*2000年夏*

上松美香 / イノセンシア
イノトモ / 風の庭
上田まり / coronet



8月
鈴木朋 / 手のなるほうへ
アルバムジャケットが地味、というか、中身の音楽が想像しにくいアルバムジャケットでちょっと損をしている気がしますが、これがなかなかの佳作なのです。久々に元気が出るこれぞポップという歌を聴いた気がします。
彼女の独特な声、歌い方、また彼女自身の弾く、男性的でジャズの影響も見え隠れする力強いピアノタッチが、矢野顕子を思わせる瞬間もあるのだけど、2曲、3曲と聴き進むうちともうすっかり「鈴木朋」の世界。また、矢野顕子に感じるようなかしこまったところがなく、リスナーの目線に近い音楽に好感度大です。表題曲である3曲目「手のなるほうへ」は名曲!ボーナストラックを除く全曲が彼女の作曲、作詞もほとんど彼女が手がけています。ボーナストラック扱いの「小さな花」(「ポポロクロイス物語2の主題歌らしいです。ぼくは知らないですけど^^;)が佐橋佳幸というのがまたおいしい人選。
種ともこのシリアスな部分に共感できる人にお勧め!

7月
イノトモ / 風の庭(特薦)
イノトモ、もぉぅ、最高!女性シンガー・ソングライター、イノトモのフル・アルバム2作目は、いい意味でとってもフォーキー。どうしてこの人はこんなに優しく素朴な歌が作れるのだろう。どうしてこの人はこんなに温かい眼差しと温かい声で歌えるのだろう。ふわふわそよそよしたファニー・ボイスは一度聴いたら忘れられないほど素敵。全曲彼女の作詞・作曲。
実はCDジャーナルという雑誌の8月号に岩田祐未子さんというライターが素晴らしいレビューを書かれているので、もうそちらを読んでください!という感じですが(機会があればぜひ読んでみてください)、ぼくなりに曲の感想などを書いてみたいと思います。
1曲目「星と花」からゆったりした彼女らしい曲。ふわふわした甘いファルセットにのっけからやられ、彼女の世界に引き込まれます。
2曲目「キミノウソ」は古っぽいエレピの音が60年代〜70年代の雰囲気を漂わせて懐かしい、サザン・ロック調の曲。
3曲目「タンポポ」は裏打ちギターが先導する、彼女には珍しい軽快でうきうきした曲。先行シングル・カット曲でもあります。
4曲目「風の行方」は6拍子の曲。メロディーやリズムのタッチがボブ・ディランを彷彿とさせます。
5曲目「まあるい日々」はエレピとブラシ・ドラムと最小限の音をバックに、独り言のように訥々と歌われる、6拍子のメロー・サザン・バラード。途中からオルガンも入って。渋いっすぅ。
6曲目「後悔」もさらに渋く幾分シリアスな曲。「♪君にもっともっと優しくすればよかった」という詞もせつなく、消え入りそうなファルセットが胸を締め付けます。
渋い曲が続いた後、8曲目「坂道」はアコーディオンやペダル・スチール・ギターをフィーチャーした、愛らしいカントリー・タッチの曲。
そして、アルバムはラスト「むかえにゆくよ」で静かに、静かに、優しく終わります。ちょっとデビュー当時のトム・ウェイツを思い出したりして。
「♪駅までの街灯を数えながら迎えに行く/きっとキミは、少し照れて、そっけない顔をするのでしょう。」
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上田まり / coronet
上田まりさんのシングルヒット曲「待ちわびた休日」を含む、3rdアルバムが発表されました。1stが6曲入り、2ndが7曲入りだったので、フル・アルバムとしては意外にもこれが初めてとなります。
本作も全曲彼女の書き下ろし、沼澤尚、佐橋佳幸といった名うてのミュージシャンがバックを手堅く固めます。
本作も全曲ミディアム・ナンバー。どこまでも穏やかでまろやかな、彼女ならではの世界が広がります。彼女の前では、時間がとてもゆっくり過ぎて行くような、そんなアルバムです。
また、彼女の書く詞は、誰でも感じるごく些細な悲しみ、すれ違い、優しさを判りやすく歌っていて好感が持てます。
