*2000年春*

許美靜 / 靜電
錦繍二重唱 / 温暖
陳綺貞 / 還是會寂寞



5月
劉美君 Prudence Liew / 愛自己(推薦!)
香港が誇るベテラン・シンガー、劉美君のニュー・アルバムが、1994年発表の「夜有所思、日有所夢」以来、実に6年振りにリリースされました!間に林憶蓮の2枚の英語アルバムへの参加はありましたが、オリジナルアルバムはほんとに久しぶり。
前作「夜有所思、日有所夢」は大人っぽく少しアンニュイで、今聴いても色あせることの無い名盤でした。そして、満を持して発表されたこのニューアルバムは、彼女のキャリアの中でも間違いなく最高の1枚として愛されることでしょう。
前作が夜を思わせたのに対し、本作は明るい日差しと翳りの両面を感じさせる、実に気品のある仕上がりです。ほぼ全曲で生ドラムをフィーチャー、また多くの曲でコーラスとして梁靜茹の名前がクレジットされています。また、彼女としては初の國語アルバムです。
待望の1曲目を飾るのは「Tell You My Story」。6拍子のゆったりしたバラード曲です。久々のアルバムの冒頭は派手なダンス曲で、なんてことをしないあたりさすがの貫禄です。彼女のちょっとくせのある凛々しい声が一段と優しげに聞こえます。林憶蓮の「没結果」をちょっと思わせる曲調です。
2曲目は主打曲第一弾「毎次我都很認真」。前作には無かった、軽やかで心地よいミディアム・ナンバー。落ち着いたドラミング、気持ち良く盛りあがるサビ。最高です。サビの「♪つぁぃ、つぇい、つぇい、つぇい、ゆぃちゅぁ〜ん」はきっとみんな思わず口ずさんでしまうことでしょう。(でも、意味は「とってもとっても愚か」なんですよねぇ。)
3曲目「因為我没有」は劉美君自身が感極まったという胸に沁みるバラード。シンプルながら味の有る演奏に支えられ、表面的にはとても静かに、しかし胸に強く迫ってくる入魂のボーカルを聴かせてくれます。
4曲目「傷人太重」は、中華風の柔らかなサビのメロディーと、バックのジャジーで甘いトーンのギターのコントラストが印象的な曲。
ぼくが2曲目に次いで強く心を打たれたのが7曲目「偸想」。何層にも重なり合う神聖な雰囲気のコーラスが素晴らしく、シンプルなアコースティックギターのカッティングが優しい。どこか北欧・アイルランドの地を思わせたりします。彼女もここではコーラスに溶け込むようなボーカルを聴かせています。
8曲目「旅行」はそこはかとなくラテン・フレーバーが漂う曲。少しだけサンタナmeets黄韻玲。
ラストの「好好過下去」は再び6拍子のソウル・バラードで、ゆったりとした余韻を残して、アルバムは幕を閉じます。6拍子で始まり6拍子で終わるのがとても印象的です。
◇◇◇

