*1999年秋*



11月
彭羚 「好好愛」 ・キャス・パン(推薦!)
圧倒的な歌唱力、優しくもあり芯もある美しいボーカル、それでいて決して誇張することのない控えめな性格、香港が誇る歌姫、キャス・パンのソニー移籍後の第2弾、國語版としては移籍後初のアルバムが到着しました。
前作は、今までのバラード中心のイメージを一掃し、移籍第1弾にふさわしい明るくハイセンスなアルバムに仕上がり、評判も上々でした。
ただ、個人的には、作り込まれた美しさといいますか、かなり分厚い音像に、彼女のせっかくの美声が埋もれてしまったように感じられたのが少し残念でありました。
さて、この台湾制作はそんな心配も吹き飛ばす、彼女のキャリアの中でももっとも軽やかでアコースティックなアルバムに仕上がりました。
落ち着いたドラムの刻む音で始まる、プロモ・ビデオでもお馴染みの「非賣品」でこのアルバムは始まります。シンプルでアコースティックな演奏に乗り、彼女の表情豊かな歌声が染みます。技術的には、サビの頭で1音転調し、サビの真中でもまた1音転調し、最後にさらに1音転調するといった凝ったつくりになっていますが、そんな難しいことは微塵も感じさせないスマートな曲になっています。
2曲目「飛行」(藩協慶作曲)もシンプルで美しい曲。間奏のアコーディオン・ソロがいい味出しています。
3曲目は話題の王力宏とのデュエット曲「讓我取暖」。オーソドックスな歌ながら両人の表現力ゆえ、魅力有る曲にしあがっています。
4曲目はアルバム・タイトルでもある「好好愛」。後ろのほうでかたかたと鳴る控えめなパーカッション、2本のアコースティック・ギター、途中から入るベースだけをバックに、至近距離で歌っているような色っぽくもかわいさの宿るボーカルが素晴らしく、アルバム中、出色の出来になっております。
5曲目「選我的美」は一転、印象的なバス・ドラムの小刻みなビートで始まる、ロック・テイストの曲。サビで爆発するどこまでも透明なファルセットも美しく、これまた素晴らしい。ヘビーに唸るギターも聞き物。
EMI時代のイメージに比較的近いバラード曲「討我歡喜」においても、表情豊かで色っぽいサビでの歌声が最高!
マイナー調でシリアスな「我想喝一杯」、スパイ映画の逃走シーンに使えそうな異色の「怎麼樣」も面白い。
なお、彼女は現在おめでたで、来年3月出産予定だそうです。おめでとう!

高慧君 「轉身」 ・フランシスカ・ガオ
阿里山のツォウ族出身の実力派シンガー、高慧君のセカンド・アルバムの登場です。
前作で既に、バラードでの透明感とパワフルな歌唱を併せ持った歌手であることが証明されたわけですが、本作の印象としては、か弱さは後退し、音がより力強くなり、ソウル・テイストが増したように思います。最近の張惠妹や阿妹妹の楽曲に近い雰囲気を感じました。
例えばスクラッチ音を入れたミディアム・テンポの「我不覺得」、マイナー・キーの力強い「失眠」、Open Upの頃の林憶蓮を思わせる「插翅難飛」、アップ・テンポでパワフルに畳み掛ける「不必再施(てへん)」は、かなりソウルっぽいつくりになっています。
最近、名曲を連発している深白色がここでもロック・テイストの「笑不出來」という曲を書いています。サビでオクターブ跳躍するボーカルがクール。
やわらかで "I think it's gonna rain gonna rain..."というサビのリフレインがかわいく切ない「愛與,願違」が特に気に入りました。

V.A. 「亞洲創作人原音大[die]2 慾望之翼 DEMO2」(推薦!)
創作人がシンガーに提供した曲を自演する、What's Musicの好企画・第2弾の登場です!!
第1弾も感動の名盤でしたが、今度もすごいことになっています。
このアルバム、発行元こそWhat's Musicですが、EMI所属の歌手の歌あり、友善的狗所属の歌手の歌あり。どうだまいったかの怒涛のラインナップで迫ります。
収録曲をざっと挙げると、「飛」(王菲/藩協慶)、「那又如何」(林曉培/李士先)、「我真的愛錯」(陳潔儀/熊天平)、「藍天」(張惠妹/陳建寧)、「3秒鐘」(陳慧琳/深白色)、「乾脆」(那英/陳曉娟)、「有染」(阮丹青/薛忠銘)、「膽小鬼」(梁詠h/李偲菘)、などなど。ぼくは1曲目の「飛」で、もう涙ぼろぼろになってしまいました。これはきます。

