*2001年秋* |
11月 |
遊佐未森 / honoka(推薦!) ■ここのところいい感じでとても安定した活動をしている未森さんの新譜は、今までの彼女の歌が好きならきっと気に入ること間違いなしのアルバムです。 1997年の『ロカ』以降、彼女が確実に作り上げてきた世界が本作でも聴けます。 ■1曲目「オレンジ」が割りとポップなビートの曲なので、前作より元気目かなという印象もありますが、全体的には今までの音楽の延長線上だと思います。 透明で繊細な奥行きと広がりのある音は相変わらずで、特にPaddy Moloneyの笛が入った2曲目「I'll Remember」は神聖なコーラスのリフレインも印象的な美しい曲です。 よく彼女の歌はケルトっぽいと評されますが、それは表面的なものではなくて空気感のようなもので繋がっている気がします。それはいくつかのインスト曲や、ピアノの音が優しく響く3曲目「遠いピアノ」にも感じられます。 10曲目「Pie Jesu」はAndrew Lloyd Webberの曲で、賛美歌のように美しい曲です。 |
10月 |
小津坂元 / 印象(推薦!) ■小津坂元はボーカルとキーボード担当の小津智美さんとキーボード、パーカッション、ギター担当の坂元一明さんによるユニットです。アルバムは小津坂元のホームページで購入することができます。 曲はいろんな表情の曲が入っていますが、全体を通してスムースなメロディーと、冷たすぎず熱過ぎない透明な歌声が際立っていて、心地よく聴けます。 ■1曲目「石」は6拍子にも4拍子にも聴こえる浮遊感漂うメロディーと、まっすぐで透明な小津さんの声が印象的なナンバー。1曲目を飾るにふさわしい独特の味のある曲です。 3曲目「夕日が沈む海」はシンプルながら親しみやすいメロディーのポップ・ナンバー。 4曲目「ぼくにできること」は一番のお気に入り曲。JamesTaylorを初めとするシンガーソングライターを思わせる、繊細で美しいメロディーが素敵な曲で小津さんの声も見事にマッチしています。 5曲目「桃源郷」は一変してブルージーなロック・ナンバー。江美hのアルバム『想起』に収録されていた「泡泡糖」の原曲でもあります。 江美hバージョンではロックなギター・ソロパートだった部分は、ハーモニカ(ブルース・ハープ)が受け持っているためか、アレンジがほとんど同じであるにも拘わらず、曲の雰囲気は随分違って聴こえます。聴き較べてみるのも面白いです。 7曲目「どうして…」はひしゃげた音像が独特の雰囲気を出しているナンバー。 8曲目「神無月のころ」は再び落ち着いた柔らかなナンバー。ジャジーなピアノソロがとてもいい感じです。 |
◇◇◇ BONNIE PINK / Just a Girl■今月のアルバムは、何だか原色系の…(以下略)。 前作「Let Go」は渋めのロック色で統一感のある好盤でかなり愛聴したものでした。 待望の1年半振りの新作は、ざらっとしたロックぽい肌触りはそのままに、かなり意外性も含んだ幅広い音楽性を披露しているのが印象的です。 しかも散漫な感じはなく、どの曲にも彼女らしさが感じられるのがアーティスティック。 ■カガッ、ガガッ、カガッという鋭いギターのストローク3連発で始まる1曲目「SWEET」は、鋭角的な雰囲気のヘビーな曲。サビは彼女曰く「人力ドラムンベース」というべきリズムをドラムが叩き出すのだけど、打ち込みとは違った不安を煽るような雰囲気が独特。 続く2曲目「Communication」もヘビーな曲。リズムの取り方がLed Zeppelinのように重い。 冒頭2曲のいきなりの展開に最初は違和感があったのですが、何度も聴くうちに好きになりました。 一転して3曲目「Building a Castle」はピアノとストリングス中心の静かな曲。John SimonやThe Bandらウッドストック・アーティストを思わせる芳醇で渋いナンバー。