ざくっとしたリズムと起伏のある節回しが面白い「face」、サビの最後のフレーズがどことなくボブ・ディランの哀愁を感じさせるメローなバラード曲「もうあなたの車には乗らない」、キャロル・キングを思わせるライト・ソウル感覚が新鮮な「あなたに会う日の雨」、オルガンの音が心地よいワルツ・ナンバー「少し届かない秘密」収録。
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加藤いづみ / bossa
毎日暑いですね。いかがお過ごしですか。こんな季節にぴったり、爽やかでなごみの1枚をご紹介しましょう。加藤いづみさん1996年リリースの旧譜です。
タイトルは『bossa』。別にボサノバ集という訳ではありませんが、傑作との声も高い『skinny』と並ぶ、隠れた名盤ではないでしょうか。またこのアルバムは、デビュー以来ずっとプロデュースや曲作りで関ってきた高橋研さんとの最後のコラボレーションとなりました。
ミディアム・アップテンポの「私の中のたくさんの私」でアルバムは幕をあけます。転調がなかなかおしゃれ、ひとりオクターブ・コーラスもいい感じです。
2曲目はレゲエとスカの中間のような曲「とても長い夜」。うねる後乗りベースとラテン・パーカッションが雰囲気を盛り上げます。「♪悲しくて、悲しくて、悲しくて〜 / 悔しくて、切なくて、許せなくて〜」というリフレインが印象的。これはいい曲です。
3曲目「ブルーレター」は彼女の作曲。彼女らしいシンプルなワルツ・ナンバーです。
4曲目「ジェニーの片想い」はウォーキング・ベースをフィーチャーした軽快なライト・ジャズナンバー。
5曲目は軽いタイトルとは裏腹に、渋く落ち着いたギター・カッティングが印象的なナンバー「カンパリソーダと7号線」。メロディーも切なくてこれもいい曲。
6曲目「もう一度」はピアノと途中から入るバイオリンだけをバックに歌う、しっとりしたバラード・ナンバー。
もうひとつの彼女のオリジナルである9曲目「セント・ジュディのほうき星」はバート・バカラックを思わせる曲調です。
ラスト・ナンバー「マリアージュ」は再びドラム・レスのしっとりした雰囲気の曲です。
このアルバムのあと1997年発表した「Sad Beauty」では、上田ケンジをフィーチャーして時には激しくざらついた質感を提示した問題作となりましたが、VAPに移籍した最新作「spring-a-ring-a-ring」では再び優れたバランス感覚のアルバムになっています。
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加藤いづみ / Sad Beauty(推薦)
で、今月上のアルバムと同時に買ったのが、1997年発表のこのアルバム。
1曲目「愛について」が、ノイジーなギターをフィーチャーしたハードなイメージの曲なので、つい先に「問題作」なんて書いてしまいましたが、−確かに第一印象は夏向きの「bossa」が耳に馴染んだのですが、−実はいろんな曲が詰まった幾分シリアスな雰囲気の味わい深い作品集でした。
シンプルながら渋い味わいのシングル・カット曲「木枯らしを抱きしめて」、落ち着いた胸に沁みるバラード曲「あの日あの場所で」、彼女の書き下ろし曲としてはもっとも異色の「泳ぐ。」、マイナーの引きずるようなリズム取りとたゆたうようなボーカルとアコーディオンが独特な「ふたりだけ」など印象的なナンバーが並びます。
特に気に入ったのが、カーネーション(ぼくはこのバンド自体は聴いた事はないですが)の直枝政太郎の書き下ろし曲「I Love You」。ルーズなリズム隊、カウベルのカウント、ブルージーなギター・リフ、半音フラットするブルージーな歌い方がかっこいい!ロック・スピリットを感じます。
ラストは、マイナー調のボサノバながら、シンプルな演奏が暗くなり過ぎない「Crime」で余韻を残して終わります。