伊能靜 「我很勇敢」 ・いのうしずか(Annie)(特薦!)
はっきりいって、これむちゃくちゃいいです!
伊能靜はデビューから10年以上を数えるシンガーで、日本語版も出しているのでご存知の方も多いと思いますが、実はぼくは買ったのはこれが初めて。たまたま以前聴いた日本語の歌はいわゆる「音圧高め」のJポップスといった程度の印象しかなくて、今まで聴いてこなかったのですが、このアルバムは素晴らしい!
全体にとてもアコースティックな感触で、イギリスっぽい少し翳りの有る音作りが印象的です。彼女の幼げで頼りなげなふわふわしたボーカルもよくマッチしています。
収録曲11曲中、なんと6曲が陳珊[女尼]の作曲(1,3,6,8,10,11)でいずれも素晴らしい曲を提供しています。他にはTanyaや陳偉も曲を提供しています。また、Koji Sakuraiが7曲編曲で参加しています。
1曲目「我很勇敢」はエッジの効いた快速ロックで、頭から「おっ。」と思わせてくれます。
2曲目「[イ尓]對我的好」は今テレビで流れている主打曲で深みのある曲調、中華らしからぬ凝ったメロディーラインが素晴らしい。どこか悲しみを堪えたようなボーカルがまたいい。
3曲目「河岸」はエコーの掛かったアコースティック・ギターだけをバックに歌われる曲で、深い水底を思わせるたゆたうボーカル、ブリティッシュ・フォークを思わせる深遠な雰囲気が素晴らしく、アルバムの中でもベストの曲と言えましょう。
7曲目「續杯」はフレンチ・ジャズ・ポップスといった趣のかわいい曲で、ほっと一息つけます。Tanya作。
Shinoの「煩」の続編(?)のような「煩![小頼]?呆。」なんて曲もあります(曲調は「四季」に近いですけど)。なかなかロックしている曲でもあります。
他にも素敵な曲目白押しです。捨て曲ひとつも無し。お勧め!
なお、2枚組用のCDケースに入っていて、ボーナスCDでもついているのかなと思ったら、CDならぬMiffyの手帳が入っていました。なんでやねん、なんでやねん。


10月
辛曉h 「怎麼?」 ・ウィニー・シン(推薦!)
辛曉hの魅力は何と言っても、声楽をかつて習っていたというよく伸びるたおやかな声と、中華特有のゆったりした優しさと、洋楽の持つパワーを併せ持った素晴らしい歌にあると思います。特に近年の2作はそれらが実にバランス良く、素晴らしい出来でした。そして、本作も決して期待を裏切らないアルバムとなりました。
前作「毎個女人」はアカペラを交えたりしてかなり明るく陽気な印象のアルバムでしたが、本作の印象は「毎個女人」の軽やかさを残しつつ、前々作「女人何苦為難女人」のゆったりした感覚に少し戻った感じでしょうか。
1曲目「怎麼?」からこれぞウィニーと言うべき中華と洋楽の良さを兼ね備えた美しいバラード。こういう曲は本当に良く似合う。水を得た魚のように美声を聴かせてくれます。なお、この曲は2バージョン収録されていて、1曲目が李宗盛制作、4曲目が李正帆制作となっており、後者のほうがややゆったりしたアレンジでどちらも甲乙つけがたい出来です。
2曲目「談何容易」は一転、軽快で愛らしい曲。サビでブルージーにフラットしたり、ひらひらと浮遊感漂う裏声を駆使した歌い方が面白い。
3曲目「我好幸福」ではあまりビブラートをかけずにあっさりと歌っており(ちょっと江美h的)、シンプルな曲調に合わせた歌い方を何気にするあたり、舌を巻くばかりです。
5曲目「發洩」は細かく刻むギターとドラム・プログラミングのビートがかっこいいロック・フィーリング溢れる曲。ここでも浮遊感漂うボーカルを聴かせており、王菲的というよりはざっくりした感覚が欧米のシンガーに通じる気がします。
穏やかなバラードを挟みつつ、8曲目「不一様」は彼女の名曲「煙」の流れを汲む渋くてかっこいいマイナー・キーのロック・フィーリングの曲。後ろのほうでフラット・マンドリンがリズムを刻んでおりこの辺りにもShawn Colvinに通じるものがあります。
9曲目「彩虹」はピアノで始まるヨーロッパ的趣の渋い曲。10曲目「無奈」は再びロック・テイストの曲で、Sheryl CrowまたはNeil Youngばりの存在感とノイジーに鳴るギターが圧巻。
最後はバラード「無聲雨」で静かに幕を閉じます。
彼女の歌はとっても優しいしすんなり耳に溶け込んでくるので、熱心なファンはもとよりこれから中華ポップスを聴いてみようという人にもお勧めです。

