■第5章■
(3)
明かりを消して窓を開けると、部屋の中まで夜の闇が侵食してくる。
今宵は十四夜。上空には、真円に僅かに足りない月が零れ落ちそうな碧い光を湛えてゆらゆらと揺れている。
いつもなら強烈な回帰願望に駆られる筈の景色を前に、リンクはぼんやりと物思いに耽っていた。
机の上に開げたままの課題のノートが、夜風に煽られてぱらぱらと捲れ上がる。
風が止んで、新たに開かれたページには、次学期の履修科目と進路希望の調書が挟まれていた。
――私のしたい事って何だろう。
リンクは、知らず知らずの内に溜息を落とす。
これまでは、テストの結果はじき出された適性を基に、ただ何となく興味のある科目を履修してきた。
けれど最近、漠然とした不安と焦りを感じずにはいられない。
――私は何が欲しいんだろう。
リンクの心は、自然と『夢幻水族館』で知り合った仲間達へと向かう。
見えない何かに刻みつけるかのように、両親の夢を叶えるのだとウィルは誓った。
理想の為に、カイリは自分達を取り囲む世界そのものにさえ挑もうとしている。
重いハンデに肉体を縛りつけられたアリスは、思う通りに生きる自分を誇ってみせた。
自然出産の危険を身をもって知りながら尚自らの胎で生命を育む事に拘るマリナ。
そんな彼女の意志を尊重しつつ、大切なものを護る力を求めるサンディ。
彼等はみんな、確かな望みとそれを追い求める情熱を胸に宿していた。
リンクは、まだそのどちらも見つけられずにいる。
――私の夢って何だろう。
自分の胸に問いかけてみても答えは返らない。
ただ、彼等の望みが叶えば良いとリンクは思う。
その為に、何かできる事があれば良いと。
無機質な風が、リンクの髪を乱す。
花の香りも草いきれも運ばない風は、それでも淀んだ空気に流れを生んだ。
視線の先には、ほんの少しだけ欠けた碧い月。
紺碧の夜空に頼りなく輪郭を滲ませながらも存在を主張し続ける光に、リンクは秘めやかに想いを馳せる。
――この月が満ちたら。
明日、仮初めの均衡を破ったら。
「そうしたら、何かを見つけられるかしら?」
声に出した問いは、窓ガラスに映るダレスの碧い瞳に吸い込まれるように溶けて消えた。