*2002年-2003年冬*




路嘉欣 / [イ尓]不[小董]
羅美玲 / 紅色向日葵
江美琪 / 美樂地*Melody




2月
梁靜茹 Fish Leong / 美麗人生 Beautiful(特薦!)
ああ、この人の歌声はどうしてこんなに暖かくて優しく響くのでしょう。
そして、明るくて前向き。美しいジャケットのように、この新譜はいつも以上に伸びやかな音で、柔らかくまた力強く包んでくれる。そんな素晴らしいアルバムを届けてくれました。
1曲「Beautiful」はアメリカン・カントリー/ロック調のからっとした雰囲気の曲。Shawn Colvin辺りに通じる雰囲気でのっけからなかなかかっこいい。蔡健雅の作曲、五月天の阿信作詞で、なんと蔡健雅がバンジョーを弾いています。
2曲目「為我好」は、主打曲で、おまけVCDにも収録されている、ミディアム・テンポのゆっくり盛り上がるバラード曲。聴くほどに味の出るアレンジでだんだん高揚していくボーカルが素晴らしい。なお、VCDのほうはドラマ仕立てで10分以上あり、一瞬バックの音が消えて、梁靜茹のボーカルがソロになる瞬間がはっとするほどかっこいい。
3曲目「第三者」はストリングスをフィーチャーしたゆったりしたバラード曲。
4曲目「美麗人生」もまたさらっとした肌触りの曲。途中で入るコーラスが往年(?)の王菲みたいでなんだか可笑しい。
5曲目は静かな雰囲気のバラード曲「我不害怕」。少し陳潔儀の「我真的愛錯」を思い出しました。
6曲目「[イ尓]還在不在」は軽快なボサノバ・タッチの曲。黄韻玲の作曲ですが、こういう曲調は黄自身が『做我的朋友』の頃得意としていただけに、ちょっと懐かしい。
7曲目「悪性循環」はぼくの気に入っている曲。マイナー調の渋いロック・ナンバー。気合の入ったバンド・スタイルの演奏といい、ファルセットに移る瞬間のメロディーといい歌声といい、ほんとにかっこいい。
9曲目「向左轉向右轉」は軽快でからりとした可愛らしい曲。ロック・フィーリングたっぷりのメロディーやノリがとってもいい。ほんとに素敵な歌手だなあと改めて実感。
10曲目「眼涙的地図」も軽快でノリのいい曲。ここでも前によく伸びるボーカルが素敵です。
ラスト「旅程」は最後を締めくくるのに相応しい落ち着いたバラード曲。切なく、でも悲しみに沈んだ感じはしない前向きなボーカルが曲を盛り上げます。ドラム・レスでストリングス隊をバックにゆったりと歌い上げます。
彼女の数あるアルバムの中でも、この5枚目(ライブを除く)のオリジナル・アルバムはとにかく素敵な曲ばかりでお勧め。洋楽ファンにもまた広く音楽ファンに、ぜひ聴いて欲しい一枚です。
◇◇◇


萬芳 Wan Fang / 相愛的運氣(推薦!)
フル・アルバムとしては2000年11月リリースの『這天』以来、久々のニュー・アルバムの登場です。
時間を掛けてじっくり作られただけあって、実に丁寧に全霊を傾けて作られたアルバムです。
1曲目「以後」はイギリスのような陰りのある曲。萬芳の声はか細くやや不安定気味にたゆたうように流れる。その危うさとバックの陰影に富んだサウンドが重なり合う。萬芳って、こんな歌い方をする人だったろうかという、新鮮な感覚が走る。
2曲目「不確定」も落ち着いたリズムの静かな雰囲気の曲。作曲者、伍佰らしいマイナー調のバラード曲。伍佰のコーラスも聴けます。
3曲目「相愛的運氣」は陳珊[女尼]のペンによる表題曲。夢を見るようなふわっとした曲調が美しい曲。ハイ・トーンへ移る歌声もいい。
1曲目から3曲目への流れ、全体を包むいつになく繊細な歌声は、ひとつのトータル・アルバムのようでさえあります。
4曲目「知道不知道」は二部構成ともいえる不思議な構成の曲。前半は静かにバラードで始まり、後半で突然オルタナティブな雰囲気に変わります。歌詞も『我知道~』から『我不知道~』のリフレインに変わります。
6曲目「北極之光」は再び陳珊[女尼]のペンによる曲。ここまで、マイナー調の静かな曲が多いのですが、7曲目「月亮公園」はリズミカルで楽しげな曲調が魅力的な小品。最初から最後までずっと7拍子というのも珍しいが、決して奇をてらった感じではなくて、とっても愛らしい曲に仕上がっていて、アルバムの中でいいアクセントになっています。この曲、個人的にとても好きです。
10曲目「自己照顧自己」はゆったりしたピアノとストリングスをバックにしっとりと歌う曲。サビのメロディー・ラインがとても美しく心に残ります。アルバムの最後を飾るにふさわしい余韻の残る曲です。作曲は黄韻玲です。
このアルバムはなんと(初版だけかもしれませんが)全曲分のMTVが曲順どおり入ったVCDが付いています。アクトレスとしても有名な彼女だけあって、演技者としての魅力も光ります。また、ドラマ仕立てのMTVに混じって、アニメーションの9曲目「収信快樂」が、ほのぼのとしてもの悲しいお話が(寒い国に住むうさぎと、暖かい地に住む猿は結局逢えないという展開、だと思う)いい味出しています。

