*2003年秋* |
11月 |
wyolica / fruits & roots(特薦!) ■彼らの音楽はほんとに柔らかく心地良い。 デビュー当初からその魅力は発揮していたのだけど、この新譜の徹底した暖かさはどうだろう。 もともとスローな楽曲の多い人たちではあるけど、アルバムを聴き込めば意外とバラエティーに富んでいることに驚くでしょう。なのに、伝わってくるのは暖かさと優しさ。 ■1曲目「忘れよう」はそんなアルバムの性格を印象付けるような静かな歌。 呟くような少し鼻にかかったazumiのボーカル、so-toのバッキングに徹したギター。とても控えめに入ったピアノ。どれもが微風のよう。そこはかとなく漂う土臭さも素敵です。 2曲目「Lesson」は一変してファンキーなギター、azumiの畳み掛けるようにボーカルが楽しめるアップテンポの曲。だけどこの曲とて暖かく柔らかく聴こえるから不思議。 4曲目「Unchained Blues」は1stに入っていた名曲「さあいこう」の流れを汲む、ミディアム・スローのソウルに、息継ぎがないくらい言葉を詰め込んだ曲。 6曲目「青い月」は清々しいフルートの音も印象的な、ボサノバ・フレイバーの曲。 ラスト3曲の流れは特に素晴らしい。 11曲目「Vibe」での天空高く溶けていくようなハイトーン・ボーカルと超メローな演奏が素敵過ぎだし、続く「恋のうた」は普遍的とも思える美しいメロディーラインが印象的な曲です。 「空と風」は落ち着いた雰囲気とこれまた心に沁みるメロディーが最後を締めくくるのにぴったり。 と思って聴いていると実は隠しトラックが入っていて、「空と風」の最後の4フレーズのコード進行で構成されたエンディングへと。 本編ではほとんどソロやアドリブはなくて『歌』に徹していた演奏が、ここへ来てがーっと盛り上がるのが、次なる変化を予感させて期待してしまいます。 |
◇◇◇ Texas / careful what you wish for ■テキサスと言えば、スコットランドでは国民的人気を誇る有名バンド。 前作「Hush」はSharleen Spiteriのファルセットを生かした、ブルー・アイド・ソウルとも言えそうな彼女達らしい素敵な歌を聴かせてくれました。 久し振りの新譜はまずジャケットでびっくり。まるでレディー・ロッカーに大変身といった感じなのです。 楽曲を聴いてみると、1曲目「Telephone X」こそ、ブルース・ロックぽい佇まいですが、全体には今までの、程よいソウル/ロック色とアメリカ人でないがゆえのいい意味でクールな感覚は変わっていませんでした。 ■3曲目「Carnival Girl」は、シングル・ヒット曲で、お得意のミディアム・ソウルに男性ラップを絡めた曲。 「Where Did You Sleep?」、「And I Dream」など8ビートのロック色が強い曲が多いあたり、デビュー当時の音に近い気がします。 |
◇◇◇ PFM(Premiata Forneria Marconi) / Per Un Amico(友よ) ■今、なぜかイタリアン・ロック復刻盤が勢い付いています。 もっともぼくはリアル・タイムで聴いていなくて、日本でも有名なこのバンドもほとんど初めて聴きました。 ■録音は1972年。哀愁漂うメロトロンとクラシック・ギター、フルート、チェンバロといった楽器で始まり、そうこうすると、重いドラムが割り込んできたりする。 クラシック音楽やキャメルにも通じる叙情的な部分の美しさと、ELPさながらの手数王爆発部分との対比、というか落差が面白い。 プログレというと敬遠されがちだけど、この構成力としっかりした演奏技術、加えてメロディアスな部分も忘れない曲づくりはなかなかである。イタリアだからかどうかはわからないけど音がどことなく温かい。 1970年前半は面白いバンドがたくさんいたんだなあとあらためて思う一枚でもあります。 |
◇◇◇ The Beatles / Let It Be...Naked(推薦!) ■解散寸前だとか、フィルムが回り続けるセッションにみんなが苛立っていたとか、良くない印象が付きまとう“ゲット・バック・セッション”。 飛躍的に音がクリアーになって聴き直して感じるのは、純粋に『いい曲が詰まっている』こと、そして『演奏はとても楽しそうに、生き生きとして聴こえる』ということ。それは決して間違いではないはずである。 一番気に入ったのは「The Long And Winding Road」。ポールのボーカルの隙間を埋めるのは、ストリングスではなく、美しい訥々としたピアノのアルペジオ。間奏のオルガンにもじんとくる。 |
10月 |
