*1999年春*



5月
Faith Hill 「Love Will Always Win」(大推薦)
最近は、中華ポップスにはまった勢いもあって、以前ほどカントリー・ポップを聴かなくなりましたが、今日何気なくCDショップでカントリーのところを眺めてたら、ふとこのアルバムが目に入りました(余談ですが、カントリー・ポップも中華ポップス同様、日本では縮小の憂き目に遭っている気がします)。で、手に取って裏ジャケットを見るなりレジに並んでいたという(笑)くらいのべっぴんさんがこの Faith Hill です。
で解説を読んで二度びっくり、1967年生まれ、再婚して去年めでたく出産したとか。え〜。見えな〜い!!
と、前置きが長くなりましたが、このアルバムはまったくの新譜ではありません。国内で発表されたアルバム「Faith」を世界発売に向けてアレンジをポップにし、また何曲か新曲を追加して発売されたものだからです。
はっきりいってむちゃくちゃいいです。声量、歌の持つ説得力は申し分なく、美しい姿から想像できないくらい強力でハスキーな歌声は本当に素晴らしい。
1曲目「The Kiss」はポップ・シンガーソングライター、Beth Nielsen Chapmanの曲でいきなりパワフルで元気で爽やかな歌にやられます。
映画「Message In A Bottle」に使われたバラード曲「Let Me Let Go」もいい曲だし、続く「Love Ain't Like That」はハーモニカ、オルガン、フィドルがフィーチャーされた枯れた味わいの素晴らしい曲。渋いです〜。涙ちょちょぎれです〜。
ジャニス・ジョプリンの名唱で知られる「Piece Of My Heart」のカバーも本家に迫る素晴らしさ!!ほんとにすごいシンガーです。後はとても書ききれませんがいい曲ばかりです!!
中華ファンには、たとえば蔡健雅あたりを好きな方は気に入るんじゃないかな(Faith Hillのほうがずっとパワフルだけどね)。あと、張惠妹のボーカルに感動した人にもぜひ聴いて欲しいです。ぜひぜひ一家に一枚(笑)。

Texas 「The Hush」(推薦)
Texasはスコットランドのバンドですが、アメリカ音楽に魅せられて始めただけあって、デビュー当初はスライド・ギターをフィーチャーしたバンド・サウンドを志向していました。バンド名は、映画「Paris, Texas」から取られたのは有名な話です。しかし、彼らの音楽が南部ぽかったかというとそうでもなくて、スコットランド・グラスゴーの出身地らしい、どこかひんやりとしたほの暗い音を鳴らしていて、それが独特の魅力でもありました。
そんな彼(女)らも早10年選手、これまでの青臭さ、演奏面でのウィーク・ポイントを排除し新たに走り出したことを感じさせる力作となりました。
Texasの魅力はなんといってもボーカル、シャーリーン・スピッテリの凛とした佇まいのボーカルと、R&Bに根差した素晴らしいソング・ライティングでしょう。それは、日本の近年のポップスに見られる意匠のようなものではなくて、Ben E Kingなどまさに黒人音楽に強く引かれ自分の中で消化してできた音楽だと思います。
バックにある程度打ちを込み使用し、演奏をタイトに力強くしたことによって、彼女のソウルフルな歌はいっそう生き生きとしています。曲も相変わらずいいです。彼女は男の僕が歌えるくらいキーが低いのですが、多くの曲でファルセットやひとりオクターブ・ユニゾンを披露しており、曲をより魅力的なものにしています。今後も数少ない(失礼)日本の一ファンとして応援していきたいと思います。

Taj Mahal 「Blue Light Boogie」
Taj Mahalの新譜は、過去の自己のアルバムや参加した企画アルバムなどからピックアップされたベスト的性格のアルバムのようです。結果は、ライト感覚のブルース、R&Bをメインとしたなかなか親しみやすいアルバムとなりました。
面白かったのは、“Tibetan Freedom Concert”からのライブ音源で、Jessi Colin Youngがかつて在籍していた Youngbloodsの演奏でも知られている(←あんまり知られていないと思うな)「She Caught The Katy」かな。あとは、Lowell George Tribute Albumや、Blues Brothers 2000からの音源なんかも入っています。

