*2000年秋*花*花 / 2 Souls

Victoria Williams / Water To Drink

遊佐未森 / small is beautiful




11月
遊佐未森 / small is beautiful(推薦!)
日本の音楽つづれ織り職人、遊佐未森さん久しぶりのニュー・アルバムです。
聞くところによると、体調が思わしくなかったらしく、海辺に引越しして休養していたようです。
そして生み落とされたアルバムは、いつになく余分な音を削ぎ落とした、ゆったりとした空気と音に彩られたアルバムとなりました。アルバムデザインも拍子抜けするほどシンプル。
アルバム・タイトル(1曲目のタイトルでもあります)は、small is beautiful。
little thing is beautifulではなく、simple is beautifulでもなく、small is beautiful。
ちっぽけなことが美しい。実に今の彼女の歌心を感じさせる言葉じゃないでしょうか。
さらりとしているけど深く、クールだけど暖かい、遊佐さんの音楽。
音的には、曲によっては、桶太鼓や締太鼓、バグパイプやアコーディオンやアフリカン・パーカッションが入っているとか宣伝文句になりそうな要素もあるのだけど、決して楽器が音を主張するのではなく、「歌」というひとつの音としてそこに存在しています。とても控えめに。
全12曲。うち3曲のインストと、限りなくインストに近い1曲が、独特の彩りを − 時にはひんやりと、時には暖かな時間の止まった海辺を眺めているような − 空気を運んで来る。
1曲を除く全曲の作曲と、インストを除く全曲の作詞を彼女が書き下ろしています。
心をかき乱すことの無い心地よい音に、ある人はBGMのように流して楽しむかもしれないし、ある人はそこにある音に心打たれ涙するかもしれない。そんな、聞き手の心に寄り添うような音楽です。
◇◇◇

Jenka / home ie where the heart is
かっこいい。イントロの枯れたドブロ・ギターのスライド・プレイと突んのめりファンキー・リズムにのけぞるオジさんがきっと10人はいるはず。ぼくはThe Allman Brothers BandのPony Boyかと思っちゃいました。
なんていう余談はさておき。歌の主人公Jenkaはなんでも今まで英語詞で歌ってきた人で、このニュー・アルバムは初の日本語アルバムだということです。ぼくはこれしか聴いていないので較べることはできませんが、大正解だと思います。
巻き舌のファニー・ボイスはCharaをもう少しハスキーにWyolica寄りにした(?)ような感じで、歌い方を含め多少好き嫌いがあるかもしれませんが、ぼくはかなり好きなタイプです。
全曲彼女のオリジナル。
ぼくはもろR&B志向の歌手より、ソウル・スピリットを持ちながらポップを大切にしているアーティストに惹かれるのですが、彼女も大雑把にいうと後者のアーティストと言えるかと思います。そして彼女の場合、その音楽性はかなり幅広いと言えましょう。
先述の1曲目「Buttercream」はファンキー・アンド・ブルージーでざっくりしたノリ一発な勢いがかっこいい曲。ウィリッツァーと思しき古っぽいエレピの音もグー。
2曲目「P.S.」は轟音ギターをバックに、流れるようなメロディーラインのコントラストが際立つ曲。
3曲目「Hush Hush Hush」もアップテンポのファンキーなキレのいい曲。「♪もう1回しようよ、初めからしようよ…」という歌詞が印象的。
5曲目はざっくりした音から一転して、甘く深い切な目のソウル・フィーリングが心地よい曲。この曲のプロデュースはチボ・マットの本田ゆか、ベースはSean Lennonが弾いています。
続く「Exit」は6曲目と12曲目に2バージョン収められています。ぼくはよりディープで黒っぽいソウル・アレンジの本田ゆかプロデュース・バージョンが気に入りました。
再びファンキーに切れこむ「Mint」、渋いマイナー調の「Jelly」、アルバム中では珍しくフォーキーな雰囲気と日本語離れしたフレージングが素敵な「Granata」、いい曲満載です。歌詞はちょっと変わってるけど、ね。
◇◇◇