陳慧琳 Kelly Chen / 愛[イ尓]愛的(推薦!)
Kellyの歌声はいい。Kellyの声は確実に美しくなっていっていると思う。
例えば1曲目「愛[イ尓]愛的」。ふっとハイトーンで息を抜くところなんてとてもきれいだ。
今度のアルバムは彼女の数あるアルバムの中でも出色の出来ではないでしょうか。聴いていてなかなか心地よく、実験的な曲もあって、とてもかっこいい。
4曲目「我[イ門]都愛[イ尓]」は、スキップピートの軽やかかつ落ち着いた曲で、今までにない魅力的な曲。メロディーラインがとても美しい!
5曲目「[口畏]有人在[口馬]」はささやき声のようなボーカルのふわふわした不思議な曲。続く6曲目「嘘!」はさらに変わった曲想で、変則ビートでノイジー。1曲バラードを挟み、7曲目「戒掉[イ尓]」も最近では珍しいロック・チューン。作曲は雷頌コ。この中盤の流れはデビュー当時の尖がったイメージを感じさせ、アルバムを趣深いものにしています。
ラストの「[イ尓]若是真愛我」はしっとりした雰囲気で始まるバラード。ひとり多重コーラスが実に美しい。5'37"という長尺をゆっくりと盛り上っていく曲で、後半に切りこんでくる重めのドラミングのコントラストもいい感じ。そして静かに印象深く余韻を残して終わります。
ちょっと変な例えですが、王菲でいうと「玩具」(の後半)のようなふっと力を抜いた軽さとしゃれっ気を感じるアルバムという気がします(なんとなく)。
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陳綺貞 Cheer Chen / 還是會寂寞
おー、どうしたんだその散切り頭はぁ、と思わず突っ込みを入れてしまいましたが、日本にも熱心なファンが多い陳綺貞2枚目にして1年9ヶ月ぶり(!)のニューアルバムです。
彼女の1stは全編ダーク・ブラウンのブックレットの雰囲気そのままの、ガラス細工のように繊細で深遠な曲が全編を支配していた印象があります。
本作は、基本的な繊細な部分は変わらないものの、やはりジャケットのように、前作に較べるとずっとカラフルで逞しくなった印象です。
本作も全曲彼女のペンによるもの。彼女の自筆によるセルフ・ライナーノートがついていますが、達筆過ぎてぼくにはよく読めません(?)。
1曲目「越洋電話」はアコースティック・ギターのフィンガー・ピッキングで始まる前作の雰囲気を受け継いだ曲。しかし、この曲は1分30秒と短く、いつの間にか2曲目「我的驕傲無可救藥」に引き継がれていきます。エッジの効いたリズム、ひしゃげたギターの音がかっこいい、かなりロックっぽい彼女の新しい魅力を見せた曲です。
また、どの曲もアコースティックを基調にしたすっきりとした歌に好感が持てます。ちょっとボサノヴァっぽい4曲目「下午三點」も面白いし、オーケストラの音で始まる静かな3拍子の曲「温室花[几/木]」、ロカビリー調のイントロで意表を突き後半ハードな展開をする「等待」などいろんなタイプの曲が入っています。
ギターが際立った曲が多い中、ピアノの音と優しいメロディーラインが印象的などこかイギリスっぽい「告訴我」が特に気に入りました。寂しげな詞もグッド。
ラスト「霊感」は彼女自身のギターだけをバックに歌うしんみりした曲。ちょっとベン・ワットを思い出してしまいました。聴くほどに味わいが増すアルバムです。
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徐若[王宣] Vivian Hsu / happy past days
実質的な彼女の國語2nd「不敗の恋人」が好評につき、日本発売向けに日本語新曲・日本語バージョンを増やした日本版「不敗の恋人」を発表。その日本版にさらに2曲入りボーナスCDを追加して台湾で発売したものがこの「happy past days」です。外のカバーを取ると日本版「不敗の恋人」がそのまんま入っていて、裏にしっかりBMGファンハウス 定価\3,059と書かれていて笑えます(消さなくていいのか!?)。
國語版「不敗の恋人」を既に持っていて、このアルバムを買うのを躊躇しているファンの方も多いと思いますが、個人的にはぼくはこちらの方が好き。意外に割高感も無かったです。
というのも國語版とダブっている曲は「Ars Amatoria」「不需要理由」「不愛了」「姐、[イ尓]睡了[口馬]」の4曲のみ(しかもなかなかいい選曲)。新たに追加された日本語新曲はエッジの効いた厚い演奏で、彼女の弾けた持ち味にぴったり。「大麻煩」の硬軟取り合わせの感覚が蘇ります。
「シアワセニナロウ」は「不敗の恋人」の日本語バージョンですが、別アレンジになっていて、ストリングス隊を配し幾分テンポダウンしたゴージャスなアレンジが新鮮です。
曲順、全体の流れもグッド。こっそりお勧め。
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張惠妹 A-Mei / 歌聲妹影
張惠妹がいつものノリノリライブではなく、香港フィルハーモニック・オーケストラをバックにしっとりしたライブを香港で行ったというニュースを聴いて「ずる〜い」と思ったのはぼくだけではないでしょう。
そんな阿妹からライブアルバムという形で、そのコンサートに行けなかった人たちにもその時の歌を聴かせてくれることになりました。
この時のライブは確か持ち歌のストリングアレンジバージョンも披露したはずですが、このアルバムは未発表のカバー曲のみ収録されています。
そんな選曲も手伝ってか古き良き日の中華ポップスが多く収録されているのが目を引きます。
2曲目「意難忘」はそんなたおやかなメロディーラインが素晴らしい名曲。
6曲目「心事誰人知」はストリングスとピアノによる殊更美しい曲。恐らく台湾語。
続く7曲目「天才白癡夢」も美しい曲。恐らく広東語。
9曲目「鳳凰于飛」は古風な歌い出しで始まり、一変ドラムが入り、現代的なアレンジになるのが面白い。滑るような中華特有の節回しも素敵。
でも、どうせならたおやかな中華メロディーで固めて、「Mamma Mia」や「I Will Always Love You」は収録しないほうが(アルバムのまとまりとしては)良かったのではと思うのはぼくだけでしょうか。
ラストの「Ain't No Sunshine」も洋楽のカバーですが、こちらは渋いマイナー調の曲で、アルバム最後を飾るのにふさわしい余韻の残る曲です。この曲が一番彼女らしく感じました。