原田知世 「Blue Orange Tour」 (VHS)
実は、僕は「I Could Be Free」リリース直後の原田知世さんのライブに行ったことがあります。割と高い年齢の客層にほっとしつつ、さて彼女がステージに登場すると、最前列の女性から「かわいい〜。」の歓声が。後光が射しているというか、本当に光って見えたんですよね。すごいオーラでした。真の芸能人と言うと語弊がありますが、本当にそんな感じがしました。
で本作ですが、タイトルからシンプルなライブ映像を想像して見たら、いきなり「Blue Orange 診療所」なるテレビ・ドラマ風の映像から始まってちょっとずっこけます。以降、曲間にこのドラマが挿入されていて、初めは「クサい・・」と思って見ていたのに、ふしぎなものでだんだん慣れてきて、しまいにはちょっと見入ってしまいました(笑)。さすが女優さんです。
バックはコーラスの女性を除いてすべてスウェーデン一派がサポートしています。前半後半がものすごくはっきり分けられていて、前半はアンニュイな曲が多く、「ちょっと元気がないのでは??」と思っていたら、7曲目「自由のドア」からノリノリの曲が続き一気に盛り上がります。特に「自由のドア」でのダンスはとってもキュート。
そして、オーラスはバラード「シンシア」でしっとりと感動的に幕を閉じます。

ところで、彼女、自転車はまだ余り上達していないみたいです。
コンサートのとき「私、自転車乗れないのにイメージ取りで自転車に乗るシーンがあって。」なんて言っていましたから。

4月
Paul McCartney & Wings 「Band On The Run・25th Anniversary Edition」
....."this anniversary edition of Band On The Run is dedicated to my beautiful Linda and her indomitable spirit" ・・・Paul McCartney.
今、僕はこのアルバムに猛烈に感動しています。
The Beatlesの解散、頂点からあえて駆け下りての一からの再出発、酷評たらたらだったソロ・アルバム(僕は結構好きだけど)、Wings の結成。そして再評価。1973年に発売されたアルバム「Band On The Run」は再び高い評価を得、爆発的に売れたアルバムとなりました。
この「Band On The Run・25th Anniversary Edition」はオリジナル・アルバムに加え、当時を回想した本人、関係者等のインタビュー(故Lindaの正直過ぎるインタビューも収録(涙...))、リハーサル・テイク等を収録したCDが付いています。
爆発的に売れたアルバムであったにも関わらず、レコーディング直前にメンバー2人が脱退、状況も知らずにレコーディングに選んだラゴスは、伝染病が蔓延、スタジオはぼろぼろ、強盗に遭うわで大変な状況だったことを僕は初めて知りました。なのに「大変だったけど、楽しかったよ」とコメントする当たり、ポールの人柄が偲ばれます。しかも、結果こんな温かで素晴らしいアルバムができたのだから。

1.言わずと知れた名曲「Band On The Run」。3部構成になったポール得意のセンスが光る曲。
2.これまた余りに有名なシングルカット曲「Jet」。
3.アコースティックなバラード「Bluebird」。オーバー・ダブされたサックスがすごくいい。
4.シリアスな「Mrs Vandebilt」。ポールはどのアルバムにも1曲はこのような曲を入れている。
5.アルバム中、もっとも強力でイチオシの曲「Let Me Roll It」。この上なくシンプルでブルージー。本人も認める通り、確かにJohn Lennonが書いてもおかしくない曲。鋭角的に切り込んでくるギターが今聴いても斬新。誰がこんなリフ思い付く?
6.一転して軽やかでドリーミーな「Mamunia」。ぼくはずっと人の名前だと思ってたのに、実はラゴスでの悪天候を皮肉った歌だった。名曲。
7.なんとなくThe Beatles時代を思い起こさせる最もブリティッシュ・ポップっぽい曲「No Words」。
8.イギリスや日本のオリジナルアルバムには収録されなかったシングル・カット曲「Helen Wheels」。もろ、ロックン・ロール。
9.「ダスティン・ホフマンがどうやって曲を書くのってって言ったんだ。じゃあ、いますぐできるかと言ってタイムズ誌を持ってきたんだ。で(その雑誌に載っていた)ピカソの話になったんだ。」「まるで子供が産まれる現場を見たようだったよ。だって、一晩経ってとか、遊んでいるうちにとかじゃないんだ。僕が話し終わったらもう彼は曲が出来ていたんだから。」
超隠れた名曲「Picasso's Last Words」。いろんな断片を繋ぎあわせるポールのアイデアがここでも光ります。
10.最後は憂いを含んだマイナー・キーの「1985」。地味ながらこれもいい曲です。