ブリッジで6拍子になるのもかっこいい。 4曲目は「Thinking of You」のAlbum Mix。落ち着いたハネたリズムが心地よい。 5曲目「コイン」はぼくが大好きな曲。裏打ちスネアとコンガの音、タイトなギター・ストロークが気持ちよい。 彼女のソング・ライティングの才能が光ります。 7曲目「再生」はシンセ・ベースが16分音符を刻み続けるテクノ・ディスコと言えなくもない曲ですが、メロディーラインはかなり切ないのが対照的。 その雰囲気を引き継ぐように8曲目「Take Me In」が始まります。 11曲目「僕じゃなかったなら」は彼女には珍しいストレートな8ビートリズムのギター・ポップ。 12曲目「眠れない夜」Album Mixは再びピアノとストリングスをフィーチャーした名バラード。これもいい曲。 ラストは表題曲「Just a Girl」。落ち着いたリズムと溜めた感情が爆発する渋い曲です。 一回聴いたときよりも聴くほどに味わいが増してくる、そんな感じのアルバムです。 |
◇◇◇ かの香織 cano caoli / カナシイタマシイ canacy tamacy(推薦!) ■今月のアルバムは、何だか原色系のジャケットが多いな(笑)。 なんて冗談はさておき、個人名義では5年振り、かの香織さんのニューアルバムです。 ああ、かのさんの曲を聴くのは何年振りだろう。懐かしい。 1995年にリリースした『裸であいましょう』は、ポップで素敵なアルバムで当時愛聴していました。 特に「♪大好き、大、大、大、大好き」のキャッチーなサビも印象的な「魔法にかかれ」はスマッシュ・ヒットし、コマーシャルにも使われ、これからメジャーな存在になるのかと思われました。 しかし1996年にやや重い印象の『Oh,La La』を発表した後は、ルーチン化したポップ業界に嫌気が差したのか(かなり憶測)、コキュウというプロジェクト名で、テラピー的(未聴のためこれも憶測)なアルバムを発表していました。企画盤を除けば久々のニューアルバムなのですが、トエラというマイナー・レーベルから発表されているのが少し複雑な気持ちです。 ■「ニュースを観てかなしくなる。何を信じたらいいか解らなくなってかなしくなる。(中略)今自分が心の底から歌いたいのはかなしいという気持ちです。」という言葉の通り、かなしい気持ちにいて歌った12篇の詞曲が収められています。 かなり大胆にプログラミングやエレクトロニクスによる複雑なアレンジや効果音が導入されているにも関わらず、音はあくまで優しく、少しもの悲しくて、そしてポップ。悲しみに沈みこんだような曲想ではなく、かなり明るさや光を感じる今までのかのさんを感じさせるメロディーの曲が並びます。また、かのさん自身がプロデュースと一部プログラミングにも参加していることも大きいのでしょう。 彼女の音世界は健在。ポップさ、優しさは『裸であいましょう』に並ぶのでは、と思いました。 1曲1曲がどうというより、全曲を通してただただゆっくり身を任せていたい音楽です。 久し振りに昔のアルバムも引っ張り出して聴いてみたくなりました。 最後に、彼女の甘くファニーな歌声が健在であることを付け加えておきましょう。 http://www.canox.net |
◇◇◇ 花*花 / Spice ■花*花って、よくこの二人が出会えたものだと思う。この二人以外メンバーは考えられないと思うし。 二人とも歌を歌い、二人ともピアノを弾き、二人とも曲をつくる。 曲も、ピアノも、ボーカルも、お互いとても個性があるから、曲によってうまく持分を振り分けている。 ライブハウス時代を経てきたグループであることが、この結束を生み出すのでしょうか。 ■『友達がイタ飯をつくりに来たとき、「なにか手伝おうか?」って言ったら、「ええから歌でも歌っといてや」と言われて出来た』という、こじまいづみさんのウクレレ弾き語り「恋するトマトソース」といった小品を交えつつ、全体的にはバラエティーに富んだ作り。