*2001年春*

黄湘怡  / 等(紙ケースのバック・フォトより)
彭羚 Cass Phang / 給Lisa(インナー・フォトより)
黄小楨 / 黄小楨2




5月
洪[竹/均]惠 Jennifer / 在一起。Happy Together(推薦!)
惜しくも現在はCD制作業から撤退してしまった友善的狗レーベルが1999年11月に発表した作品。
Jenniferはソロとしては知らない方も、黄韻玲との「四手聯弾」シリーズや、作曲者・編曲者として、またキーボーディストとして目にされた方は多いのではないでしょうか。
作曲およびピアノ、キーボード、アコーディオンの演奏はもちろん、プロデュースも自ら当たり、2曲ではボーカルも披露しています。
1曲目「自由自在」はラテン・タッチのどこか懐かしさ漂うフュージョン・ナンバー。ギター~ピアノ~ベース~オルガンのソロ回しも有ったりしてとっても楽しそう。
3曲目「You'll never know」は孟庭葦への提供曲「喜歓自己」のピアノ弾き語りバージョン。
なおこの曲は、黄韻玲とJenniferのアコーディオンをフィーチャーした“温暖冬夜”バージョンが、ボーナストラックとして最後に収められています。
4曲目「奇語白雲」は弦楽四重奏をバックに弾き語りを聴かせる穏やかな中華ナンバー。Jenniferの声は暖かく押し付けがましくなく訥々とした風情が魅力で、黄韻玲に似た趣があります。
最大の聞き物は6曲目「在一起(台湾民謡8部曲)」。副題から判るように台湾の民謡を、ボサノバタッチにアレンジしたナンバー。柔らかな旋律を時にはピアノが、時にはギターが、時にはアコーディオンが奏でます。よく聴くとかなり緻密なアレンジが施されていると思われますが、小難しいことは微塵も感じさせない、愛情溢れる演奏に心を打たれます。(ちなみに原曲は六月茉莉+望春風+河邊春夢+雨夜花+補破網+港都夜雨+月夜愁+四季紅。)
続く「想不透」はアルバム中最もポップス/ロック色の強い軽快なナンバー。
「老朋友的方式」はピアノの弾き語りによるしっとりした素敵なナンバー。「♪我[イ門]都知道、我[イ門]永遠不放手」という歌詞が印象的です。
とてもいい気持ちになれる余韻の残るアルバムです。
◇◇◇

心微 Xin Wei / 背對的詩
簡素なイラスト画が気になって、いわゆるジャケ買いしたのですが、シンガポールの女性シンガー・ソングライターのファースト・アルバムだそうです。
アコースティック・ギターを主体としたシンプルで風通しのいい音、どちらかというと静かで伏目がちの雰囲気は、少し陳綺貞を思わせます。また好きなアーティストとしては蔡健雅の名前を挙げています。
彼女の歌声は、か細くどちらかというと不安定なのですが、それゆえどこか切なさの漂う声です。
1曲1曲が強烈なインパクトがあるわけではありませんが、全体を通して落ち着いて聴けます。
ベースの音だけで始まる「習慣[イ尓]了」はちょっと戴佩[女尼]の雰囲気。またこの曲は金木義則さん始め日本人ミュージシャンが演奏を務めています。
ブラシ・ドラムのストロークで始まる、浮遊感漂う「三秒鍾的決定」、甘いスライド・ギターの音が静寂に溶け込む「有一天」など、いい雰囲気です。何度も聴くとまた違った面が見えてくるかもしれません。
◇◇◇

楊乃文 Faith Yang / 應該(推薦!)
1曲目の表題曲「應該」がもうむちゃくちゃいい。
空間を包み込む素晴らしい音のストリングスに導かれて、シンプルで落ち着いたリズムが始まります。
メロディーラインもこの上なくシンプルで、[ Cmaj7-〃-Fmai7-〃-Dm7-〃-Cmaj7-〃] と [ Fmai7-Dm7-Cmaj7-〃] のふたつの繰り返しのみなのだけど、楊乃文のたゆたうような、たおやかな歌が素晴らしく、何か美しい夢を見ているような曲です。6分12秒と比較的長尺で、聴き終わった後も余韻が残ります。この素晴らしいストリングス・アレンジは金木義則さん、作詞作曲は陳珊[女尼]。
2曲目「祝我幸福」はギターと竪琴のみをバックに歌う静かで美しい曲。ぼくは初めて聴く曲ですがひょっとしたら古い曲なのでしょうか、滑らかな中華メロディーが美しい曲です。
6曲目と9曲目に陳綺貞の書き下ろし曲があるのもうれしいところ。相変わらず彼女の作る曲は、アコースティックで柔らかく、楊乃文のちょっと芯のある声で歌うとまた優しさが増すようです。
ファーストからのコンビである林[日韋]哲の曲「Queen」のように、ファーストの雰囲気を残すクールでハードなロック色の強い曲も入っていますが、今は静かサイド(?)の楊乃文の魅力にはまっております。
彼女の英詞による自作曲「Surrender」も収録。
◇◇◇