David Sylvian 「Dead Bees On a Cake」
お〜、久々、デビッド・シルビアンがポップ路線のボーカルアルバムを作ってくれました。
ソロ名義としては実に11年振りのリリースです。
なんせ、ホルガー・チューカイと組んでいた頃は「むお〜ぉ、もよよよ〜」という音が延々と40分続く代物だったりして、さすがの僕ものけぞりました。なので、今回のこの音は嬉しい。Rain Tree Crowの頃のように重苦しくないしね。
1曲目「I Surrender」から、落ち着いたリズムに音数の少ないLM楽器、厚くかぶさるストリングスの雲とフルート、深いボーカル、あっという間に彼の陰影のある世界に引き込まれます。
タルビン・シンがタブラで参加している5拍子の「Krishna Blue」、渋い魅力の「Cafe Europa」、メロディー・ラインがとても奇麗なこれまた渋い(途中からオルガンが入って大盛り上がり)「Wanderlust」がとてもいい。
3曲目、5曲目でひしゃげたヘビーなブルースをやっているのにはちょっとびっくり。
また、中にはぶっ壊れた壮絶な曲もありますが、大部分は彼のボーカルを生かした翳りのあるポップ・アルバムに仕上がっています。The Blue Nile, Lloyd Cole, Cocteau Twins, 張亞東あたりが好きな人にはお勧めの、渋い一枚。


3月
Jacqui McShee's Pentangle / Passe Avant
まず、Jacqui McShee's Pentangleという名義にあれっ。クレジットを見てなるほど、このアルバムにはJohn RenbornもBert Janschも参加していない。むしろ、1995年発表のJacqui McShee, Gerry Conway, Spencer Cozensの延長線上にあるといえるでしょう(3人ともこのアルバムに参加している)。なぜPentangleの名を冠する気になったのかは分かりませんが。
音はトラディショナル、フォーク、ジャズ、クロスオーバーの要素を織り交ぜた独特な、クールで渋く硬派な音世界を聴かせます。Jacquiはもうずいぶんおばちゃんになってしまいましたが、優しそうな面立ち同様、デビュー当時と変わらぬ清楚で気品に満ちた歌声を聴かせます。また全篇でソプラノ・サックスが独特の色彩を加えています。
荘厳とも言えるこのアルバムを地味と取るか、痛く感動するかは聞き手の好みによると思いますが、イギリスの翳りのある音を好きになったらじわりと染みてくるアルバムとなることでしょう。
4拍子とも6拍子ともつかないバックに3拍子の歌がかぶさる不思議なアレンジの「The Nightingale」(James Taylor のバージョン"One Morning In May"とはまるで別の曲のよう)、渋い展開の「That's The Way It Is」、アルバム中唯一メイジャー・キーで安堵感漂う「Just For You」などが特に気に入りました。1998年リリース。

John Prine / Lost Dogs + Mixed Blessings
このアルバムは新譜ではありませんし、発売されていたのもぜんぜん知りませんでしたが、王菲のコンサート前に渋谷のTower Recordsで入手、とても良かったので紹介させて頂きます。
1995年発表の本作、まずアメリカン・コミックなジャケットがかわいい。そういえば、確か彼自身が創立したレーベルOh Boy Records(日本語にするとおやおやレコード??)のロゴもとてもかわいい。
どんな感じの音楽かというと、ひとことでいうとRockin' Country。陽気で楽しくて、かつ渋い。ついでに風貌も渋い。オールバックのおじさんです。
特に気に入ったのは、サビ以外はほとんど語り(ラップ、とは言わんでしょう)の「Lake Marie」。いいです。
カントリーっぽい曲自体好きじゃないよという人にはお勧めできませんが、The Bandとか土臭いアメリカン・ロックが好きな人にはお勧めです。James Taylorの娘さん、Sarah Taylorがコーラスで参加しています。