ACO / absolute live [DVD]
楽屋でメイクをするACO。歌舞伎の隈取のような不思議なメイク。頭にはなぜか鉄腕アトムのような角の付け毛。楽屋からステージへ。無音からざわめきへ。
弦楽四重奏のチューニングの音。おもむろに始まるキーボードの音。1曲目はCDとずいぶんアレンジの違う、トランスっぽい「悦びに咲く花」。まだ、観客はどう反応していいかわからず静止して見入っているようだ。
2曲目はシングル・カットしたヒット曲「哀愁とバラード」。観客から歓声が上がる。
中盤、ACOの真骨頂、「雨の日の為に」〜「今までの憂鬱」とスローでダウナーな曲が続く。この頃には観客はゆるやかに音楽に身をまかせて揺れている。
ここでふっと一息つけるようなライトでスイートな雰囲気が素敵な「Lady Soul」へ。割腹のいいおねえさんのスキャットも素敵。
ほとんどMCが皆無のACOのライブだが、「次はしんみりと『虹』を聴いてください」と短くコメントして始まる、このライブ映像のクライマックス「虹」。アルバム「ヌード」のラストに収録されていた名バラードだ。
弦楽四重奏とピアノだけをバックに全霊を込めて歌い上げる。涙が出そうだ。
さらにバラードが続く。ACOがプロとして認められた記念すべき曲「こわれそうよ」。
次はノリのよい渋い曲調の「SPLEEN」。ACOはMCは殆どしないし、歌っているときもほとんど笑わないので、気難しく神経質な印象を与えるが、ここではバック・コーラスのおねえさんたちと面白い振り付けの踊りを披露していて、ときどきこぼれる笑みがまぶしい。ラストの千手観音のようなキメは必見。
露光を極力抑えた渋い映像が、ACOというアーティストを実直に浮かび上がらせている。いいライブ映像だ。
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PUFFY / SPIKE
前作「JET CD」はとにかくヒット曲満載、ぶっ飛んだプログレ(注:「小美人」)まであったりして、これでもかという豪華絢爛ぶりでしたが、今度は割りと渋めの仕上がり。では、いまひとつかというと、そうではなくて。
なんといってもPUFFYの名付け親でもあるAndy Sturmerの提供曲3曲が強力!。胸にぐっとくるメロディー、ストレートアヘッドなリズム取りもかっこいい「すみれ」、甘酸っぱいメロディーがどこか懐かしいなごみの「さくらの花が咲く甘い甘い季節の唄」は特に名曲。「さくら〜」のリード・ボーカルは吉村由美で、大貫亜美のコーラスもばっちりハモっています。
パワフルなドラミングと元気なノリ一発の「問答無用」「青いリンゴ」もいい曲です。
ちょっとヘビー&ワイルドなDestruction Pancake」は大貫亜美作詞作曲です。