黄小楨 Huang Xiaozhen / 黄小楨2(特薦!)
前作からおよそ3年のブランクを経てようやく届けられたセカンド・アルバム。
理由は不明だが自作曲のすべてが英語詞であり、他の中国語詞の曲もかなり英語が混じっている。
それにしても、これほどまでにストイックで、商業主義に捕らわれない裸の音楽をぼくはほとんど聴いた事がない。
Guitar黄小楨/Drums野村修/Bass金木義則というトリオの布陣を軸にして、恐ろしいほど余分な音がない。ギターはアコースティック・ギターを主体にエレクトリックも弾き分けている。
大雑把にいうと、欧米のオルタナ・ギター・フォークロック色のにおいがする音楽で、曲によってはかなりぶっ飛んだ部分もある。だけどもそれが心地よく聴こえるのは、メロディーラインがちゃんと立っていて、ギターも決してノイジーに過ぎることなく歌を引き立てていること、そして彼女自身の体温低めでダウナーではあるけど綺麗な多重ハーモニーを聴かせる歌声のなせる業であろう。とくにスローな部分では彼女の声はとても美しい。台湾のJuliana Hatfieldといえるかもしれないし、陳珊[女尼]の「四季」あたりの音をもっと突き詰めていった感じもする。
派手さは全く無いので、多分、失礼だけど大きくブレイクするとは思えないアルバムだけど、これはすごいと言ってしまいたい。
◇◇◇

蔡健雅 Tanya Chua / 相信 I Do Believe(推薦!)
「あれっ?」これが、このアルバムを最初聴いたときの率直な印象でした。
彼女の持ち味はアメリカン・ロック/フォークに根ざした土臭い自作曲にあると思っていたので、先の印象になったのです。ここで聴かれる彼女の歌はとてもゆったりしていて、ソフト&メロー。
インナーには彼女のこんな言葉が(英語で)記されています。
「2000年はアルバムのプロモートのために新しい街を旅することで費やした。曲を書いて、演奏した。蜂のように忙しかった。しかしおかしなことに忙しさの中で、私は何か空しく、私は誰か、私は何をしたらいいか、見失いそうになっていた。音楽の競争社会の中にいるのは場違いなのではないかと…。」
「このアルバムは新たな信念(相信)のすべてです。」
1曲目「相信」はそんな彼女の思いが込められているのであろう、ゆったりした美しいバラード曲。
丹誠な歌声が今まで以上に魅力的です。
なお、ラストにやんちゃな彼女の面が覗くファンキー・バージョンも収録されています。
2曲目「可以愛[イ尓]真好」はフォーク・ロック色の快活な曲です。
3曲目「WHY」は、どこかドリーミーでふわりとした雰囲気が最高。新しい彼女の魅力を感じました。
4曲目「衝動」は蔡健雅のソング・ライティングの素晴らしさ全開の曲。切れのいいリズムと躍動するサビのメロディーがむちゃむちゃいい。この3曲目~4曲目の流れは特に好きです。
控えめなムーグ・シンセの旋律もいい味出しています。
5曲目「Day & Night」は、珍しくアダルトなソウル雰囲気漂う、ちょっと翳りもある曲。
6曲目「跟[イ尓]借的幸福」は曲作りは他人の手に委ね、ボーカルに専念、彼女の名唱が聴ける入魂のバラード曲。
7曲目「女人的話法」は一変して、ブラス・サウンドが入ったファンキー・ナンバー。彼女の今までの持ち味である、少しダルでルースな歌い方が堪能できる曲です。
8曲目「不[多句]完美」はそよそよとした軽さが新しい、かわいらしい曲。
9曲目「變賣」は、なんとペダルスティール・ギターをフィーチャーした、スロー・カントリー・バラード。
この曲も大好き、素晴らしい!。較べるわけではないけどEaglesの「ならず者」に並ぶ名バラードです。
まるでサンディエゴ・サンセットが見えるよう…。(歌詞はそういう詞ではないのだけど)
あらためて自分を見つめ直した彼女がどういう方向にいくのか、いずれにしてもこれからも素晴らしい歌を届けてくれるに違いありません。

