌われる深い曲。1曲目に続く雰囲気ですが、こちらは4拍子なのと、時々訴えるような激しいボーカルになるのが印象的。
3曲目はさらにびっくり。アコーディオン、ピアノ、弦楽四重奏をバックに歌われるタンゴ。曲調は憂いを帯びて、ボーカルも2曲目にも増してインパクトあります。
4曲目「Regrets」は再びピアノとキーボードをバックに歌う静かな曲。この曲は英語詞です。ここまでずっとマイナー調。
5曲目は深遠ながらも幾分柔らかな雰囲気が加わります。4AD系の音をちょっと連想しました。
6曲目「Blue Christmas」はふたつめの英語詞曲で、アコースティック・ピアノとダブル・ベースをバックに歌うオールド・スタイルのジャズ・バラードの小品。男性ボーカルとの掛け合いも絶妙で、チャウリムではあまり聴けない高音域でふとファルセットに移行する瞬間とか感動的。こういう曲、好きです。
7曲目にして初めてドラム(ブラシ)が登場。北欧系のひんやりした曲調で、レネ・マリーンあたりに通じるものを感じます。
この雰囲気はそのまま英語詞の「City of Soul」に続いて行きます。
鋭く切れ込むギター、意志の強い力を込めたボーカル、名曲です。
9曲目は6曲目の韓国語版。10曲目は2曲目のストリング・バージョン。
11曲目(本編ラスト)は恐ろしく静かで浮遊感のある不思議な曲。とつとつとしたボーカルやピアノ、切れ切れのギター。ポスト・パンク耽美派、Durutti Columnを思い出すような世界です。
残りの3曲はボーナス・トラック扱いで、11曲目はほっとするポップなナンバー(作曲は松任谷由美になっていますが原曲知りません)、12曲目、13曲目はチャウリムを従えてのライブ音源です(アコースティック・ライブか?)。ブルージーに迫るこちらもかっこいい。
豪華なA5ブックレット付き仕様。歌詞、美麗写真、長編手記(?韓国語は読めないのでわからない)が付いています。
◇◇◇

西村由紀江 / 優しさの意味
このところコンスタントにピアノ・ソロ・アルバムを発表している西村由紀江さん。この新作もほぼピアノ・ソロのスタイルでつくられたアルバムで、今音楽的にも充実した状態であることが伺えます。
1999年の作品「自分への手紙」では曲によってはジャズに通じるアプローチも感じられたのですが、本作ではよりメロディー・ラインがはっきりとして歌物に近い感じがします。
特に1曲目「優しさの意味」。アジアを感じさせる右手の旋律は、女性或いは男性歌手が歌っても映えそうなメロディーで、力強さも併せ持っているのが魅力です。
強さを感じさせる「揺れる心」、反復する左手のフレーズが印象的な「答えはあなたの中に」、珍しくストリングスを配した「かけがえのないもの」、陽気な「風と遊ぶ夏」など12曲収録。
なお、ラストの「優しさの意味(with古箏)」では同曲に伍芳が古箏で参加しています。
最後にジャケットがとても美しいことを付け加えておきましょう。(ロケは北海道かな。イギリスにはこういう干草がたくさんあったなあ・・・)

1月
鈴木桃子 / HAPPINESS(特薦!)
元コーザ・ノストラのボーカリスト、鈴木桃子さんのファースト・ソロ・アルバムが発表されました。
ぼくは、コーザ・ノストラを聴いたことがないのですが、ああ、これはなんて素敵なアルバムなんでしょう。
彼女自身の手によるかわいいイラスト同様、とってもキュートでチャーミング。かなりファニーな声は一度聴いたら忘れられないほど魅力的。そして溢れるばかりの愛情。
歌詞カードの後ろのほうをめくると二人の赤ん坊にギターを弾いて聴かせている桃子さん。
そう、彼女は双子の赤ちゃんをもうけたのです。
(先の写真、実はギターを弾いていると、触りに来て弦をミュートしまくるので、ソファーの上に避難しているところらしいです。)
シンプルでフォーキーな曲、60年代ポップスグループを思わせる曲、ブルージーな曲、ちょっとシリアスな曲。どの曲も太陽の光を吸収して背伸びする子供のように屈託が無く柔らかく暖かい。
9曲目「Butterfly」で自分はあなたのまわりをひらひら飛ぶ蝶と歌い(英語詞)、ラストの「ハピネス」では『ちょうちょが愛に変わったよ/そして今腕の中 眠っている』と歌います。
涙がでるほどいい曲なので、この曲だけでもぜひ聴いてみて欲しいです。
1曲目と8曲目ではCharが全楽器とコーラス・ボーカルとプロデュースを担当している他、1曲目では作曲にも参加しています。