陶晶瑩 「我變了」 ・タオ・ジンイン
1998年発表の張雨生のトリビュート・アルバム「想念雨生」で故・張雨生と時空を超えた素晴らしいデュエット(「我期待」)を聴かせて話題をさらった陶晶瑩のニュー・アルバムです。
アルバムを聴いた感想は、すごいアルバムだということ。どうすごいかというと、収録曲10曲の内、同じような曲がひとつもないということです!。で、しかもどの曲も高い完成度でびっくり!。
1曲目「離開我」はゆったりしたバラード曲、2曲目「年紀大了一點」はハーモニカがはいったジャズ/フレンチ・ポップス調の軽快な曲、3曲目「想要」はリズムが立った今日的なポップスでSPEEDあたりをずっと柔らかくした感じの曲です。
4曲目「我變了」は表題曲にしてアルバム中のベスト・トラック。イントロのアコースティック・ギターのストロークはちょっとニール・ヤングみたいだけど、静寂感漂う音空間と美しく歌に絡むウッド・ベースが最高!。「我變了、那[イ尓][口尼]」というサビの部分に感動。
ここまででかなり満足な気分ですが、ここからがすごくって5曲目「給了我什麼[口]」はテクノ/トランスっぽい曲で、ワン・コード一発で爆走。6曲目「愛[口約]」は60年代のポップスとラップを繋ぎ合わせたような不思議な曲。7曲目「姉姉妹妹站起來」は昭和歌謡みたいな曲ですが、なぜかヘビメタなイントロがくっついています。
8曲目「晩歸的男人」は4曲目に次ぐお勧め曲で、印象的なギター・リフで始まるブルージーなロック・チューン。
ラストの「我的心在發[湯/火]」は張雨生のカバーで6/8拍子のジャズ・バラードでしっとりしつつ、気合充分で終わります。
また、2、5、8、9曲目は彼女の作詞曲で、曲作りの才能もなかなかです。

侯湘[女亭] 「[イ尓]愛我[口馬]?」 ・ホウ・シャンティン
侯湘[女亭] は台南生まれの新人シンガー。テレビで良くかかっている主打曲「秋天別來」がドラムレスの穏やかでどちらかというとオーソドックスなバラード曲だったので、清楚なジャケット写真と相俟って、大人し目のシンガーかと想像していました。しかし、実際聴いてみると歳相応のかわいらしくて明るいポップ・アルバムでした。
スッピンぽい飾らない歌声、ほとんどノン・ビブラートの歌い方は、やはり同世代の歌手、江美hや李心潔を思わせます。心地よいポップ感覚も彼女達に通じるものがあるようです。
イギリスっぽいギター・ストロークで始まる落ち着いた曲調の「通知一下」、続く深白色作の唯一マイナー調がかっこいい「没有愛過」が特に気に入りました。
なお、「真夏的公車」はCagnet(日向大介)の曲です。(ぼくは原曲を知りませんが。)