bird / Double Chance(推薦!) ■上の写真スキャンが悪くて、なんだかよく判りませんね。すいません。 白地に線画で書かれたイラスト画のジャケットで、それに芯が7色になった色鉛筆が付属していて、ジャケットを裏返すと元となっている写真が載っているというしゃれた作りになっています。 勿体無いので実際塗ってみる人は少ないかもしれませんが。 ■birdの音楽は、新しいアルバムが出るとワクワクしてくる。 デビュー当初はかっちりプロデュースされたファンク/ソウル・シンガーというイメージであったのが、前作からどんどん変化し、より音楽が彼女に近づいてきた気がする。 彼女が愛する音楽が自然に溢れ出す感じがする。どことなくSakuraとイメージがダブったりする。 ■1曲目「チャンス」は元気なギターのカッティングが小気味良い、ファンキーなロック・ナンバー。 birdのよく粘る、伸びやかでパワーのあるボーカルは健在です。 2曲目「廃墟のダンスホール」は変わった(?)題ですが、曲調は軽快なワルツ・ナンバー。 4曲目「Viva! Spa」は、情熱的なラテン・ビートにのって、スキャットのみで押し切る元気なナンバー。 ブラス隊も大活躍です。 5曲目「スパイダー」はしっとりしたボサノバ・ナンバー。作曲はイヴァン・リンス。 6曲目「よみがえれ」はずっと16分音符を刻み続けるベース・ラインとタイトなドラムが印象的なナンバー。 やや、ブルージーな雰囲気も他の曲に無いもので面白い。 7曲目「喜怒哀楽も」はジェシー・ハリスの作曲。バイオリンの響きがオールド・タイミーな雰囲気を醸し出す、愛らしい曲。 白眉は、8曲目「見上げた空へ」。南部の哀愁の漂うメローな曲、マイナーコードやテンションコードの入り方がかっこ良過ぎで、サビで裏声に移るところなど思わずホロリときます。 ザ・バンドの故リチャード・マニュエルが歌ってもはまりそうなこの曲の作者は、アル・クーパー。 9曲目「受けついだもの」は出だしがブルース・ブラザースみたい、というかスティーブ・クロッパーみたいか。 ラスト「光るあなた」はbird自身のペンによる、しっとりしたバラード・ナンバー。 控えめなギターとハーモニカがステキな効果を上げています。 作詞は全曲birdです。 |
◇◇◇ Janis Ian / Working Without A Net(推薦!) ■1976年発表の『Aftertones』に収録された「Love Is Blind」の大ヒットで、日本でも根強い人気を持つジャニス・イアンの最新2枚組ライブアルバムです。 デビューアルバムが1967年ですから、かなりのキャリアですが、今も精力的に活動を続けており、このアルバムは2001年のスタジオ盤に続くアルバムです。 1990年〜2003年の最新ライブまでの集大成といった内容で、中でも1997年福岡ブルーノートでのテイクが3曲収録されているのが目を惹きます。 彼女自身ライナー・ノートで語っているように、日本は良い印象を持っているようで、インナー写真には、日本で撮られた写真が載っていたりもします。 いろんな時期に録られているにも関わらず、演奏は一貫したトーンを持っていて、内容の素晴らしさと相まって、一気に聴いてしまえる内容となっています。 何でも全部2トラックで録音したものらしいですが、多少音のバランスが悪い曲もあるかなという程度で、音もいいし、何より会場の熱気が伝わってきます。 ■演奏は大きく分けると、ドラムが入ったバンド・サウンドのステージと、アコースティック・セットがあります。「Take Me Walking in the Rain」はアメリカン・ロック色のバンド・サウンドに乗った、キャッチ―なメロディーが印象的なナンバー。 一方、「Love Is Blind」は弾き語りによるナンバー。もともとピアノ曲であったこの曲をギターで弾くのはこの時が初めてだったそう。情感に溢れた名演名唱に心打たれます。 また、私は初めて彼女のギターの素晴らしさに驚いたのですが、「Boots Like Emmy Lou's」ではラグ・タイム/ブルース・ギターを披露し、また「Take No Prisoner」ではブルージーかつ繊細、かつハード&ヘビーに弾きまくり。ときにギターやボーカルにエフェクトをかけて(ギター・シンセも使っているのかな?)、10分にも及ぶプレイを展開します。 「Honor Them All」はギターとアコーディオンのハーモニーが心地よいナンバー。 彼女の名前を知らなくても一度は聴いたことのある「Will You Dance?」も収録。 全24曲。アコースティック・ギター・ファンも、ソングライター・ファンも必聴です。 |
