|
同じ頃、アルとミトラもまた立ちはだかる屍人を相手に奮戦していた。 彼等の相手は烏合の衆の寄り集めではなく、歴戦の兵達だ。 塔の中心を貫く円柱には、螺旋階段に沿って壁龕が設けられており、そのひとつひとつに彫像が飾られている。 それは、戦士達の墓標だった。 階段を上る者が彫像の前に差し掛かると、其処に祀られている死者が蘇り、眠りを妨げる侵入者を排除すべく襲い掛かる。 冥主に呪縛されているとはいえ、生前は何れも一騎当千の騎士や伝説級の魔道士だった人物だ。フィン達が相手にしている雑兵とは訳が違う。 狭い螺旋階段での挟撃を避ける為にも、先に進む前に一体一体確実に仕留めなければならない。 きつい傾斜の階段を駆け上りながらの連戦は、アル達にかなりの消耗を強いる。 まして、祭官詩人という戦闘向きではないクラスに就いているミトラには相当苦しい道程な筈だ。 如何にも手練といった風情の棒術使いを相手に敵の十八番を奪うような鋭い突きで勝負を決めたアルは、傷ついた身体を包む温かな波動を追って背後を振り返った。 「大丈夫か?」 「えぇ」 支援や回復の為に連続して魔法を詠唱し続けている所為もあって息を切らせながらも、ミトラは気丈にそう頷いてみせる。 そんな彼女を気遣うようにややゆっくりとした足取りで階段を上り始めたアルだったが、円柱の周りを半周ほど廻ったところで不意の振動に足を取られて立ち止まった。 ごぉん、ごぉんという腹に響く連続音の発生元を目指して慌てて階段を駆け上る彼の目の前で螺旋を描いていた段差が沈み込み、代わって扇形のバルコニーが出現する。 円柱そのものは、外壁から張り出したもう1つの螺旋階段の中心を貫き、目前に迫った最上階の床に繋がっていた。 「ちっ、後少しだってのに!」 アルは、苛立たしげに舌打ちしつつ剣呑に目を眇めて薄闇を透かし見る。 足場の端に近い円柱の表面に2体の彫像が並ぶやや大きめの壁龕が在り、その奥に赤い光を放つ石が埋め込まれていた。 おそらく、その石が階段を動かす仕掛けのスイッチなのだろう。 「…ラスボスに辿り着く前にアレを倒せってか?」 そう呟いた彼の唇の端が心なしが引き攣っているのは、仕掛けを護る戦士が見るからに手強そうだった為だ。 巨大な双頭の斧を肩に担いだ怪力の戦士と、二振りの曲刀を構えた魔法剣士。 パワーとスピード、破壊力と攻撃レンジのバランスが良い、同時に相手取るには少々厄介な組み合わせだ。 だが、ミトラは相手の様子など全く斟酌しなかった。 「陽動、お願い」 短くそう言いおくなり、僅かな躊躇いもなく敵陣の只中へと走り出す。 「って、いきなり突っ込むかな」 呆れ半分の苦笑いで苦言を呈しながらも、アルもミトラをフォローする為に駆け出した。 仕掛けのある壁龕から距離を取るように、わざと大きな動きで気を惹いて敵を誘い出す。 幸い、生前の意志を失くし判断力を奪われた屍人は、単純に「侵入者を排除する」という使命を優先する方を選んだようだ。 大斧を振りかざして殴りかかる戦士を円を描くように振り回した【クーメイル】で牽制したアルは、返す動きで背後から風のように斬りかかって来た魔法剣士を力一杯蹴り飛ばす。 刃を弾かれた反動でバランスを崩した巨漢が蹈鞴を踏んで後退り、跳ね飛ばされて壁に激突した剣士は強かに打ちつけた背中と蹴られた腹部にかかる負荷に低く呻くとその場に膝をついた。 その間に、ミトラは仕掛けを動かすべく壁龕の奥へと手を伸ばす。 だが、彼女の指が石に触れる直前、アルは視界の片隅に微かな軋みを捉えた。 それが何か悟るより早く、アルはミトラの許へと走り出す。 「待った!」 切羽詰った制止の声にミトラが動きを止めた僅かな隙を逃さず、アルは細い腰に腕を回して彼女の身体を壁龕の前から引き攫った。 次いで、魔法剣士の放った雷撃を【クーメイル】の一振りで撥ね退け様、彼を追って来た戦士に足払いをかける。 追い縋るスピードに自身の体重も加わった勢いを殺し損なって、巨漢の戦士は頭から壁龕に突っ込んだ。 弾みで仕掛けが作動するのと同時に、戦士の足下の床がぽっかりと口を開ける。 断末魔の声も上げずに落ちて行く巨躯を何とも言えない表情で見送って、アルは大きく肩を竦めてみせた。 「やっぱりな〜」 それから、持ち前の素早さを封じられて身動きがとれずにいた死せる魔法剣士を浄化させたミトラに向き直ると、軽く腰を屈めてその顔を覗き込む。 「トラップがあるかもって解ってただろ?」 気まずそうに視線を流すミトラに、アルは身体を起こしながら苦笑混じりに小さく溜め息を落とした。 こんなところまで兄妹で似てなくても、という苦情は、たぶん言うだけ無駄だから胸の裡にしまっておく事にして、代わりにこんな事を言ってみる。 「ミトラに何かあったら、俺がレイに殺されちまう。俺の身の安全の為にもあんまり無茶はしないでくれると有り難いんだけど?」 俯くミトラの頭を大きな掌でぽんと叩いて、アルは再びせり上がった階段に足を踏み入れた。 |