梁靜茹 「一夜長大。」 ・ジャスミン・リョン
有る日、テレビから流れてきた曲、そのギターとハーモニカのイントロ、落ち着いたロック・バラード調の曲、少しハスキーで憂いのある声、時々入るフェイクっぽい裏声に一発で参ってしまいました。その曲こそが「一夜長大」でした。
この歌の主人公、梁靜茹は自筆のライナーノートによると、マレーシア生まれの広東人で、19歳のとき台湾のプロデューサーに見出されたとのことです。好きな歌手はChara、Rickie Lee Jones、Suzanne Vega、Jewel、Tori Amos、Tanya、王菲、陳珊[女尼]、林憶蓮だそうです。
白眉は何と言っても先の「一夜長大」で、張惠妹に名曲「解脱」を書いた許華強の作で、ここでも素晴らしい曲とギタープレイを披露しています。
3曲目「彩虹」はそこはかとなくイギリスっぽさの漂う曲で、なかなかの名唱を聴かせてくれます。3'12"くらいに出てくる「一層一層一層・・」と歌う部分が少しCocteau Twinsみたいでどきりとしました。
5曲目「快樂一整天」はアルバム中では珍しくアップテンポの曲ですが、こういう曲もよく似合います。なんとフランキー・ウォンが作詞しています。9曲目「橡皮筋」はなぜか突然レゲエ。
全体的には大人しい曲が割に多く、彼女のリスペクトするシンガーのイメージから考えるともっと冒険してもいいようにも思います。これからはどんどんいい曲に恵まれ、素晴らしいボーカルを生かしたアルバムを作って欲しいと思います。

許茹芸 「鋼琴記事簿」 ・ヴァレン・シュー(推薦!)
このアルバムは許茹芸の代表曲をピアノ曲に編曲したインストゥルメンタル・アルバムです。
ピアノ自体は彼女が弾いている訳ではないようですが(はっきりとは書いていません)、これがなかなかいい出来映えなのです。
また、只のピアノ・ソロ集ではなく、曲によって控えめなストリングスやリズム隊を配し、趣味の良いアクセントを付けています。
冒頭、鳥のさえずりとオーケストラの音に導かれて許茹芸のポエット・リーディングがかぶさる「如果雲知道」はいきなり深い森の木漏れ日の地に迷い込んだよう。この曲を初め、「突然想愛[イ尓]」「看透」の3曲では許茹芸のポエット・リーディングが入った激渋バージョンとなっています。
ピアノのソロではじまり後半テンポが変わりドラムが入ってジャズになる「獨角戯」のごつごつしたリズム感もかっこいいし、シリアスな導入で始まる「不愛我放了我」も渋い。「我依然愛[イ尓]」は原曲よりリズムを強調しオルガンも加えたフュージョン・ジャズタッチのアレンジが新鮮。
また、いろんなところに挿入される自然の音や子供の声の控えめなSEがアルバムをより清らかな印象にしていますが、「日光機場」は日本で取ったと思しき構内アナウンスが挿入されています。
許茹芸本人の出番が余りない(と思われる)という点で、許茹芸ファン皆さんにお勧めできるかどうかわかりませんが、ぼくはかなり気に入りました。
西村由紀江のファン、ジャズ・ピアノのファン、ヒーリング系のファン、ひょっとしたらダウナー系・叙情派系プログレファンにもお勧めかも。あ、ヴァージニア・アストレイのファンにも。
反則技の一枚。
余談ですが、バーバパパのような着ぐるみに身を包んだおとぼけ(?)フォト・セッション付き。

周 「精選」 ・チョウ・ホェイ
新人でファースト・アルバムなのにアルバム・タイトルが「精選」(ベストの意)、ジャケットが写真じゃなくてイラストとなかなか目を引きますが、一番引かれるのはやはり実力のあるその歌声でしょう。
ちなみに、ライナー・ノートによると「精選」とは、王菲、許美静、范曉萱、許茹芸の魅力を併せ持ったベストの歌声ということのようです。
1曲目「不想讓[イ尓]知道」はメロディー・ラインの美しいバラード曲で、歌唱力を生かした冒頭を飾るにふさわしい曲です。声質は違うものの高慧君に通じるシンガーかと思い聴き進むと、3曲目「風鈴」は王菲の「棋子」を思わせるせつない系のマイナー・バラード、続く4曲目「我喜歡」はラ〜ララ〜というスキャットからして「夢中人」の頃の王菲っぽいつくりの曲です。もし別々に聴いたなら1曲目と4曲目と後述の11曲目が同じ人が歌っているとは気付かないんじゃないでしょうか。
マイ・ベスト・トラックは5曲目「空白」と9曲目「思念的翅膀」でこの2曲はヘビー・ローテーション状態。どちらの曲も中華情緒漂う名唱で、裏声に移るときの透明感がとてもいい。
11曲目「了了」はなぜかタツ・ラウのカバー。元歌はペイズリー・ウーが歌っていたっけ。当たり前だけど、この曲だけ異様に香港ぽく陰鬱。なんでこの曲を最後に入れたんだろう・・・。
ファーストということで、挨拶状的意味合いもあるかもしれませんが、今後どのようにはじけるか、期待したいと思います。