4月
彭羚 Cass Phang / 給Lisa
キャス・パンの新譜は、前作の水中写真に続き、今回も美麗写真満載です。
EMI時代のショート・カットより、ロングヘアーのほうが似合っていますね。
彼女の歌唱力の素晴らしさは、1996年のライブを聴けば一目瞭然(あのMinnie RipertonのLovin' Youのスキャット部分をオクターブ下げずに歌っています)なのですが、Sony移籍後はいい感じで力が抜けて、さり気ないながら美しいボーカルにますます磨きが掛かってきました。
出産後第2弾、國語アルバムとしては第1弾のこのアルバムでも、そんな彼女を象徴するような、穏やかで美しい曲「給Lisa」で始まります。ささやくようなボーカルが堪能できます。
2曲目「躱不開的快活」は一転、エッジの効いたロック・ナンバー。こういう勢いのある曲も、彼女には良く似合います。香港版には、ボーナストラックとして、この曲の粤語版「美人駕到」が別アレンジで収録されています。
3曲目以降は割りと穏やかな曲が並んでいます。
そんな中9曲目「吻我」はピアノとストリングスがオールタイム・ジャズのような雰囲気を醸し出している、美しい曲。昭和初期の和製ジャズのようなメロディーラインが綺麗です。
「一枝花」や「好好愛」のような大きな変化はありませんが、この穏やかさが今の彼女の心境なのでしょう。落ち着いて聴けるアルバムです。
◇◇◇

張信哲 Jeff Chang / 信仰(推薦!)
ぼくは、洋楽はそうでもないけど、こと中華と日本のポップスとなると、圧倒的に女性歌手を聴く事が多い。女性の声のほうが美しいという意識もあるし、中国語や日本語の言葉の響きが女性の声に合う気がするというのもあるかもしれない。
もうひとつ、台湾の男性歌手の主打曲はなぜか湿度の高いバラードが多い気がする。それが聴いてみようという気を遠のけているのかもしれない。
前置きが長くなりましたが、張信哲は、台湾の押しも押されぬ中堅シンガー。彼もバラードシンガーのイメージがぼくの中では強い人でした。しかし、2回ほど聴いたころから、単なる上手なシンガーではない心に引っ掛かるものを感じたのでした。
それは彼の歌はとても心が落ち着くということです。きれいなハイトーンボイスもさることながら、決して激しい主張をするわけではないけど、すっと肌になじむその音にすっかり魅了されました。
このアルバムは去年の6月に発表された、今のところ彼の最新アルバムです。
落ち着いたアコースティック・ギターの音と彼の美しい歌いだしが印象的な「一定可以」、フラット・マンドリンのような音が軽快な雰囲気を盛り上げている「疑問句」、軽やかさとしっとり感が絶妙の「珍惜」、「阿福」、アルバム中最も軽快で、オルガンのソロも素敵な、ソウルフィーリングの「美麗地平線」がお気に入りです。
全篇、李琪と張信哲自身が引くバイオリンが大きくフィーチャーされ、アルバムを豊かに彩っているのも聴き所です。
◇◇◇