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Little Feat / chinese work songs
ロスのサザン・フィーリング溢れるファンキー・ロックンロール集団、リトル・フィート久々の新譜の登場です。今回のアルバム・タイトルはなんと「chinese work songs」。表ジャケットには漢字で「中國工作歌」という文字が見えます。ぱらぱらと歌詞カードをめくると、メンバー全員の名前の漢字訳が書いてあるという念の入れようです(笑)。
1曲目はなんとThe Bandのカバー曲「Rag Mama Rag」で始まります。この曲、The Bandのバージョンはへろへろしたすっとこどっこいな演奏であんまり好きではないのですが、彼らの手に掛かると、なんとファンキーでかっこいいことか!こんなにニュー・オリンズっぽい曲だったんですね。
2曲目「eula」もずっしりしたセカンド・ライン全開の泥臭い曲でかっこいい。
ただ、3曲目以降は相変わらず、って感じかな。表題曲はかなりやかましいへんてこりんな曲です…。
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Juliana Hatfield / Little Creature(推薦)
オルタナ系シンガー・ソングライター、Juliana Hatfieldが二枚同時新譜発売しました。そのうちの1枚がこのアルバム。
彼女はハードな曲を歌ったかと思うと、少女のようなかわいらしさを覗かせたりと、なかなか気になる存在のシンガー。このアルバムはそんな彼女の柔らかい面、フォーキーな面が色濃く出たなかなかの好盤です。
何の先入観も無しにこの2曲目「Close Your Eyes」を聴いてみてください。アコースティック・ギターとウッド・ベースをバックに、頼りなげでとつとつと歌う彼女の声に、きっと感動すると思います。胸を締め付けるようなメロディー・ラインが泣けます。他の曲も佳作揃いですが、この1曲だけでも買う価値ありです。
日本盤にはポリスの名曲「Every Breath You Take」のカバー曲収録!
なお、同時発売の「juliana's pony :total system failure」は、のっけからぎゅるぎゅるギターがあばれ、雄叫びをあげるグランジ満載のアルバムです。これもまたもうひとつの彼女なのですね。
(輸入盤では、2CD+ボーナス・トラックやスクリーン・セーバーが入ったエンハンスト・CDがセットになった初回限定パックあり。まだあるかどうか判りませんが。)

6月
上松美香(あげまつみか) / イノセンシア
弱冠17歳、若きアルパ奏者、上松美香のデビュー・アルバムです。
アルパとは聴きなれない楽器名ですが、パラグアイなどに伝わる楽器で、上の写真で見られるようにハープに似た楽器ながらずっと躍動的で力強い、またポピュラーな音のする楽器です。アルパという名前を知らなくとも、コーヒー・ルンバやJackson Browneの「Linda Paloma」を思い描いて戴ければ、だいだいどんな音色か想像して頂けるのではないでしょうか。
彼女はアルパ奏者の両親を持ち、堀越学園(!)に入学するも1週間で中退し(!!)、アルパを極めるべくパラグアイに旅立った(!!!)という経歴の持ち主。
もっともアルパは元来男性が弾く楽器らしく(中国のニ胡、日本の尺八みたいなものでしょうか)、最初は快く迎えられなかったようです。
収められた曲はパラグアイの曲、クラシックのアレンジ、自作曲、作曲家である実兄が書き下ろした曲など。しっとりした曲も趣深いですが、ぼくはやはり中南米色が濃厚で躍動的、超絶技が炸裂する10曲目以降がとても気に入りました。
先の「コーヒー・ルンバ」(ただしこれパラグアイではなくベネズエラの曲、地球儀で見たら結構遠い^^ゞ)
も収録されています。
ラストの夢見心地で優しくチャーミングな3拍子のバラード「遠いあなたへ」が最高!