２００１年秋

*２００１年秋*

１１月

蔡琴 Cai Qin ツァイ・チン/ 繼續（継続）（推薦！）
■台湾のベテラン・シンガー、蔡琴のニューアルバムの登場です。
蔡琴は民歌（台湾フォーク）歌手としても有名ですが、このアルバムは全曲新曲です。
彼女の声は、太く少しドスの効いた声ですが、柔らかくふくよかな歌い方なので、とても優しく響きます。
曲は非常に雄大でたおやか。ドラムが８ビートを刻むような曲は１曲もなく（というか、ドラムは入っていない）、ピアノとオーケストラを中心に、パッド系キーボード、女性コーラス、パーカッション、曲によっては控えめに民族楽器を配した編成で、奥行きのある深い音作りが印象的です。ときどき思うことですが、台湾の音楽はどことなくアイルランドの音楽を思わせたりします。
■1曲目「新月」は夜の静かな空間に響くようなイントロが印象的な美しい曲。とても優しげなメロディーラインは「ダニー・ボーイ」を少し思わせます。
2曲目「順應著」はリズムを刻む低音のストリングスの響きが印象的な曲で、清涼感の中にも力強さのある曲です。この曲もどことなくアイルランドを思わせる雰囲気の曲です。
6曲目「霊感」もやはりストリングスの響きが印象的な曲。
4曲目「我的天[口阿]」はシタールや笛などの民族楽器も入った浮遊感漂う曲で、幾重にも重なる分厚いコーラスが印象的です。
8曲目「塔」は中近東を、9曲目「探歌」はジプシー・ソングを思わせるつくりですが、アルバムとしてワールド・ミュージック然としているわけでは決してなく、統一したトーンでまとめられています。
ラストの「飄鳥」は6拍子のゆったりした曲。最後を締めくくるにふさわしい落ち着いたいい曲です。

◇◇◇

孟庭葦 モン・ティンウェイ/ 阿彌陀佛
■2000年12月を最後に歌壇と決別、その後は福祉活動を行うと伝えられていた孟庭葦。
もう二度と彼女の歌声は聴けないかと思われていました。
このアルバムは確かに彼女のソロアルバムと言うには少し違う性格のものです。
■アルバムタイトルから想像できるように、このアルバムは宗教音楽といえるもので、多くはインストゥルメンタル、孟庭葦のボーカルが入っている数曲もすべて歌詞が『阿彌陀佛』あるいは『南無阿彌陀佛』しかありません。
それゆえいわゆるポップ・ミュージックとはいえませんが、余計なことを考えずに聴けば、非常に心落ち着くヒーリングミュージックと言えましょう。
孟庭葦の透明な歌声はとても美しく、いつの間にか『♪あみとぅぉふぉ～』というリフレインを一緒に口ずさんでしまいます。

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黄韻玲 Kay Huang / 巴結音楽
■1994年発表の名盤『黄韻玲的黄韻玲』を最後に、ベスト盤やピアノ連弾アルバムを除けば、未だに歌物の新作を発表していない黄韻玲。彼女の名前は楽曲提供やプロデューサーとして今もその活躍ぶりを多く目にするものの、ファンとしてはやはり彼女の新作を聴きたいもの。
そんな彼女が久々に巴結音楽と題したライブを行ったのは記憶に新しいところです。
そんな彼女の久々のアルバムは、残念ながら過去の作品のベスト・アルバム（一曲だけ再録）です。
しかしながら驚いたのは、24ビットリマスターによって蘇った過去の作品は、今作られた楽曲のように瑞々しく響いてくることです。
まるで録り直したかのようにどの曲も素晴らしい音で、あらためて彼女の曲作りの才に心打たれます。
派手さはないのに心に引っかかってくる憂いを帯びた旋律、普遍的ともいえる楽曲たち。1987年から1994年につくられたとはとても思えない楽曲センス。
ベストアルバムということで、推薦マークはつけませんでしたが、彼女の過去のアルバムをみんな持っている人にも薦められる、名ベスト・アルバムです。
このアルバムをばねに、ぜひとも新作を発表して欲しいものです。

