萬屋骨董品店

 


 迷宮都市カイロの魔法街キリエ。
 占い師や魔道士の屋敷が立ち並ぶその一画に、ちょっぴり風変わりな一軒の店がある。
 淡い燐光を放つターコイズブルーの看板が目印のその店の名前は萬屋骨董品店。
 白い髪の主と二匹の猫が棲むその店に、今日もまた何やらいわくつきの品が持ち込まれたようだ。
 

■□■


 カランカランと普段なら涼やかな音を鳴らす筈の通りに面した扉が些か乱暴に開け放たれる。
 息せき切って店内に飛び込んで来たのは、緋い髪の女丈夫、サヴァだった。
 「悪い、ちょっと匿って!」
 常連客の1人である彼女は、勝手知ったる何とやら、留守番を仰せつかっていたルーが何事かと眉を顰めるのにそれだけ言い置いてさっさと店の奥に逃げ込んでしまう。
 ルーが呆気に取られていると、再び扉が耳障りな音を立てて押し開かれて武装した一団が押し入って来た。
 高価そうな武具を身につけている割には気品に欠けるところから判断するに、何処ぞのお貴族様が囲っている私兵集団といったところだろう。
 ずかずかと靴音も高く踏み込んだ店内を無遠慮に歩き回って陳列棚の後ろや家具等の陰を覗き込んでいる招かれざる客に向かって、ルーは一応一般的な注意を促した。
 「お客サマ、商品を乱暴に扱うのはお止めクダサイ」
 大概、この類の手合いは気位ばかり高くて人の話は聞かないくせに自分に向けられた侮蔑には敏感だったりする。
 ご多分に漏れず小馬鹿にしたようなルーの言い回しに反応して、男達は一斉に彼を振り返った。
 その拍子に、中の1人が腰に挿していた得物の鞘が硝子細工の置物を引っ掛ける。
 カシャン、という音に思わず身を竦めたその男に、ルーはからかい混じりに哀れむような視線を向けた。
 「あ〜あ、知ーらないっと。うちの「店のモノ」には性悪な契約魔法がかかってるんだ。壊した以上は責任とって貰わないと、地の果てまで追いかけまわされて償わさせられる破目になるよ?」
 それが癪に障ったのだろう。
 男は内心の怯えを振り払って居直ると、恫喝めいた声音でルーを脅しにかかった。
 「女を出せ」
 だが、ルーはもちろんそんなものには動じない。
 「はぁ?何か勘違いしてんじゃない?ココは骨董屋、生憎生身の人間の売り買いはシテマセン」
 敢えて慇懃無礼な態度で応じて見せたルーの挑発に、男はあっさりと乗せられた。
 「小僧!ふざけてると痛い目を見るぞ!」
 悪役お約束の台詞を吐きつつ自分の半分ほどの背丈しかないいたいけな――少なくともそう見えるルーに掴みかかる。
 次の瞬間、彼は苦痛の呻きを上げて無様に床に這い蹲る破目に陥った。
 「乱暴するなって言ってるだろ!」
 無駄のない動きで殴りかかってきた相手の腕を極めて組み伏せたルーは、足元にある男の頭を踏みつけにして残った男達を睨みつける。
 「店の中で暴れるとサカキが煩いんだ。喧嘩売るなら表に出てからにしろよな!」
 味方を伸されていきり立っていた一団は、微妙に論点のずれたルーの発言に気勢を殺がれて顔を見合わせた。
 ついで、はっと我に返ると剣呑な表情で武器に手を掛ける。
 だが、彼等が襲い掛かる直前、リーダー格と思しき中年の男が鋭く制止の声を投げかけた。
 「止せ!こんな人目につく場所で騒ぎを起こす気か!」
 その一言で自分達の立場を思い出したのか、男達は忌々しげに舌打ちをしながらも武器を収めて身を翻す。
 最初にルーに殴りかかった男は、仲間に助けられて立ち上がると、筋を違えたらしい腕を擦りつつも居丈高にこう言い放った。
 「今日のところは見逃してやるぞ、小僧!だが、次はないと思え!」
 偉そうな台詞とは裏腹に思いっきり逃げ腰の相手を、ルーはふんと鼻で笑い飛ばす。
 「芸のない捨て台詞だなぁ」
 そうして、男達が去った店内を見回したルーは、やれやれと肩を竦めて溜息をついた。
 「まったく、ちゃんと弁償して行けっての」
 

 /BACK     NEXT\