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4月
戴佩[女尼] Penny/ (1st.) (特薦!)
マレーシア出身(多分)、若干22歳、全曲彼女の作詞作曲。とんでもなく素晴らしいアーティストのアルバムが到着しました。2000年のBest Pick-Upの1枚は早くもこれに決まりです!!
ロック、ギター・ポップ、ボサノバなどいろんな音楽を吸収した彼女のソング・ライティングは掛け値なしに最高です!
洋楽の良質な所を吸収した音楽性、生楽器によるバンドスタイルは蔡健雅、GoGo&MeMe、何欣穗といったアーティストに通じるものがありますが、ずっとパワフル。声は芯がありながら一方で結構かわいらしいというかちょっと甘えた感じがあるのもいい感じです。
1曲目「不想」はアコースティック・ギターのストロークで始まる、ノリが最高の曲。シンコペで畳み掛けるサビがかっこいい!。洋楽ファンも必聴です。
2曲目「猜不透」は一変してアコースティックギターの弾き語りによる静かなナンバー。途中から入ってくるフレットレスベースが趣味が良く、彼女の歌声も色っぽくていい。エンディングのベースのハーモニクス、渋いです。
3曲目「習慣這樣」はミディアム・テンポの落ち着いた曲。派手さはないものの、はっ、とさせるかっこいい起伏に富んだメロディーラインがいい。
そしてそして、4曲目は主打曲にして最高のナンバー「保護我」。ドラムレスのしっとりしたヴァースで始まり、サビでいきなりリズム隊が炸裂、Pennyのボーカルが炸裂。うぅ、涙ちょちょぎれます。
5曲目はさらにびっくり、「透氣」。なんとこの曲は、許茹芸の「[イ尓]是最愛」の中で異彩を放っていた、ベースだけをバックに歌うあの緊張感漂う曲のセルフ・カバー。許茹芸ファンも必聴。
6曲目「早預料」はコーラスの掛かったギターが印象的なmaj7の繊細な曲。ちょっと
蔡健雅を思わせます。2分に満たないとても短い曲。
7曲目「第十五個耳洞」はイントロが種ともこの「Had Enough」(←知ってます?)とそっくりな(笑)、ロック・チューン。
と、いい曲はまだ続くわけですが、たったひとつだけ文句(?)をつけるならば、ジャケット写真が地味で、暗い表情で写っていて中身の素晴らしさにそぐわない気がすることかな。実際はちょい蘇慧倫似のべっぴんさんです。
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許景淳 Christine Hsu/ 天頂的月娘[口阿]
許景淳の旧譜をご紹介します。美しいアートワークも印象的な1996年発表の台湾語アルバムです。
厳かなシンセ音と彼女の降り注ぐような美声ボーカルの出だしも印象的な「天頂的月娘[口阿]」は、穏やかな中華メロディーの曲。
3曲目「點起一支煙」はマイナー・コードのミディアム・テンポの曲で、どっしりとした手応え、憂いをたたえた雰囲気がとてもいい。
6曲目「來去散歩」はボサノバ・タッチのアコースティク・ギターが軽やかでいい感じ。
台湾語のアルバムということで、高齢のリスナーも想定してか演歌風の曲も何曲かあるのですが、全体的に美しい仕上りで重くないのであまり気になりません。
そんな中、群を抜いて素晴らしいのが、8曲目「再會的情歌」。変則リズム(変拍子ではない)を刻むドラムとベース、ベースの隙間を縫って後ろの方で鳴るギターのカッティング、パーカッションの音、空を翔けるバイオリン、そして彼女の歌。中華的でもあり、エスニックのようでもあり、ケルトミュージックのようでもある。
何とこの曲と先の「點起一支煙」は許景淳の書き下ろし。
とても寡作な人ですが、気になるアーティストのひとりです。