１０月

那英 Na Ying / 我不是天使
■北京出身のシンガー、那英の今年9月にリリースされたアルバムのご紹介です。
彼女のボーカルスタイルは、大人っぽく適度に太い声なのですが、決して荒げたりしない伸びのある温かな声が特色です。このアルバムでもいままでのイメージを裏切ることの無い柔らかなボーカルを堪能できます。
アルバム全体を通して大きく流れを変えるような曲はなく、そのあたりが『心酸的浪漫』と較べると最初は大人しく聴こえるのですが、聴きこむと味が出てくるタイプで、全体を包む余裕のある音とそれを包み込む声がいいです。
■1曲目「一笑而過」、2曲目「我不是天使」はゆったりした彼女の得意とするバラード。
なお「我不是天使」は、余りそれっぽくないけど伍佰の作曲で、作詞は那英。
4曲目「貪戀」は、ソウル風味漂う軽めの曲。跳ねたリズムと都会的な雰囲気が印象的。作曲は劉沁。
5曲目「哭過以後」はお気に入りの曲。サビの滑らかに流れるようなメロディーがとてもいいです。
「♪泣いた後は　出口を捜すわ　あなたに幸せをあげたから私は手を放すの」と歌われます。
7曲目「像我這樣的情人」は、マイナー・ソウルのタイトな曲。シンセ・リードの音や切ないサビが印象的。
ラスト「再會不再見」はとてもドラマティックな曲。洋楽のカバーのようですが、中国語がとても美しく乗っていて素晴らしい盛り上がりをみせます。たおやかな声が響くラストを飾るにふさわしい曲です。

９月

江美琪 Chiang Mei Chi / 想起（推薦！）
■江美琪の魅力って一体何でしょう。彼女は曲はつくりませんし、声量で聴かせるタイプでもありません。
ましてやルックスやダンスで売るアイドル然としたタイプでもないでしょう。
でも、彼女の声を聴けばすぐに江美琪とわかるし、彼女の声からは伝わってくるものがあります。
温柔、誠実、ひたむきさ、女性らしさ、優しさ…。そしてぼくは彼女の声が好きなのです。
■待望の第４作目。さっと聴いた感じでは、前作と較べるとちょっと大人しくなったとか、地味だと感じるかもしれません。どちらかというと静かな曲が多いし、今回は邦楽のカバーはありません。
でも、これが不思議なほど聴けば聴くほど味わいが増してくるのです。デビュー当時のボーイッシュな雰囲気はもう余り無いけど、かわりにいっそう柔らかさを増したボーカル。作者は江美琪のために素敵な曲を用意しそれに答える、作者とシンガーの間の信頼感が伝わってくるようです。
■嫌いな曲は1曲もないのだけど、強いて言えば3曲目以降の流れが特に好き。
3曲目「親愛的[イ尓]怎麼不在身邊」は郭子作曲のゆったりしたナンバー。アコースティックな感覚を生かしたきれいなメロディーが印象的です。
4曲目「泡泡糖」は一変して、Georgia Satellites張りの唸るギター・リフが爽快なロック・チューン。
（作曲は日本のミュージシャンで「小津坂元」というユニット名でも活動されています。）
5曲目「天使的愛情」は最近の陳珊[女尼]の作品に顕著な作風で、極力シンプルなコード進行と音数の上を、たゆたうメロディーが印象的な、ドリーミーな曲。
7曲目「想起」は張宇の作曲で、タイトル曲でもあります。張宇の緩やかに盛り上がるメロディーと対照的に、擦れ気味に静かに歌う小美の声が意外なコントラストとなり、一層味わい深いものになっています。とても美しいバラード曲です。
8曲目「I Feel So Good」はアルバム中では最も洋楽の雰囲気を漂わせた、アコースティックで切れのいい爽やかなポップ・ナンバー。汪佩蓉の作詞作曲。
続く「在我身邊」は再び美しいメロディーのバラード曲。袁惟仁の作曲なのだけど3曲目と何か関係あるのかな？
10曲目「笨金魚」はちょっと異色のコミカルなナンバー。かつての范暁萱のような雰囲気も。
ラスト12曲目の「我知道我會哭」はジャジーでアンニュイなナンバー。ほとんど擦れ気味の声でとつとつと歌い、静かにアルバムは幕を閉じます。
■最後にひとつ質問、小美って一重瞼？それとも二重瞼？写真によって違うのですが。