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江美琪 Chiang Mei Chi / 美樂地*Melody(特薦!)
前作から僅か半年余りで届けられた江美琪の新譜は、1995年から2002年に発表された中華ポップスのカバー曲集です。
また、このアルバムはDVDタイプのケースに入っていて、CDとDVDの2枚組になっています。
さて、待望のアルバムの内容ですが、単なる企画アルバムではない、小美の魅力を最大限発揮した、素敵なニュー・アルバムです。
前作はバラードが中心となった静かな印象を与えるものでしたが、この新作はリズムが立った爽やかな曲が多くを占め、久々に快活な雰囲気が全面に押し出されているのがうれしい。
バラードもアップ・テンポの曲も、すべて見事に小美の曲として生まれ変わっていて、緩急織り交ぜた曲の配分も申し分ない。
いい楽曲といい歌い手がいればいい音楽ができることを実感する、そんなアルバムです。
1曲目「最美」は男性デュオ、羽泉のカバー曲。
落ち着いたリズムと爽やかな雰囲気の曲で、さらさらした歌声がとてもよく合う。
ワウワウの効いたギターが素朴でどこか懐かしさをかもし出し、バックでそよ風のように流れるアコーディオンの音も土の香りがしていい感じ。
2曲目「明天愛誰」は容祖兒(ジョーイ・ヨン)の最近の北京語アルバムからのカバー。
ジョーイのバージョンも切なく名唱でしたが、小美はさらにテンポを落とし、かちっとしたリズムとふわりとしたストリングスの間でたゆたうようなボーカルが印象的です。
3曲目「星晴」は台湾で大ブレイクのR&B系アーティスト周杰倫(Jay)の曲。
この曲も1曲目の流れを汲む、さらっとした感触がいい感じ。メロディーも美しく、『♪手を取り合って、一歩、二歩、三歩、四歩、空を望めば、星が一個、ニ個、三個、四個と線を描いていく。』という歌詞が耳に残ります。
4曲目「愛情」は莫文蔚(カレン・モク)のバラード曲。ここでは男性シンガー、張智成とデュエットしています。
5曲目「恰好的寂寞」は順子(シュンズ)のアルバム『Dear Shunza』に納められていた曲。ボサノバ風の爽やかなアコースティック・ギターが印象的な曲です。
6曲目「只有分離」はこのアルバム唯一のオリジナルで、韓国人アーティストが作曲に当たっています。
小美としては珍しくアジア歌謡風の曲(日本風でもある)で、歌い上げてしまうと重くなりそうなところですが、彼女が歌うと不思議と演歌ぽくなったりしません。
7曲目「他一定很愛[イ尓]」はシンガポール出身で既に2枚のアルバムを発表している阿杜の曲。
ゆったりしたテンポのバラード曲です。
8曲目「靜止」は中国のパンキッシュ・バンド、花兒の曲で、楊乃文のカバーでも有名な曲。
勢いの有るバンド・サウンドが小美のきりっとした歌い方に良く合っていて気持ちいい。
久々のロック・サウンドがばっちり決まっている。
続く9曲目「秘密」はやはり、ロック・テイストが魅力の張震嶽の曲から。
バラード風に静かに始まって、Bメロで一気に盛り上がる構成で、間奏のギター・リフもヘビーでかっこいい。
10曲目「擁抱」は台湾のロック・バンド、五月天のナンバーから。
サザン・カントリー風のメローで土臭い雰囲気がとてもいい。maj7ので降りてくるコード進行とささやくような歌い方が、夢心地な気分にさせてくれる。
ラスト「春光乍洩」は黄耀明の曲で、明るく寛げる雰囲気のミディアム・テンポの曲です。
DVDは2ndアルバムの頃の溌剌とした姿から、現在までのライブ映像を収録。
こちらはオリジナル曲に混じってカバー曲は3曲。五月天のカバー「志明與春嬌」では、初めて台湾語を披露しています。