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3月
許美靜 Mavis Hee/ 靜電
許美靜の待望の新作だ。どれどれ、タイトルは…、『静電 Hee lectric』(???…しばし考え中)。冬にぱちぱちするあれ?それともクラフトワークに挑戦?な訳ないよな。
いえいえ、ご安心を。今まで通り、ほのかな温かみと悲しみを帯びた許美靜の歌は健在です。
随所に散りばめられたアナログっぽい電子音は近未来的というよりは、インナージャケットの写真にあるような青い水中に気泡が立ち上るような、或いは夜の空に流れる不確かな星を思わせるような効果を与えています。
全体的には今まで一番、陽の光を感じさせる仕上りになっています。でも、まぶしい昼間の光ではなく、どこか現実離れした、淡い水彩の世界のような、水中から見上げる太陽光のような、そんなミステリアスさが漂います。
1曲目「迫在眉梢」は今までの許美靜のイメージ通りの穏やかなミディアム・スローのナンバー。
2曲目「曇花」は一変して、彼女には珍しいヘビーなリズムに圧倒されるオルタナっぽい曲。間奏にはシタールの音も。
3曲目「多事之秋」はまた一変、品のいいピアノ・ソロで始まるゴスペル調の6/8拍子のロッカ・バラード。個人的に大好きな曲。作曲はDick Lee。
小鳥のさえずりのような電子音で始まる4曲目「今天的太陽」は、マイナー・キーの今日的なソウルを感じさせる、これもまた意表を突くアップ・テンポの曲。間奏のファンキーなエレピ・ソロがかっこいい。許美靜のオリジナル曲。
6曲目「掛失」でもDick Leeが素晴らしい曲を提供しています。どこか中南米を思わせるコード進行、悲しげなメロディー・ラインの曲です。
ゆらゆら揺られているような雰囲気がたまらない6/8拍子の「Falling」など他にも名曲多数!
彼女、今回もフォトセッションでは笑っていません。神秘的です。おまけでパソコン用の壁紙が入ったフロッピーディスク付き。

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錦繍二重唱 Walkie Talkie/ 温暖
ほのぼのしたなごみのコーラスで人気の錦繍二重唱の3rdアルバムの登場です。その名も「温暖」!
前作は明るくはじけたポップ路線でしたが、今作は1作目と2作目の中間的な印象で、穏やかな味わいを増した歌には余裕が感じられます。個人的には彼女達の魅力は、「星期天不要見面」のコミカルさと、「給我愛情」のシリアスな表現力の両面だと思っていたので、この変化はうれしいです。
1曲目「愛情得零分」は彼女達のおしゃべりも入った、彼女達らしいコミカルでいてほのぼのとした曲。2曲目は、日本語で『こちらは090-…。ただいま電話に出ることが出来ません』という留守電のメッセージで始まるのが日本人には面白い「還是一個人」。切ない詞ですね。
4曲目「HELLO語彩氣球」はNHKみんなの歌に出てきそうな楽しいサンバ・リズムの曲。児童の合唱も入ります。
特に気に入ったのが6曲目「最美的一天」。中華のたおやかなメロディーラインに、2人の透明で美しいコーラスが上り詰めて行くサビが最高。名唱です。
ボーナスCDには于秀琴のギター弾き語りバージョン「没有[イ尓]没有感覺」と、黄錦[雨/文]のピアノ弾き語りバージョン「可惜他不dong」(どちらも自作曲)を収録。はっきりいってオリジナルCDバージョンより何倍もいい!こんなにうまい人たちなんだからもっとアーティスティックな面も出していって欲しいです!
花びらが飛びまくっているジャケット、インナー、CDラベルがとってもかわいいですよ。

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藍心[シ眉] Pauline Lan/ [イ尓]開心了[シ眉]?
Paulineこと、ラン・シンメイのニュー・アルバムは、アルバム・ジャケット同様、どこか原色的な色合いを感じます。そして、全体の印象は、前作の少し尖った感じを引き継いだものとなりました。
プロデューサーは王治平、陳珊[女尼]、黄韻玲の3人が当たっており、王治平のプロデュースした曲が最も今日的なデジタル・ロックの色合いが強いようです。
陳珊[女尼]がプロデュースした「情歌karaOK」は、サビも愉快などこか80'sっぽい懐かしさ漂う曲。
また、「來不及」を彷彿させるアンニュイなスロー・ナンバー「Say Love Me」が素晴らしい。
最も気に入ったのは、柔らかなメロディーラインと囁き掛けるような歌い方が素敵な「不怕付出」と、ラストを飾る黄韻玲書下ろしの「忘了」。最後にほっとなごめる優しい曲です。