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許茹芸 Valen Hsu / 只説給[イ尓]聽。（推薦！）
■今度の許茹芸の新譜はすごくいい。
はっきりいって、今まで一番好きなジャケット写真。こんな風に撮ってもらったらいいのになと思っていた自分のイメージととても重なる。（髪に茶色のメッシュを入れたのは初めてなのじゃないかな。）
はっきりいって、ぼくの一番好きなアーティストとしてのValenに対するイメージ。こんな風な歌を歌って欲しいのにな、と思っていた自分の思いととても重なる。
ここにいるValenはとても軽やかだ。軽やかでさらさらとしている。
ちょっと聴くとあまり力まず何気なく自然に歌っているように聴こえるが、自然に歌うことがいかに難しいことか。EMI移籍第一弾は、何かから開放されたような優しさが全篇に流れているように聴こえる。
■1曲目「遇見[口/力]外一個人」は、コーラスの掛かった甘いギターの調べのみをバックに歌うナンバー。
アルバムのその後の印象を想像させるような、１曲目にふさわしい趣のある曲です。
柔らかい弦の調べに乗って歌われる「只説給［イ尓］聽」は、ゆったりしたバラード曲ですが、明らかに今までのバラードとは一線を画しているような柔らかさに満ちています。
続く「他［イ門］的故事」は「我就是這麼快楽」の流れを汲む、爽やかなハイトーンボーカルが印象的な曲。テンポは「我就～」よりゆっくり目で、ソウル風味もそこはかとなく漂っています。
蔡健雅Tanyaのお株を奪ったような、アコースティック・ロックが心地よい「好像跳舞」も素晴らしい曲。
The Bandの「The Weight」をTom Petty&The Heartbreakersのバックで歌ったような、「我只能愛［イ尓］」には思いっきりツボはまり。こりゃいいわ。
7曲目「白紙黒字」は一転して、ヘビー目の６拍子のマイナー・ナンバー。かなり深刻なイメージの曲ですが、やはり以前の歌い方とはどこか違う率直さを感じます。この曲がValenの作曲というのも意表を突いた攻撃です。
珍しくソウル/ヒップホップ風のビートを配した「標準配備」はかわいい曲。こういう歌もなかなかフィットしています。
最後はただただ波の音を収録した「夜之海」が、聴く者を浄化していくようです。

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范曉萱 Mavis Fan / 絶世名伶（特薦！）
■うわぁ、もぅ。すご過ぎ。彼女は正に天才。
セカンドアルバム「自言自語」で既にそのアーティストとしてまたシンガーとしての非凡な才能を発揮していましたが、アルバムを重ねる毎に次々と新しい一面を見せ、その度に我々に驚かせてくれました。
「Darling」ではアコースティックなライト・ポップス、「我要我[イ門]在一起」ではヘビーなオルタナ・ロック。
そして待たされること1年9ヶ月、久々のニューアルバムは、なんとなんと全編ジャズ！！
（正確に言うと、ボーナス・トラック扱いのラスト４曲はオルタナ・ポップで、これまたかなりキていてかっこいい。以下の感想文は、ややこしいのでボーナス・トラックを除いたナンバーのみ触れます。）
しかしそこはメイヴィス、ハード・バップに乗ってフェイク・ボーカルを聴かせまくる、といった類のジャズではありません。楽曲はすべて本作のためのオリジナル。彼女自身の作詞作曲および共作が５曲。また全曲のプロデュースが范曉萱/周俊偉。アレンジは金木義則。
■アンドリュー・シスターズ張りのブギ・ウギ・コーラス・ナンバー、オールド・タイミーなジャズ・バラード、サーカスのような摩訶不思議な曲、ブラスも入ったスイング・ナンバー、シリアスで耽美的なトーキング風ボーカルの曲、初期EBTGを思わせるボサノバ・ナンバー、スキャットだけの昭和歌謡的マイナー曲、Kate Bushのようなどこか迷宮入りしたポップス、どことなくエロティックなスイング・ポップスと、さながらカレイドスコープのような音楽。次に何が出てくるかどきどきしっぱなし。個性的な部分は小島麻由美さんといい勝負といいましょうか。とにかく一度聴いて驚いてください。
■余談ですが、このアルバムはジャケットもすごい。多分初回限定なんだろうけど、ジャケットが27cm角もあって、しかも見開きジャケット（見開き、って判りますよね。昔はレコードでよくありました）。歌詞カードに至っては70cm角以上あって、片面彼女の顔の超特大アップ。ちょっと照れる（笑）。