ヒューズは案外動物好きなんだと、ロイははじめて知りました。


「おはよ、クロ」


朝から猫ベッドの中をのぞきこんで、いそいそとごはんを置いていきます。大佐ともあろう私が、皿に口をつけてスープを啜る屈辱!でも屈辱も空腹にはかないません。いま、こうやって皿の上へ屈んでいるこの一瞬だけは、元の姿に戻してくれるなと神様に祈るばかりです。

そんなロイの複雑な内心も知らない顔で、ヒューズはにこにこと猫を眺めています。専用のブラシも買ってきて、暇さえあれば毛繕いをします。その手付きは、ヒューズがロイの頭を撫でるときとまったく同じで、ロイはまた少し複雑になります。


こいつにとって、私も猫もあんまり変わらないんじゃないか?


なんて…。






「今日は爪を切ろうな」


ひょいと抱えあげられて、ソファの上へ座るヒューズの膝へおろされます。ヒューズは「怖くねえからな」と人間を相手にするみたいに話しかけながら、得意のダガーを出してねこの手をきゅっと握ります。


「あー、エリシアがするぅ」
「これは危ねえから、エリシアちゃんはお風呂係な」
「えー…はぁい」


ヒューズはなぜか慣れたような手付きで、ロイの爪を切っていきます。ソファの足元のラグにぺたんと座って、父親の器用な爪きりをエリシアが興味深そうに見詰めています。自分が朝っぱらから、こんな幸せな家庭のまんなかにいていいんだろうか?猫はちょっと居場所がないような、それでいてくすぐったいようなあったかい気持ちになりました。


「ふうん…」


ヒューズの指が、猫の手をきゅっと軽く返して、薄紅色のぽよんとした部分をつつきます。吐息に、ふっと笑う気配が混じるから、猫は目をぱちぱちして、くるんとヒューズを見上げました。


「……柔らけぇの…」


ふに、と手のうちがわの肉球を親指でやさしくさすられました。なんだか急に恥ずかしくなって、猫はしゃっと爪を出し、ヒューズの手を引っ掻いて膝から飛び下りました。


「クロ、だめでしょ…!」
「いいんだよ、エリシア」



爪には、ちょっぴり血がついています。ロイはちょっと叩いただけのつもりだったから、とてもびっくりしました。おそるおそる振り返ると、ヒューズは笑って、引っ掻かれた指を舐めてみせました。


「猫はな、引っ掻いたりするとこもご愛嬌だ」


私はもしかすると、本当にずっとこのままなのかもしれない。

ヒューズの淡い色の眸に映っているのは、まぎれもない猫です。ロイは情けない気持ちで、爪の先の血をぺろりと舐めました。血は変に甘い絶望の味がしました。