伍思凱 Sky Wu / 想念(推薦!)
おりょ?おりょりょ?なにこれ~、かっこええや~ん。
台湾の男性シンガー・ソングライター、伍思凱の2月リリースのニュー・アルバムです。
彼の歌はベスト盤を聴いて知っていたのみで、それはベストにありがちなバラード中心の選曲になっていましたので、このアルバムもそんなつもりで聴いたぼくは、そりゃびっくり、これはきました。
スクラッチ音で始まる1曲目「異想世界」は、彼のイメージを覆す、ブルージーなソウル/ロック・ナンバー。マイナーな雰囲気がなんとも言えずグッド!いつ歌が始まるのかな~っ、と思って聴いていたら…始まっていました(笑)。ボーカルにイコライザーかけまくりで、気付かんかったよ。何気にピアノ・ソロもかっこ良し。
2曲目「愛情縮影」は、スパニッシュな雰囲気のポップ・ナンバー。
3曲目「窗外」は蕭亞軒への書き下ろし曲のセルフ・カバー。ピアノとストリングスだけのバックで、割とあっさりした感じ。
4曲目「想[イ尓]的天空」がまた素晴らしい、フィンガー・スナップも入った、ソウル・ナンバーです。陶喆もびっくりな、メローな雰囲気とコーラス・ワークが聴きものです。
5曲目「2001的留言」はR&Bスタイルの曲で、李[王文]がデュエットしています。
9曲目は表題曲「想念」。とてもスムースで起伏のあるメロディー・ラインが素敵な、メローなポップ・ナンバー。これはいい曲です。ペニー・ホイッスルとハーモニカ(サンプリング)の掛け合いもまたよろし。
続く「希望在這裡」は弦楽隊やエスニックな太鼓も入ったスケールの大きな曲。
ラストの「只要[イ尓]願意」はしっとりしたピアノ曲。バックに流れるバグ・パイプのような音(Northumbrian Pipe)が郷愁を誘います。
◇◇◇

RuRu / 美麗心情(推薦!)
中国の沈陽市で生まれた、いつも歌を歌っていた歌の好きな女の子は、日本で歌手としてのキャリアをスタートさせました。太陽とシスコ・ムーン、T&Cボンバーを経て、ソロとなった彼女は母国語である中国語シンガーとして、台湾ヴァージンから晴れてデビューとなりました。
1曲目「愛してる(愛上了)」は、ソウルとスパニッシュと中華と日本のメロディーを混ぜ合わしたようなちょっと面白い雰囲気の曲。「♪愛してる~」というところだけ日本語なんですが、そのハイトーンで透き通る歌声がとても美しいです。
3曲目「美麗心情」はアルバム中でも聴きものの名バラード曲。歌いだしの柔らかな雰囲気、ハスキーな歌声がとってもいいです。驚いたことに原作は中島みゆきさんとのことですが、残念ながらぼくは原曲を知りません。
5曲目「午後彩虹」はソウルフルなナンバー。マイナーからメジャーのサビへ流れていく感じも素敵。
8曲目「真好!我需要愛情」は日本人男性ラッパーをフィーチャーしたヒップなダンスナンバー。
(余談ですが、歌詞カードの日本語間違えています。「君に決定なんだす」って…(笑))
9曲目「Game Over」はアルバム中唯一6拍子で歌われる、しっとりしたナンバー。
10曲目「誰怕誰」は一変して、シリアスで幾分陰鬱な雰囲気のナンバー。
ラストはギターだけをバックに「美麗心情」をスキャットでしっとりと歌い、アルバムを締めくくります。

3月
黄湘怡 Stella Huang / 等(音樂甜心)
台湾ソニーが強力にプッシュする期待の新人、黄湘怡のファーストアルバムの登場です。
彼女はシンガポールの出身。アルバムでは演奏こそしていないようですが、ギターとキーボードをこなし、頭の2曲を除いてすべて彼女自身が作詞作曲をしています。
彼女の作る曲は、リズムが立った軽快なポップ・ロックが身上。
懐かしさも感じさせる洋楽テイストがなかなかいい感じ。
声は戴佩[女尼]を、もっと甘くした感じで、かなり特徴的。
1曲目「等」はMajaのカバー。♪ダン、ダン、ダダダンダン、というスキャットが入るあれです。
2曲目「第一個冬季」はアルバム中、唯一のゆったりした、台湾バラード。
で、やっぱり個性が際立ってくるのは、自作曲の3曲目以降。
3曲目「無聊一天」は、イントロのオルガンもかっこいいごきげんな曲。ルースな歌い方が面白い。
ファンキーに切れるリズムのカッティングがはっとさせる、7曲目「勇敢」もいい曲です。
8曲目「雑誌女生」はボサノバ・タッチのこれまた軽快な曲。
ゆったりしたテンポの9曲目「I Deserve」は、英語詞のサビがとてもいいメロディーではっとします。
ところで、髪を切ってから広末に似ていると話題の彼女、笑ったときの表情、しぐさがよく似ていますね。