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リヴェレ
―光と水の郷―
青といえば、普通は水とか青空とか、とにかくそういう涼しげなモノを連想しないか?
少なくとも、【青】のステージと聞いて俺が1番初めに思い浮かべたのは水だった。
発想が貧困だと言われようが何だろうが、とりあえず俺の中では青=水という固定観念が成り立っているのだ。
それなのに、この状況は何なんだろう?
シャツの襟元をだらしなく引っ張りながら、俺はうんざりと周囲の景色を眺める。
確かに、空は青い。それはもう、見事なまでに一片の翳りもない底抜けの青空が、見渡す限り何処までも何処までも続いている。
実は、この青空がクセモノなのだ。
現在、俺達が歩いてるのは水の涸れた河床だ。
川岸と思しき辺りにところどころに枯れた草や葉の落ちた低木が残っているところを見ると、雨季にはこの川にも豊かな流れが戻るのだろう。
だが、今はその名残すら全く感じられない。
川の両岸に広がる塩原は、陽光を反射してキラキラと白く輝いている。
これは、大地が干上がる時に地中に含まれる塩が水に溶けて地表に運ばれ、水分が蒸発した為に結晶化したものなんだそうだ。
つまり、この土地はそれだけ乾燥してるってコトだ。
炎天下の砂漠とまではいかないまでも、渇きを覚えるには充分な光景だと思う。
その上、隣には燦々と降り注ぐ太陽の光と眩しいほどの照り返しにも関わらず相変わらずの黒服に身を固めたレイの姿があったりするのだ。
本人は涼しげな顔をしてるけど、見てる方の視覚的ダメージもちょっとは考慮して欲しい。
…「冷気魔法で温度調節くらいしたら?」とか言われると、返す言葉もないんだが。
暑さに茹だった頭でうだうだとどうでも良い事ばかり考えつつ、重い足を引き摺って再び歩き出す。
だが、それほど行かないうちに、塩原の彼方にチカチカと瞬く光を視界に捉えて、俺は再び足を止めた。
「あれは…?」
太陽の光を避ける為に掌を翳して目を凝らす俺に、先を行くレイが素っ気無く応える。
「このステージの目的地じゃないかしら、たぶん」
「…嘘だろ?」
俺は、へなへなとその場にへたり込んでしまった。
だって、此処からあの光の場所までって言ったらかなり遠いぜ?
おまけに、川岸や岩のおかげで僅かなりとも日陰のあるこの川底と違って、日差しを遮るもののない平原を突っ切らないことには辿り着けないときてる。
力一杯落胆する俺に、レイは有り難くもない慰めの言葉を投げて寄越す。
「このまま日干しになるよりは良いんじゃない?」
それは反論の余地もなく全く持ってその通りで、俺は更に項垂れるしかなかった。
そのまま歩き続ける事、約半日。
途中、川の流れを遮るように築かれた石垣に出くわしたのを機に道もどきの河床を逸れ、明らかに人工物と思しき岩壁を伝って来るうちに、気がつけば俺達は先刻目にした光の在り処へと辿り着いていた。
今、俺達の目の前には、傾き始めた午後の陽に眩く映える石灰石の壁に囲まれた城塞都市の門が開かれている。
遠目に光って見えたのは、この街の外壁沿いに廻らされた濠の水面が日の光を反射したものだったらしい。
そう。
街の周りをぐるりと取り巻く濠には、満々と水が湛えられているのだ。
陽光にきらめく水面に映る白亜の街並みは、まるで水上に浮かんでいるかのようだった。
乾いた大地に突如として現れた水の都の存在感は、訪れる旅人の心を圧倒する。
俺自身も、ご多分に漏れず喉の渇きさえ忘れて目の前の光景に魅入られていた。
と、視線を巡らせて俺達に気づいたらしい女性が、城門を離れてこちらへと近づいて来る。
綺麗に頭髪を剃り、深紫の長衣に身を包んだその人物は、俺達の傍まで歩み寄ると胸元で両手を重ねて優雅な所作で腰を折った。
「光と水の郷、リヴェレにようこそ」
その落ち着いた物腰と身なりから察するに、神官とか僧侶とか、それなりに高い位に在る聖職者といったところだろう。
彼女は、真直ぐにレイを見つめて恭しく口を開いた。
「レイ様でいらっしゃいますね?巫女姫様より、ご到着次第浄水宮にご案内するよう申し付かっております」
びっくりしてレイを見ると、僅かに訝しむように眉を顰めている。
どうやら、彼女も事情を飲み込めていないようだ。
案内人らしい女性は、こちらの反応には一切頓着せず、丁重に言葉を続ける。
「お連れの方もご一緒に、との事。まずは巫女姫様の下までご足労願います」
俺達は、困惑気味に顔を見合わせた。