二人が持ついろんなスパイスを散りばめた感じです。 1曲目「恋が育った休日」はジャズ・コンボ編成のアップテンポでハッピーなサウンド。ブラス隊とウォーキング・ベースのスイング感も楽しい。ピアノは以前ジャズ・バンドにも在籍していたというおのまきこさん。 「ばんそうこう1枚」は裏打ちドラムがせわしないハードなナンバーで、ちょっとやり過ぎ(笑)なアレンジではあるが、ライブではかなり盛り上がっていました。 「愛を少し語ろう」は単曲で聴くより、アルバムを通して聴くとより映える気がしました。サビのメロディーと言葉の乗せ方がとっても心地よい。 ぼくのお気に入りはおのまきこさん作曲の、ソウル・フィーリング溢れたハネたグルーヴが素敵な2曲「愛する人よ」と、「やっぱり!」。ブラスも入った黒っぽいサウンドと、ことさら黒っぽくすることのないさらっとした素直なメロディーとボーカルがいい感じ。「やっぱり!」で聴けるこじまいずみさんのファンキーに切れ込むよく転がるピアノにも注目。 ■スパイスの効いた料理がおいしいのは素材そのものがおいしいから。インディーズ時代にやっていたような素材(ピアノ+歌)中心の歌をもう少し聴きたかったと書いて居られた方の意見もなるほどと思いました。 そうそう、ライブでやっていたアルバム未収録のブルーズナンバーはいつ発表するんでしょう。 それにしても、メジャーデビューしてまだ1年、アルバムもメジャーではまだ2枚目なんですねえ。 これからまだまだ変化していくのでしょう。当分目が離せそうにありません。 |
9月 |
五島良子 Goshima Yoshiko/ Merry-Go-Round(推薦!) ■丁寧に丁寧に心を込めて作られたアルバムです。 引きずるような、でもけだるいというのとはまた違う独特の歌い方、かわいらしくもあり、優しくもあり、圧倒的な存在感のあるボーカル。ソウルフルに歌っても決して押し付けがましくなったりしない彼女のふんわりとした声。また素敵なアルバムに出会うことが出来ました。芳醇な香りにのせて。 ■もともと彼女はナチュラルな歌を得意とするシンガー/ソング・ライターでした。彼女の『Goshima 4』に痛く感動したぼくは、かつて彼女のアルバムをたくさん集めたものでした。 でも、彼女にも転機が訪れます。1996年、ポリスター移籍第一弾「Pierced」で突如ハードで破滅的な音世界に突入、頭までアフロにしてしまったのでした(笑)。 ここには再びナチュラルで優しい彼女が居ます。70年代シンガー・ソングライター、Sugar Babe、Tin Pan Alleyに通じる暖かさが蘇ります。 ■1曲目「One Swallow」は6/8拍子のナンバー。独特の神聖な雰囲気の漂う曲で、全篇にフィーチャーされたペダル・スティール・ギターの音が時々バイオリンの音のように聴こえるためか、ケルト音楽のようにも、ゴスペル音楽のようにも聴こえる瞬間があります。 2曲目「Espresso 'n' Milk」はタメの効いたリズム取りがかっこいいナチュラルでメローな名曲。Stephen Bishopや鈴木茂をちょっと思わせる雰囲気が格別。最近こういう雰囲気の曲がないだけに、すごく新鮮。 芳醇なフルート・ソロを吹くのはなんと赤木りえさん。 3曲目「Angel」はブラスも入った、ミディアム・スローのソウルフルなナンバー。これもいい曲。 4曲目「風の墓標」は、アコースティック・ギターを主体にごく少数の楽器で歌われる、マイナー調のしんみりしたナンバー。ギターが中野督夫、二胡(!)が告井延隆というSentimental City Romance組参加。 そして、なんといっても強力なのは表題曲「メリーゴーランド」。イントロなしでピアノと同時に始まる歌い出しに、思わず鳥肌が立ちます。涙ちょちょ切れ度は長谷川都さんの「まあるいおさかな空へゆく」といい勝負。超美メロ。感動します! |