1月
羅美玲 Mei Ling / 紅色向日葵(推薦!)
赤い髪が印象的な羅美玲は、3000人が参加した歌謡コンテストで優勝した人だそう。
アルバムジャケットの印象から、ひょっとしてダンス系の人かとも思いましたが、実際聴くと全然そんなことはなくて、ミディアム~スローの曲を中心に、落ち着いた歌を魅力的な声で聴かせるシンガーだとわかりました。
1曲目「紅色向日葵」。ふくよかなピアノで始まるバラード。サビのメロディーといい、程よくハスキーで温かみのある歌声がとてもよく合う。1曲目からとてもいい曲。
2曲目「愛一直閃亮」もゆったりしたバラード。やはりここでも落ち着いた歌と演奏が耳に残ります。
3曲目「愛情走過以後」は特に好きな曲。1,2曲目の流れを汲むバラードですが、『[イ尓]不説、[イ尓]不看、[イ尓]不問~、/怎麼説、怎麼做、怎麼看、怎麼放、怎麼去~』というフレーズ、それに呼応したピアノのリフレインが素晴らしい。
4曲目「懐念幸福」は趣を変えて、メローな雰囲気漂うミディアム・テンポのソウル・ナンバー。
このあたりの曲の配列もとてもグッド。
6曲目「為冬天寫的詩」もまた名曲。言葉を詰めた歌いだし、サビに入って少しマイナー調になるところなど、ストリングスとピアノのバックも相まって、趣深い曲です。
7曲目「我不哭」はアコースティック・ギターの音が印象的な、これも美しいメロディーの曲。ファルセットになるときの歌声が美しい。この曲のみアレンジは黄韻玲が担当。
8曲目「的應期」はボサノバ風のギターが軽快で、かわいらしい曲。
9曲目「愛情不只是」は爽やかなギター・ロック。跳躍のあるサビのメロディーをひらひらと歌いこなす軽やかな歌い方もよい感じ。
ラストの曲「方向」はスケールの大きなバラード曲。全体に漂う北欧的な雰囲気が気持ちいい。


12月
路嘉欣 Jozie Lu / [イ尓]不[小董]
今年最後のご紹介は、台湾の新人シンガーの路嘉欣のデビュー・アルバムです。
現地では2002年9月5日に発売されたもので、裏ジャケットを見ると、眼の当たりがaikoと似ていなくもない感じです。
全体的には、奇をてらうことのないシンプルでざっくりした生音勝負のポップ/ロックな仕上がり。全面プロデュースをしている陳偉の手腕でしょうか。
筋の通ったしっかりした歌い方と声質は、デビュー当時の江美琪と少し似ています。そういえば、江美琪のアルバムでも陳偉は活躍していますね。
1曲目「[イ尓]不[小董]」は、GoGo&MeMeを思わせる、爽やかなポップ・ソング。歌詞がゆっくりでキャッチーなので親しみやすく、一緒に歌いやすそうです。
2曲目「黑色天空」はマイナー調の曲で、重心の低い落ち着いたリズム隊とエレクトリック・ギターの音が印象的。
3曲目「我不能飛」はしっとりとしたバラード。サビのメロディーがきれいな曲です。
4曲目「病」は、Tori Amosを思わせる、ピアノと憂いのあるメロディーが印象的な曲です。
5曲目「窗外」は6拍子のゆったりした曲。バックで流れるティン・ホイッスルのような音も趣深い。
8曲目「[口牙]呀[口牙]呀呀」はたゆたうようなメロディー・ラインが切なげな曲。作曲には彭靖惠が名前を連ねています。
9曲目「彩色冰棒」は8ビートの軽快な曲。この曲は、江美琪のアルバム『想起』でも「泡泡糖」を提供していた日本人アーティスト小津坂元さんの作品を取り上げたものです。

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梁詠琪 Gigi Leung / 魔幻季節
快調にリリースを続けるジジ・リョンのこれは10月に発表された國語(北京語)盤。
いろんなバージョンがあって、収録曲やおまけやジャケットが違ったりするのですが、今手許にあるのは、基本となる北京語曲10曲に広東語バージョン3曲を加えた香港版です。
余談ですが、ジャケットはスイスで撮影したらしく、-18℃と書いてあるのに、ジジ、ノー・スリーブです。
このアルバムでも、最近の彼女の作風である、アコースティックで爽やかな持ち味が生かされた作り。
特に台湾版では1曲目に当たる表題曲「魔幻季節」はとても魅力的な曲。サビの起伏のあるメロディーはとてもキャッチーで爽やか。スイス政府旅遊局2002年テーマ曲。
続く「緊急的眼涙」は静かなバラード曲。作詞はヴィヴィアン・スーで、詞の一部で「♪行かないで~」と日本語で歌っています(歌詞カードはその部分が空白になっています)。
「左手無名指」は切ないバラード曲を得意とする陳曉娟の作曲。ピアノをバックに切々と歌います。ピアノを弾いているのは洪[竹/均]惠。ちなみに無名指とは薬指のこと。
「唇語」は梁詠琪の作曲。ゆったりしたメロディーの曲で、何重にも重なるコーラスが効果的です。