10月
花*花 / 2 Souls(推薦!)
花*花という印象的な名前を持つデュオのメジャー・デビュー・アルバムです。
こじまいづみさんと、おのまきこさんからなる花*花は、全曲オリジナル、おふたりとも声質の違った印象的なボーカルを取りピアノを弾きます。アルバムでは曲によってどちらかがピアノを弾いています。
ぼくはアルバムの冒頭を飾る「あ〜よかった」ですっかりその魅力にはまってしまいました。
なんといっても印象的なのはこじまいづみさんの書く、ゴスペルに根ざしたソング・ライティングです。
もちろん流行りのソウルっぽい曲を創ってみました的なところは微塵もなく、体から自然に染み出してくるメロディーが力強く心地よい。そして、あくまでポップ。歌声はジャケットのように自然体で親しみやすいものです。
1曲目「あ〜よかった」はJeff Beckで有名になったCurtis Mayfield作の「People Get Ready」、古いところでは Van Morrisonの「TuPelo Honey」を彷彿とさせるソウル・グルーヴにぐっとくる名曲。「♪あ〜よかったね、2人でいて」という歌詞がお二人の門出にシンクロしたりします。
2曲目「あくび」は一転してちょっとカーペンターズを思わせるような軽やかなナンバー。
「♪神様 私を強くしてください」という歌い出しで始まる3曲目「祈り」はその歌詞に表れているように、祈るようなソウル・バラード。
ぼくが特に好きなのが5曲目「ずっと一緒に」。6/8拍子・3/4拍子のディープなソウル・ナンバーで、ふたりのボーカルの絡み、本格的なブラス、そしてエンディングに向かって大盛り上がりするボーカル&演奏が素晴らしいです。温かな歌詞も素敵です。
唯一このアルバムでは、おのあきこさんの作となる「HEART」はウォーキング・ペースも軽快なブギ・ロックで、また違った雰囲気を醸し出していて面白いです。
ぜひライブで生に触れてみたいアーティストです。
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西村由紀江 / 風が生まれる瞬間
西村由紀江さんのピアノはいい。
彼女のピアノ・ソロを聴いていて思う事は、自分が日本人でありアジアの人間であることをとても大切に音楽を作っている方なのではという事です。
童謡や子守歌を聴いているような温かな旋律。西洋的なフレーズの中にも見え隠れする感情は、とても日本的だと思うのです。
ピアノというひとつの楽器。その気になればテクニックを激しく披露することもできるし、ジャズやクラシックやいろんな音楽素養をひけらかす事もできるけど、彼女はもちろんそうはしない。
ピアノという楽器を使って、真摯に自分の音楽を伝えること、それこそ彼女の音楽活動のすべてだと思うのです。
テレビ朝日「神様のかくれんぼ 与勇輝の世界」メインテーマ曲「誕生」他、12篇収録。
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鈴木祥子 / Love, painful love
とっつきにくいアルバムではある。前作『あたらしい愛の詩』が久々に佐橋佳幸と組んで、初期のウエスト・コースト風の緻密な音作りに戻っていただけに余計である。
全ての楽器(ギター、ドラムス、ベース、キーボード、アナログ・シンセサイザー、バンジョー、鉄琴など)、歌、コーラス、アレンジ、プロデュースを彼女一人でこなしている。女性の一人多重録音(しかも打ち込み無しのまったくのアナログ)は業界初なんだそうだ。もっとも彼女はデビュー当時から、ドラム、キーボードを弾いていたからそれ自体はそんなに驚かなかった。むしろ、驚いたのは、その音である。
音の感触としては『Snapshots』、『Candy Apple Red』の頃に近い、荒削りなものだ。でも、空気感はずっともっと切迫している。
ふと、思い出したのは、彼女がJohn Lennonの『ジョンの魂』をフェイバリット・アルバムに挙げていることである。確かにこのアルバムにはそんな緊張感がある。
また、今まで薄々感じていた、ナルシスティックな部分が特に詞の面に色濃く出たような気がする。
「わたしの望み」はPuffyの吉村由美に提供した曲のセルフ・カバー、「シュガーダディー・ベイビー」はエレピの音と間が印象的なスロー・ソウル・ナンバー。アルバム中、最もゆったりしたバカラック風の「不安な色のBlue」は彼女の初期のイメージを残した曲である。
唯一のカバー曲は岡村靖幸の「イケナイコトカイ」。この詞を女性が歌うのは意外だが、ピアノの弾き語りで、とてもソウルフルなナンバーに仕上っている。
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the Indigo / Blue (推薦)
インディゴというグループ名、爽やかなアルバム・ジャケット、『いつまでも、音楽が大好きなみなさんへ。』というコピー。これだけでピンときたあなたは、かなり正しい。
インディゴ、待望のフルアルバムの完成です。
インディゴは女声ボーカルと男性ベーシスト+ギタリストの3人組。曲によっては柔らかいオルガンの音が彩りを添える。
その音はどこまでもアコースティックで温かい。表情も豊かで、爽やかな中にも、スローの曲では切なさもちゃんと覗かせる。
イノトモより爽やかで開放的、ヒーコより穏やか。70年代シンガー・ソングライター、アメリカの風がここに蘇る。
1曲1曲の解説なんかやめておこう。
大好き、大好き、大好き…、と10回唱えて、筆を置きたい。