◇◇◇ Rickie Lee Jones / The Evening of My Best Day ■個人的には1993年の『Traffic From Paradise』、1995年のNaked Songs』以降、彼女の音楽から疎遠になっていました。スタジオ盤としては、2000年の『It's Like This』に続く新作は、V2という聞き慣れないレーベルからのリリースです。 音的には、彼女のイメージを大きく変えるものではありませんでしたが、ボーカルがややオフ気味のせいもあってか、前半割と軽めの印象。ただ、全体としては少々ブルージーな曲が多いでしょうか。 もっと聴き込めば印象は変わるかも知れません。 買ったのが輸入盤で歌詞が付いていませんでしたので、歌詞を理解して聴きたいところです。 なお、このアルバムは母と娘に捧げられています。 |
9月 |
元ちとせ / ノマド・ソウル(推薦!) ■ジムノペディのような静かなピアノに、つぶやくようなたゆたうような歌が重なる・・・。 元ちとせ待望の新譜は、シンプルかつ意表を突く「トライアングル」で始まります。 続く「音色七色」は、アイルランドの楽器をフィーチャーし、ケルトの雰囲気を漂わせつつ、勢いのあるキャッチ―なメロディーが気持ち良いポップ・ナンバー。 3曲目「千の夜と千の昼」は先行シングル発表曲ですが、アルバムの流れに沿ってこうして聴くと、緻密な音使いや展開も相まって楽曲の素晴らしさが際立ちます。 4曲目「いつか風になる日」は、元ちとせ自ら弾く三味線をフィーチャーした、美しいバラード曲です。 5曲目「翡翠」は、レゲエ風のリズム取りと和を感じさせるメロディーラインのマッチングが面白い曲。 タイトなドラミングがいい感じです。 8曲目「月齢17.4」はジャジーでブルージーな粋な演奏に乗って、ダルに歌ってるのが印象的。 9曲目「百合コレクション」はあがた森魚の楽曲を取り上げたもので、アコーディオンの調べに乗って、どこか寓話的な雰囲気が漂います。 最後を飾るのは、松任谷由美書下ろしの「ウルガの森」。ユーミンらしいきれいなメロディーの曲を、独特のスキャット(囃子言葉?)を交え、バックの演奏はレゲエ調というどこか無国籍的な面白い雰囲気の曲です。 ■このように、いろんなタイプの曲が詰まったアルバムですが、第一印象は不思議と、「自然体」、「オーガニック」といったもの。決して凝った印象は与えません。彼女の声もとてもリラックスしているように聴こえます。何の先入観もなく聴きたい、とても素敵なアルバムです。 |
◇◇◇ 有里知花 / トレジャー・ザ・ワールド ■話はいきなり脱線しますが、70年代の洋楽が好きだった頃は、バックにどんなスタジオ・ミュージシャンが参加しているかとか、どんな曲をカバーしているかで、あとはジャケットの雰囲気とかで、知らないアーティストのアルバムを買い込んだりしたものです。 有里知花は81年生まれ、現役大学4年生だそう。 プロデューサーに山弦の小倉博和ら、楽曲提供で大貫妙子、佐藤竹善、宮沢和史らが参加とくれば、なんとなく音が見えてきそうですが、極めつけが2曲目のカバー曲「Such A Beautiful Feeling」。 Eric Kazが現在Little Featに在籍するCraig FullerらとAmerican Flyerというバンドを結成していた時に、76年のファースト・アルバムで発表した曲です。 ■全体を包むおだやかな楽曲は、何のてらいもないですが、寛いで聴くことができます。 エレクトリック・ピアノの甘い音がいい雰囲気の「それぞれの浜辺で同じ月を見ている」がお気に入りです。 ボーナス・トラックで「TSUNAMI」のカバー曲収録。 |
◇◇◇ Cyndi Lauper / The Essential Cyndi Lauper(推薦!) ■なんだか急に聴きたくなって買いました。彼女のベスト盤は何種類が出ていますが、こちらは今年の7月に出たばかりのもので、値段も日本盤で1,785円と安くてお得。 ■収録曲は全部で14曲(日本盤はボーナストラック+1曲)。デビューの1983年から1996年までの楽曲が順不同(?)に収録されていて、中でもデビュー作“She's So Unusual”からの楽曲が6曲とダントツに多いのですが、「Girls Just Want To Have Fun」にしても「Time After Time」にしても、今聴いても勢いがあり色褪せないいい楽曲がいっぱい詰まっています。 こうして聴くと彼女の声はかなり変化していて、1996年の「Sisiters Of Avalon」ではStevie Nicksみたいに声が低くなっていて驚いたり。 彼女の声の持つ表現力、力強さであったり優しさであったり、は黒人音楽に通じるものがあるように思うのですが、どうでしょうか。 個人的には3曲目に挿入されている「Who Let In The Rain」が大好き。1993年発表のアルバム「Hat Full Of Stars」からのカットで、男女のすれ違いによる悲しい別れが、判り易い言葉でしっとりと歌われています。 |