
カランカランと涼やかに鈴が鳴って、通りに面した萬屋骨董品店の扉が開く。 少女が遠慮がちに店の中を覗き込むと、相変わらず黒いロングジャケットに丸眼鏡をちょこんと鼻に乗せた店主のサカキが人当たりの良い笑顔で振り向いた。 「いらっしゃいませ。先日の香炉の件ですね」 彼の腕の中には、今日はこの間ルーと呼ばれていたのとは違うブルーシルバーの毛並みの仔猫がいる。 代わりに、燃えるような橙色の髪をした童子が退屈そうにカウンターに頬杖をついて両足をパタパタと揺らしていた。 どことなく先日の童女に似ているようで、それでいて正反対の雰囲気を醸し出しているその子供に見惚れていると、サカキが奥から香炉を手に戻って来る。 「鑑定の結果は出たんですか?」 期待と不安を半分ずつ抱えて尋ねる少女に頷いて、サカキは落ち着いた声で説明を始めた。 「この香炉は【静の香炉】といって、幻獣である一角獣に縁の品です」 「一角獣?」 「そう。清浄と癒しの聖獣と謳われる伝説の生き物です」 不思議そうに首を傾げた少女にサカキがそう告げると、カウンターにいた童子がぷっと噴き出す。 何がそれほどおかしいのかそのままけたけたと笑い続ける童子をちらっと一瞥したサカキは、気を取り直して解説を続けた。 「【静の香炉】には様々な伝承があります。あなたの身の回りで起きていた不審な出来事は、おそらくこの香炉を狙った人間の仕業でしょう」 それを聞いた少女の心は、一挙に不安に傾いた。 「それじゃあ、この香炉は手放した方が良いのかしら?こちらに置いて買い手を探していただくとか、神殿の宝物庫に奉納するとか…」 「その必要はありません」 半ば縋るような眼差しで見つめてくる少女を安心させるように、サカキははっきりと断言する。 「この香炉には強い守護の力が封じられています。元々主に幸運をもたらす力を持つ護符であるところに、叔母様の貴方への愛情が作用したのでしょう。それに、香炉が貴方を持ち主として認めた以上、これ以上の騒ぎは起こらない筈です」 だから心配無用ですよと言って、サカキは抜群の効果を持つ微笑でこう締め括った。 「分を越えた欲望を抱く事がなければ、その香炉は必ず貴方を幸せに導きます。大切になさってください」 「…はい!」 彼の差し出した香炉を受け取った少女は、深い感慨を込めた面持ちでそれを見つめてから大きく頷く。 「ありがとうございました!」 「またどうぞお越しくださいませ」 小さな香炉を大切そうに胸に押し抱き、入って来た時とはまるで違う輝かしい表情で店を後にした少女は、彼女を見送るサカキの瞳に宿る満足げな笑みとほんの少しの悪戯っぽい光に気づかない。 ただ、カウンターに陣取ったルーが憐れみを込めた瞳を向け、サカキの腕の中でデューが小さく一鳴きしただけだった。 ■□■
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