■第5章■
(4)
午後7時45分。
中央ステーションの北口前広場には続々と子供達が集まってきていた。
初等部から高等部まで総勢50人近い彼等は、思い思いの恰好で駅前の電光掲示板を見上げている。
中央地区は学園都市としての色合いが濃く、駅周辺でも日が暮れる頃にはたいてい人影が疎らになる。
いくら土曜日の夜とはいえ、こんな時間にこれだけの数の子供達が、それも何やら妙に高揚した様子で其処此処に座り込んでいるのはある意味異様な光景だった。
通りすがりの大人達が怪訝そうな眼差しを向ける中、年長の子供達は着々と「お祭り」の準備を進めていく。
「ナイト【騎士】の4人はローラーブレード履いたか?」
「全員準備OK!」
「救急セットがひとつ残ってるわよ」
「あー、それ赤のビショップ【僧正】の片割れのだ。無線の調子がおかしいとかでサンディのトコにいたぜ。ついでだから渡して来ようか?」
「お願い。急いでね」
「ルーク【城将】はこっちに集合!ナビゲーターの調整するぞ」
「はぁい」
機動力重視のナイト【騎士】、救護係のビショップ【僧正】、ガイド役のルーク【城将】――チェスの駒に准えた呼び名はアリスがつけたものだ。それぞれの役割に赤白2人ずつの計4人。キング【王】とクイーン【女王】はいない。
広場を包む熱気に晒されて気持ちが昂ぶるのを感じながら見知った顔を探して人込みを歩いていたリンクは、背後から肩を叩かれて足を止めた。
振り返ると、いつも通り落ち着いた様子でカイリが声をかけてくる。
「気分はどう?」
「どきどきしてる」
リンクが思ったままを素直に口にすると、カイリは楽しげに微笑んだ。
そうして、リンクに向けてすっと掌を差し出す。
そこには、三日月を模した銀色のイヤリングが乗っていた。
「…これは?」
「サンディ特製の通信機。高性能マイクと超小型スピーカー内臓で、発信機にもなってる優れモノ」
目を瞬かせるリンクに、カイリは「さすがメカフェチでしょ?」などと笑いながら説明する。
「これ、リンクがつけてて」
言われるままそれを受け取ったリンクは、カイリを見つめて不思議そうに首を傾げた。
「でも、どうして?」
カイリは、その笑顔から悪戯な含みを消す。
「俺達は一緒に行けないけど、リンクが見た物、感じた事をそのまま伝えて欲しいんだ」
僅かに瞳を細めた柔らかな表情は、純粋な優しさを感じさせる。
だが、カイリはすぐに顔つきを改めた。
「それともうひとつ。ウィルから目を離さないでやって欲しい。彼が今夜のキング【王】だから」
そう告げる彼の視線の先では、相変わらず無愛想なウィルがルーク【城将】の少年と何やら話し込んでいる。
ウィルより年上の子供だっているのに何故彼がキング【王】なのかリンクには解らなかったけれど、カイリの予言めいた口調には何だか真実味がある気がした。
それに、確かにウィルには人を惹きつける何かがある。
「一応こっちでも可能な限りフォローはするつもりだけど…」
「うん、何かあったらすぐ知らせるから」
リンクは、カイリの信頼に応える為にはっきりと頷いた。
バイクに乗ったサンディが2人の前に現れる。
「カイリ!そろそろ行くぞ」
「あぁ、解った」
サンディが投げて寄越したヘルメットを手にしたカイリは、振り向きざまもう1度リンクに微笑みかけた。
「気をつけて」
「カイリとサンディも」
リンクの返した言葉に、カイリは軽く片手を挙げて応える。
彼が後ろに跨るのを待って、サンディはバイクのスターターを踏み込んだ。
2人の後姿を見送って、リンクは仲間達に合流する為に踵を返す。
その胸元で、かちりとペンダントウォッチの秒針と短針が重なった。
時計仕掛けの噴水にイルミネーションが点る。
そして、子供達の宴が始まった。