*2001年夏*


寺井尚子 / LIVE
中村幸代 / harvest
長谷川都/ 歌をうたおう




8月
長谷川都/ 歌をうたおう(特薦!)
CDを買うまでこの方を観たことも聴いたこともなかった。CD店の試聴コーナーにもなかった。
余りに彼女に関する情報は少なかったけど、ぼくにとって買いたくなるような何かがきっとあったに違いない。アルバム・ジャケット、それとも全曲「日本語」の曲目?
そして今ぼくは猛烈に感動している。暖かさと優しさ。新しさと懐かしさの共存。
アコースティックな質感はThe Indigoに通じるところもあるけど、もっと穏やかで、だけど芯のある凛とした佇まいの歌声である。歌うことへの愛に溢れたアルバム。ぜひ聴いて欲しい。

『胸の中にある気持ち/上手に伝えたいけど』(ことばなんてなければいいのに)
…60年代のスイート・ポップスに通じる優しさと前向きさ。キャロル・キングへの敬愛も。
『どうしてかな?大事なものがこわれてしまう』(忘れないよ?)
…エンディング近くで崩壊寸前に盛り上がるグルーヴがかっこいい。ギターにアドバンテージ・ルーシーの人が参加。優しさと切なさが交錯する。
『こぼれたミルク、こぼれたなみだ』(ミルク)
『どうしてもっと強く君をぎゅってしておかなかったのだろう』(空の見える公園)
…切ない。自分に訴えるような歌声。
『幸福の木 ひとつ部屋に置いた』(幸福の木)
『いつの間にやら世間では、ぼくはおとなってゆうことに/こころが乗り遅れちゃったよ』(おとなのこども)
…John Sebastianのような懐かしい空気。ごきげんな演奏。ストンプも笛も楽しげに。
『月よ わたしの愛もぜんぶ消してしまってよ』(月が消える丘)
『毎晩見上げて思い出してね?』(ながれ星)
『どうしたら自分を好きになれるかなんて思ってしまう』(だいきらい)
…オルゴールのようなキーボードの音と雲のようなストリングス。独り言のような歌。
『うたおう、ずっとうたおう、うれしいことわけ合って』(歌をうたおう)
…元気を出そうよ。ゴスペル・フィーリング豊かなソウル・ポップス・ナンバー。文句なしに楽しい。
『諦めることを知らぬ子供は/必死にまめだらけの手で/それはそれはいちずに』(はてしない空)
…ざくっとしたドラム、太いギターの音、ハーモニウム。イギリスの哀愁が漂う。
『忘れてしまったこと それすら忘れることもあるけれど』(まあるいおさかな空へゆく)
…彼女自身のピアノ弾き語り。ぼくはこの曲で堪らず号泣した。
http://www.smile-co.co.jp/miyako/

7月
原田知世 / Summer Breeze(推薦!)
昔風に言うとレコードに針を置いた瞬間に、今風に言うとプレイ・ボタンを押して最初の一音が流れ出した瞬間から、幸せな空気が部屋中に充満する素敵な音楽です。
そんな原田知世さんのニューアルバムは、70年代を中心とした洋楽のカバー集。
柔らかなガット・ギターの調べに乗って始まる1曲目「Say You Love Me」の軽やかなこと!原田さんの少し鼻に掛かったファニー・ボイスが素敵過ぎます。パティ・オースティンの隠れた名曲。
2曲目はボビー・ヘブの「Sunny」。ボサノバ・タッチの翳りのあるメロディーが沁みる曲です。
3曲目はランディー・ヴァンフォーマーの「Just When I Needed You Most」。ドラムレスでシンプルに歌っています。
4曲目はビージーズの名曲「How Deep Is Your Love」をこれまたギターだけをバックにしっとり歌います。
意外なのは6曲目「Scarborrough Fair」。S&Gの重厚なコーラスが印象的なこの曲を敢えてコーラスを排除し、本人曰くボーイ・ソプラノを意識したという、か細く不安定気味な声で淡々と歌っています。
1曲目と聴き比べると、さり気ないようでいて彼女のボーカリスト(表現者)としての幅に驚きます。
7曲目は余りにも多くの人がカバーしているキャロル・キングの代表曲「You've Got A Friend」。ややボサノバ・タッチにアレンジしています。
女優でありながら、歌手としてこれほどまではっきりとした自分の世界観を持っているのが眩しいほど。
Gontitiがプロデューサー/ギタリストとして参加しているのも彼女の世界を美しく表現するため。主役はあくまで原田知世さんの声。夏に届いた素敵な贈り物のようです。
◇◇◇

中村幸代 Yukiyo Nakamura / harvest(推薦!)
光、空、グランド・キャニオン、土から生まれた女神。ジャケットに一目惚れして買いました。
リリースは2000年11月。基本的にはインストゥルメンタルですが、1曲目はMelodie Sextonという人の英詩ボーカル入り。また何曲かではスキャット・ボーカルが入っています。
全14曲のうち1曲を除いて今までテレビ等で発表された曲で、ひょっとしたらぼくが知らないだけでこの方面では有名な人なのかもしれません。
例えば、長野オリンピック室内競技表彰式テーマ曲、京都テレビ「世界歴史都市紀行・リズム」テーマ曲、BS-i開局記念特別番組「清流伝説」テーマ曲、ドラマ「はみだし刑事情熱系PART1&4&5」挿入曲、などなど。
曲はクラシカルなものから、ケルト、スパニッシュ、中南米色豊かなもの、ジャジーなものまで変化に富んでいますが、散漫な感じはなく共通の一貫した懐かしい香りがします。
全曲彼女の作曲で、彼女自身ピアノ/キーボードを弾き、曲によって弦楽隊、ホーン隊、リズム隊、各種民族楽器が加わります。
特にオリガがスキャット・ボーカルで参加した神聖な空気が充満する「Wish」や、起伏を繰り返しながら盛り上がりクライマックスに突入する(特にドラムがすごい)6拍子の「Massage from the wind」が素晴らしい。
先入観なしに大音量で聴いて欲しいアルバムです。

6月
寺井尚子 / LIVE (推薦!)
ヴァイオリンという楽器は非常に高い音が出せる楽器である。時には女性の悲鳴のように甲高く心落ち着かない音を出そうと思えば、この楽器は簡単に出せるような気がする。
しかしながら寺井尚子の弾く音色は、一貫して太くふくよかで温かい。かなり高音域の速いパッセージを弾いている時さえも、である。太く柔らかな魔法の指を持っているのだろうか。
Lee Ritenour、Harvey Masonらを率いて行った『Prinsess T Tour』の中、2000年12月9日、愛知県芸術劇場で行われたライブを収録したものが、このアルバムです。
ライブであるから、これまでの端整な持ち味に加えて、スタジオ作では余り表にでることがなかった“陽”の部分が強く感じられるのも嬉しいところです。
オープニングの「Spain」のような切なくも力強い表現は彼女の得意とするところという感じがしますが、対する「Black Market」のようなファンク・ロック色の強いナンバーがかなりかっこよく、最大の聴き物となっています。このアルバムを聴けばライブがどんなに素敵だったか伝わってくるようです。
各ミュージシャンの控え過ぎず出過ぎないアンサンブル&ソロ・プレイもさすがです。
最後に蛇足になりますが、すごく音がいいアルバムであることを付け加えておきます。
音がいいということは、高価な録音機材を使っているとか、高度な録音技術を駆使しているとかいうことではなくて、アーティストが音を発した瞬間からいい音だということなのです!