Jonatha Brooke / 10¢ Wings
まず、タイトルがいいと思いませんか?
Jonatha BrookeはThe Storyというデュオ・ボーカル・グループとしてレコードデビュー。たしか、日本でも紹介されていたように記憶しています。彼女曰く、デュオでの活動は充実していたが、創作面では息切れし始めていたという。実質、The Storyではほとんど全曲彼女が曲を書いていて、しかもそれは必然的にデュオで歌える曲としてコーラス・アレンジをしなければならなかったことによる制約もあったのでしょう。
彼女は、デュオ解消を決意、ソロとしてのスタートを切るわけですが、決して順風満帆とはいかなかったようです。
そのひとつは、彼女の音楽に対する生真面目さがあるように思えます。今のところ彼女の最新作である97年発表のソロ2作目(本作)でもそれは言えて、コマーシャルで快活な曲は1曲もありません。でも、決して沈んだ感じではありません。
どの曲もミディアム・テンポ以下なのですが、メイジャー・キーとマイナー・キーの調和が、深く思慮深い雰囲気を与えています。
未だヒット曲に恵まれない彼女ですが、おそらく彼女は方針を変えはしないでしょう。もっと注目されてもいい人だと思います。

遊佐未森 / 庭
ここのところ、アイルランドやスコットランドのミュージシャンとの交流を深め、よりしなやかで唯一無二の世界を作り出してきた遊佐さんですが、本作は久々に日本ミュージシャンによる日本制作で、唯一ミキサーにCalum Malcolmの名前が確認できるのみとなっております。
従って近作で聴けた民族楽器はフィーチャーされていませんが、明らかに、アイルランドやスコットランドのミュージシャンから得たものが、穏やかさを増した音に反映されているように思います。
先行シングルで発表された「ポプラ」、サビも素晴らしい「眠れぬ夜の庭で」、変則3拍子の「火星水路」、聖歌のようなボーカルが聴ける「Little Garden」、珍しくロック調の「ボーダーライン」など、特に気に入りました。
なお、初回のみ特製鉛筆(!)がプラ・ケースの支点のところに付いてきます。

Van Morrison / Back On Top
アイルランドの頑固おやじ、Van Morrisonの新譜の登場です!
80年頃はロック・ビジネスに失望し引退するとか言われ、かなり瞑想的かつ宗教的な音楽に傾倒していました(それはそれで好き)が、80年代後半に入り俄然元気が出て、1989年には「Avalon Sunset」という名盤を発表、「Have I Told You Lately」という名曲を生み出しています。1991年には深淵で感動の嵐を巻き起こす2枚組大作「Hymn To The Silence」を発表しています。
本作は久々に「Avalon Sunset」の流れを汲む、聴きやすく元気なVan節が堪能できます。アップ・テンポでのR&B、ソウルの楽しさもいいし、バラードではやはり本作でも泣かしてくれます。

The Neville Brothers / Valence Street
最初に弁解しておきますと、僕は男性のファルセットって好きじゃないので、Aaronのビブラート利き過ぎな歌い方も苦手でThe Neville Brothersを聴くのは初めてです 。
なんで買ったかというと、1曲目が無茶苦茶良かったからです。
その1曲目「Over Africa」は重心の低いかっこ良すぎるファンクな曲で、2拍目と1拍目にスネアがくる変則ビートが機関車のようにすどどどと押し寄せてきます。
セカンド・ライン(ずんどこ)・ビートのインスト曲「Valence Street」もかっこいい。
珍しいところではRichard & Linda Thompson の「Dimmimg Of The Day」を取り上げていて、なかなか渋い出来です。