12月
wyolica / almost blues(推薦!)
女性シンガー、azumiと、ギタリストso-toの二人組み、ワイヨリカのセカンド・フルアルバムです。
彼らの歌の魅力はなんといってもスロー&スイートな楽曲とアズミさんのボーカルでしょう。
ソウルというよりは日本語のポップスと言いたい心に沁みるメロディーは、このセカンド・アルバムでももちろん健在です。全体を被う気だるい雰囲気も相変わらずです。
今回もスロー・テンポの「ありがとう」(名曲!)、「どうしてこんな」、「うちへ帰ろう」(Rhodes Pianoのソロがいい感じ)、「ラジオ」など胸に沁みる曲揃いで、ワイヨリカやっぱりいいわ、と言いたくなります。
また、前作に較べるといろんなタイプの曲が入っています。
2曲目「red song」はアコースティック・ギターのカッティングが印象的な幾分アップテンポの曲。
4曲目「Believe In Love Songs」は、マイナー調のちょっと重い雰囲気の曲。
5曲目「slow train」はびっくり、今までになかったアップテンポのボサノバ・タッチの曲。ガット・ギターとアコーディオンの音色が印象的ですが、後半ソロを取るオルガンの音色がこれまたグッド。6'11''と何気に長かったりします(笑)。
7曲目「チャイム」はキャッチーなメロディーと軽やかなリズムがとてもいい感じ。サビに入る前の落下するピアノのフレーズとかかっこいい。ちょっとCharaの「ミルク」に雰囲気が似ているなあと思ったら作曲がAshley Ingramでした。
10曲目「cycle」は珍しく生ドラムをフィーチャーした、ファンキーなブルースナンバー。今までなかったハード・タッチの曲で、うねるボトルネック・ギターとゴースト・ノート満載のドラムさばきも聴き物です。
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五十嵐はるみ / A Song for You
なかなかキュートなアルバムであります。五十嵐はるみさんはジャズ・シンガーということになるのでしょうが、迫力ある声でフェイクばりばりというタイプでは全然なくて、ちょっと鼻にかかったファニーでかわいらしい声で丁寧に歌うシンガーです。
曲もジャズに特定せず、いろんな曲を取り上げているので、ジャズ・ファンはもとより広くボーカル・ファンにアピールするのではないでしょうか。
収録曲は、ジャズ・スタンダードからは“Goody-Goody”,“Makin' WHoopee”,As Time Goes By”、ポップからはレオン・ラッセルの“A Song For You”、バクダッド・カフェの主題曲“Calling You”(この曲ではオリジナルのハーモニカ・プレイヤーも参加)、ビートルズのホワイト・アルバムに入っている小品“Honey Pie”、ヴァン・モリソンの“Moon Dance”、日本の曲からは稲垣潤一の「ロング・バージョン」、ちあきなおみの「黄昏のビギン」(何れも英語詞で歌っています)などなどを取り上げでいます。
要所要所に入る控えめなストリングス、オルガン、サックスもとってもいい感じ。
全体に漂う柔らかな雰囲気にこれからの季節、きっとほっこりさせてくれることでしょう。
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上松美香 / パシオン(推薦!)
日本ではまだまだ珍しいインディアン・ハープ(アルパ)奏者、上松美香のニュー・アルバムです。
アルパはクラシック・ハープより一回り小振りの、南米で広く演奏されているハープで、ペダルがいっさい無いため半音は指にはめた金具で押さえて(カポみたいな理屈でしょうか)出すという、聞くだけでも難しそうな楽器。普通は男子が弾く楽器だそうで、はじめて現地に修行に出たときはなかなか相手にされなかったそうです。
アルパの音色は、小振りなせいもあって、優雅というより躍動的で華麗な音で、時にはオルゴールのように愛らしい音がします。帯の言葉を借りれば『熱く、楽しく、躍動感溢れるラテンのアルバム。南米の楽器“アルパ”の魅力がぎっしり詰まった一枚』です。
このアルバムは彼女の3枚目のアルバムで、本場メキシコで録音されています。また、本作では彼女のアルパとともに、ギター、チャランゴ、ギタロン、マラカス、クアトロ(?)、モスキート(?)、ハラナ・ウェステカ(?)などなどの楽器と競演していて、より一層南米特有の陽気な雰囲気を盛り上げています。
ぱっと曲目を見て判る曲は、8曲目「コンドルは飛んで行く〜花祭り」と14曲目「ラ・バンバ」くらいですが、実際聴いてみると明らかにどこかで聴いたことがある曲があったりして、南米の音楽が案外日本に浸透しているのに驚きます。けっこう日本の肌にぴったりくるリズムとメロディーじゃないでしょうか。
1曲目「Cielito Lindo」から実にオープニングにふさわしい、情熱的なメキシコの第二国歌とも言われている曲。途中のリズムチェンジも楽しい。
全体を通してマイナー・キーの曲が多い(あるいはメジャー・キーからふっとマイナーに移行する)にも関わらず、もの悲しさだけではない躍動感に溢れています。4曲目「Vino Blanco」は絶対聴いたことあるな。
ゆっくりしたテンポの曲での叙情的な演奏もまたいいです。