9月
朱少薇 「現在就要」 ・アレックス・チュウ(推薦!)
台湾から、これはまた面白いシンガーがデビューしました。
店頭のコピーには「台湾からヒップホップ系の新人。」なんて書いてありましたが、ソウルに留まらないおもちゃ箱をひっくり返したようなゴッタ煮音楽が、いかんせん無難にまとまりがちの台湾ポップスにあって、とってもユニーク。
ジャケットからは大柄で貫禄のある歌を聴かせそうに見えますが、意外や頼りなげでかわいらしい歌い方をする人でした。
1曲目「gotta have you now 現在就要」から、ファンキーなソウルをかましてくれます。このリズムの気持ち良さは、かのAl Greenの名曲「Take Me To The River」に匹敵するかも??(もっともTaking HeadsとLevon Helmのバージョンしか知りませんけど)。
2曲目「[イ尓]還好[口馬]?」はシトロン・ソーダの宣伝のような(?)のんびりしたイントロに始まり、突然ハード・ロックなサビになだれ込む不思議な曲。
4曲目「安慰」は渋めのブリティッシュ・ポップ系の曲で、乾いた音と、「給[イ尓]我的安慰。」という美メロのサビがとってもいい感じ。
5曲目は昭和歌謡風だし(まじでしょうか?)、7曲目はメロコア風すっ飛ばしロック、8曲目は打って変わってブラシ・ドラムにウッド・ベースが入ったグッドタイム・ジャズときた。そこを散漫と感じさせずなんか知らんが楽しそうと思わせるところがすごい(笑)。
あと、ジャケットのセンスがいまふたつですが、騙されずに聴いてね。

王菲 「只愛陌生人」 ・フェイ・ウォン
前作「唱遊」から約一年振り、その間に日本でも人気が爆発してしまった、王菲待望のニュー・アルバムです。
前作「唱遊」はある意味、「天空」の透明な空気感・浮遊感が戻ってきた気がしました(「半途而廢」などが特にそう)が、その一方で彼女の志向は自作曲「感情生活」や「童」にみられるマイナーで重く沈んだビートの曲に、より向かっているように思ったのも事実です。
本作を最初聴いたときは、一曲目の印象が強すぎてかなりヘビーな印象を受けましたが、聴き進むにつれ、また違った感触が見えてきました。
その冒頭の曲はかなりヘビーな曲で、ボーカルにずーっと歪んだイコライジングが施されているし、ずーっとオープン・ハイハットのドラムがけたたましい。間奏部の分厚いオーケストラがうねって上下する様はSgt. Peppers(A Day In A Life)のようなサイケさも。
一方、2曲目はほっと息のつける優しげな「當時的月亮」。前作よりは前々作「王菲」を思わせるゆったりした穏やかな曲。
5曲目「百年孤寂」は1曲目と呼応するようなハードな演奏の曲ですが、メロディー・ライン自体は切ないマイナー系の曲。
最初ヘビーな印象のあったアルバムでしたが、意外と6曲目から9曲目まで穏やかな曲が続きます。ボーカルはいつもより幾分控えめな気がします。暗くはないけどほのかな灯火を思わせる「蝴蝶」「過眼雲煙」は許美静のような趣があります。「過眼雲煙」は特にクラシカルなピアノとハープが独特の深淵な世界を作り上げています。
8曲目はエコーの掛かったギターのリフレインがやはり独特で、一番静かだった頃のCocteau Twinsを思わせたりします。後半からかぶさるポリ・ハーモニーがとても美しい。さらに9曲目ではギターだけをバックに歌われる静寂感漂う渋い曲。10曲目でようやく聴き慣れたペプシ・コーラのCF曲「精彩」が出てきます。今回彼女のオリジナルはこの曲のみとなっています。
彼女の言うとおり、彼女はいつもその時歌いたいと思っている曲を歌っているのでしょう。彼女の歌には最終到達点というのはないのかもしれません。5年後にやめるなんて言わないで、いつまでも歌い続けて欲しいと思います。