9月
木住野佳子 Yoshiko Kishino / Tenderness(特薦!)
ジャズ・ピアニスト、木住野さん満を期しての入魂のバラード・アルバム!
今までの木住野さんのイメージは、どこか西海岸的というか軽やかで聴きやすく、多少上品過ぎるかなと思うときも個人的にはありました。
しかし、このアルバムはどうでしょう。なんてせつなく、深く、包み込むような暖かさに満ちているのでしょう。
全11曲、うちオリジナルが5曲、カバー曲についてももろジャズというのは少なく彼女の捕われない幅広い音楽性が窺い知れます。
1曲目はトラディショナル曲「Danny Boy」。これ以上優しい音があるかというほどのピアノと静かに盛り上げるストリングスが極上の世界。なんて美しい曲なんでしょう。
2曲目「By the Sea」は彼女のオリジナル。ピアノ・トリオ+木管楽器という組み合わせが新鮮で、ちょっと小野リサさんの世界を思い出してしまいました。
3曲目「Feel Like Making Love」では珍しく、ソロ部分をフェンダー・ローズ・ピアノを弾いていて、これがまたすごく良い感じ。小気味良いリズミックなプレイに新たな驚き。
6曲目「Tenderness」は表題曲にして彼女のオリジナルにしてベスト・トラック!ピアノとハーモニカだけによるシンプルでクワイエットな音。どこか懐かしさの感じるメロディー。もう涙、涙。素敵です。彼女も演奏しながら涙が出そうになったそうです。ハーモニカのTommy Morganは演奏が終わった後に「今まで色々なセッションをしてきたけど、僕はこういう音楽を演奏したかったんだ。」と言ったそうです。
8曲目は余りにも有名なJohn Lennonの曲「Love」。後半のアドリブ・プレイのかっこいいことといったら!できることなら、フェイド・アウトなんかせずに延々10分くらいやって欲しかった!
9曲目「Lullaby」は彼女が日本の童謡をイメージしてつくったという異色のワルツ曲。
10曲目「The Blessed World」もこれまた素晴らしいオリジナル曲。平和を込めてつくったというこの曲、Ernie Wattsの情感豊かなサックスも最高、最後にゴスペル隊も入って壮大に盛り上がります。
ボーカル曲に疲れたとき、ふとした時にもぜひ聴いてみてください。
ポップス・ファンにも絶対お勧めです。
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Victoria Williams / Water To Drink(特薦!)
ぼくはこのアルバムを前にして、今とっても感動しています。
前作「Musings of a Creek Dipper」は内省的でいくぶんとっつきにくい印象のアルバムだったのに対して、今度のこのアルバムのふっきれた優しさはどうでしょう。初夏の窓辺で愛犬と戯れながら優しい風に包まれているような優しさは。気心知れた人と心を込めてつくられた歌たち。本来歌とはこういうものだったことを思い出させてくれる歌たち。
どの曲もシンプルで生成りの暖かさに満ちています。ブラスも入って元気なナンバー「Gladys And Lucy」、カルロス・ジョビンのカバー曲でハミングもやさしいボサノバ・ジャズ「Water To Drink」、落ち着いた土の香りが心地よい「Light the Lamp Freddie」「Joy Of Love」「Lagniappe」、♪しゃび、どぅびどぅび、だん、のハミングも愛らしい夢見るワルツ曲「Chuck」、ヴァン・ダイク・パークスが指揮を取ったジャズ・ボーカル・ナンバー「Until the Real Thing Comes Along」。とても書ききれません。
Victoria、病気なんかに負けないで!あなたにはたくさんのファンがついているのですから。
このHPをいつもご覧になって頂いている方でしたら絶対気に入って頂ける事間違い無しの名盤!ぜひ1枚!