萬屋骨董品店

 


 カランカランと涼やかに鈴が鳴って、通りに面した萬屋骨董品店の扉が開く。
 慎ましやかに押し開かれた扉の影からこっそりと店内を覗き込んだサヴァは、カウンターに2人仲良く――何処ぞの東国の人形のように――並んで腰掛けているルーとデューの姿に、あからさまに安堵の息を吐いた。
 「何やってんの?」
 日頃の豪快な彼女らしからぬ態度を不審に思ったルーが、眉を顰めてそう問いかける。
 サヴァは、ばつの悪さを誤魔化すようにぽりぽりと頬をかいて視線を宙に泳がせた。
 「あぁ、いや、サカキからの呼び出しなんて言うから何か企んでるんじゃないかと思って」
 と、背後から忍び寄る人影がひとつ。
 「随分な言われようですね」
 「うわあっ!?」
 店の中ばかりに気を取られて周囲への警戒を怠っていたサヴァは、突然かけられた声に飛び上がらんばかりに驚いた。
 「や、やぁ、サカキ」
 ギギギ、と軋んだ音が聞こえてきそうなぎこちなさで振り返り上ずった声で今更な挨拶などしてみせるサヴァに、サカキはわざとらしく深々と溜息を吐く。
 「酷いですね。せっかく貴方の分の慰謝料も預かって来て差し上げたのに…」
 「慰謝料?」
 元々切り替えが早く過去の出来事を根に持たない主義の、有態に言って忘れっぽいサヴァは、きょとんとした表情で小首を傾げた。
 サカキは、今度はやや瞳を和らげて、苦笑混じりにもう1度溜息を落とす。
 それから、人当たりの良い整った貌に至極にこやかな微笑を湛えて説明を加えた。
 「ほら、先だって貴方が連れて来た性質も柄も悪い方々がうちの商品を壊してそのまま立ち去ったでしょう?そのお代と利息を、彼等の雇い主に請求したんです」
 相手方はそれなりに名の通った良家のご当主サマで、「部下の独断」とはいえ貴重な宝を求める余り無法を働きサカキに迷惑をかけた事を己の監督不行き届きだと詫び、相場以上の代価を支払ってくれたらしい。
 どこまでが本音のやりとりなのかとかそこに至るまでの過程だとかは心の安寧の為に敢えて訊かない事にして、サヴァは貰えるモノは有り難く頂戴する事にした。
 その上で、そもそもの原因となった存在にようやく思い至る。
 「そういえば、カーバンクルは?」
 それについては、今回の騒ぎの中心となった2人が答えてくれた。
 「アレなら、ソフィア寺院に預けて来た」
 「アトラハシスも、光の魔法を統べる者だから」
 「そっか。確かに大神官様の許にいれば悪用される心配もないもんね。寺院としても光の魔法を強化できるのは喜ばしい事だろうし、大々的にお披露目しとけば逸れちゃった仲間の情報も入ってくるかもしれないし、これ以上ない預け先ってわけだ」
 ふんふんと1人納得して頷くサヴァに、サカキは軽く肩を竦める。
 「まぁ、あの騒々しさには寺院のお偉方も少々辟易していたようですけどね」
 「ふうん」
 サヴァは、それに対しては完全に他人事といった態で何の感慨もないようだった。
 代わりに、にこにこと朗らかな笑みを浮かべて、カウンターの前のデューに向き直る。
 「ところで、改めてデューにプレゼントがあるんだ」
 懲りるという事を知らない彼女の発言にサカキの笑顔が氷点下の冷ややかさを帯び、顔を引き攣らせたルーは無表情に呆れるデューを庇うように腕の中に抱き込んで後退さった。
 

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 迷宮都市カイロの魔法街キリエ。
 占い師や魔道士の屋敷が立ち並ぶその一画に、ちょっぴり風変わりな一軒の店がある。
 淡い燐光を放つターコイズブルーの看板が目印のその店の名前は萬屋骨董品店。
 白い髪の主と二匹の猫が棲むその店には、今日も今日とてもれなくよろず厄介事つきのお宝が持ち込まれているとかいないとか。
 

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