陳潔儀 「R耀」 ・キット・チャン
彼女は本当に魅力的な声を持つシンガーだと思う。
太く芯の通った力強い声、それでいて温かさも柔らかさもある。
彼女のそんな特徴は、冒頭を飾る対照的な2曲によく現れているように思う。
例えば1曲目の「R燿」は今までの彼女のイメージを引き継いだバラード曲で、高音部でもほとんど地声で歌い上げるその声量に圧倒されます。
一方、2曲目は打って変わって今までの彼女には余り聴かれなかったアコーステックな「我真的愛錯」。ギターだけをバックに、優しく包み込むように歌われ、思わず温かな歌声にうっとり。高音部でわずかにかすれるのがとても色っぽい。間奏の前に聴かれるスコティッシュなフィードバック・ギター、突然現れるブリティッシュとスパニッシュを混ぜたような控えめな間奏も趣味良過ぎ。
3曲目「變天」もイギリスっぽい憂いを含んだ落ち着いた曲で、ここでも切ないけど力強い歌声が聴けます。
力の入れるところ、引くところ、優しくなるところ、リアルになるところの変化が実に自然でうまいのです!。
アルバム中最も異彩を放っているのが、「別讓我再見到[イ尓]」。つぶやくような低音ボーカルで始まり、サビでいきなり倍速になってパワフルボーカルが炸裂します。特にサビの「♪恨[イ尓]恨[イ尓]恨[イ尓]到底」というところで、キーがスケール・アウトしていくのがむちゃかっこいい。(おまけにhoney, honeyて言っているように聞こえる)。終わり方もクール!
なお、本作から発行元が上華に変わっています。そのせいかさっと聴いた最初の印象ではさらっとしたバラードが多く感じられるのも事実で、ちょっと引っ掛かりが弱い気もしましたが、素敵なボーカリストであることは間違いないと思います。

李心潔 「裙擺揺揺」 ・リー・シンチェ(アンジェリカ・リー)
ショート・ヘアでボーイッシュな(ちょっと内田有紀似)李心潔の新譜です。
いたずらっぽくきっと睨んだジャケットのまんま元気なポップスから、しっとりした曲まで、バラエティに富んだ仕上がりです。特に歌がうまいとか美声とかいう訳ではない気がしますが、素直で嫌味の無い歌声と雰囲気は同世代に好かれそうです。
1曲目は快活な主打曲「裙擺揺揺」(スカートがひらひら)で始まります。作曲は阿牛、なるほど彼らしいコミカルで楽しい曲です。
2曲目「又下雨了」(また、雨だ)はがらりとかわって、ドラムレスのしっとりとした曲。ピアノとオーケストラとギターがゆっくりと盛り上がります。素直な感情の込め方にも好感が持てます。
マイ・ベストトラックは6曲目の「Don't Make Me Cry」。ミディアム・テンポの落ち着いた曲で70年代シンガー・ソングライターの趣があります。♪You make me cry, cry, cry, cry, cry というサビに胸がきゅんときます。
7曲目「我要黏著[イ尓]」は性急なデジタル・ビートとささやき系ボーカルで始まり、途中からノイジーなギターが絡む、ちょっと異質だけど面白い曲。突然終わるのも面白い。
8曲目「夜遊」は日本でも熱心なファンが多い陳綺貞の書き下ろし。相変わらず彼女の作る曲は伏し目がちでドリーミー。李心潔の歌い方が切なくて陳綺貞みたいなのが微笑ましい。
ラストは「愛讓我」でしっとりと締めくくります。
なお、初版には豪華(?)写真本と、腕に巻く財布のようなもの(なんですか、これ?)がついてきます。