■第5章■
(2)
「叛乱」でも「革命」でもなく「お祭り」という表現を、カイリは用いた。
「今度の満月の夜を、お祭りにしようと思う」
にっこりと綺麗な――しかし挑発的な笑みを浮かべて、カイリはそう切り出した。
≪空の庭≫市の管理システムが長い時間をかけてじっくりとひそやかに人々から奪い去った筈の好奇心と情熱。
それらを呼び覚まし、自分の心の命ずるままに外の世界を見に行こうと彼は告げる。
「おあつらえ向きに土曜日だから、多少夜更かしして次の日起きられなくても遅刻する心配もないし」
こんな時でさえ後先を考えずにはおかないところがカイリらしいといえばカイリらしい。
ほぼ完成した地図をテーブルの上に広げたカイリは、集まった子供達を前に説明を始めた。
「当日は、中央ステーションの北口前広場に集合。午後8時丁度に全市規模で発生するメディアジャックと同時に行動を開始する」
一口に「水の子供」と言っても、『夢幻水族館』には様々なタイプの子供が入り浸っている。
人懐こくて誰とでもすぐに打ち解ける子供、物静かに思索に耽る事を好む子供。明朗快活で活発な子もいれば、聡すぎて一見醒めた印象を与える優等生タイプも、ちょっとすれて斜に構えたような少年もいる。
類は友を呼ぶ、という諺通り何となく似たような価値観の子供同士の間で自然とグループができていて、今此処に集っているのはそういうグループの代表格の子供だ。
彼等は、カイリの言う「お祭り」の時には他の子供達を統率する役目を担う事になる。
「目的地は、北地区の中でも東地区寄りで外壁に接するこのポイントだ」
地図の上に指を滑らせるカイリの言葉を、子供達の中の1人が手を挙げて遮った。
「それなら、各自が自宅から出発する方が近いと思うけど?」
住宅街がある東地区からわざわざ中央地区に出るのは遠回りになるのではないか、と問われて、カイリの隣で腕を組んだサンディが口を挿む。
「夜8時っつったら、赤ん坊は寝てる時間だろ?」
「近所迷惑はイケマセン」などと嘯くサンディに頷いて、カイリは続けた。
「この辺りは街の外壁が剥き出しになっていて、マザーから引き出した設計図通りなら何処かに各地区に設置された隠し扉が在る筈なんだ。皆には其処から外壁を上ってもらう事になる」
「皆にはって事は、カイリは別行動なの?」
「俺はサンディと「叡智の塔」に向かう。調べたい事があるし、管理システムや警察を抑えておく必要があるからね」
心なしか不安げな声で尋ねる少女にカイリが穏やかに応えると、さっきとは別の少年が難しい表情で問いかける。
「隠し扉は各地区に在るんだろ?北地区は「叡智の塔」から近いからやばいんじゃないか?」
敵地と言っても差し支えない場所に乗り込むカイリ達の身を案じる少年の危惧するところは解る。
だが、カイリは静かに首を横に振った。
「それでも、消去法でいくとこれがベストなんだ」
「1番警備の手薄な南地区は、騒ぎになると日常生活に支障を来たす恐れがあるだろ?東地区も一般市民への被害が出かねないから却下。西地区は行政機関が多いだけに警戒が厳しいし、となると残るは北地区ってわけ」
彼と目線を交わしたサンディが、子供達の不安を拭おうと軽い調子でそう言い添える。
「幸い、目的地付近にはスクラップ工場があるだけでそれほど警備も厳重じゃない。それに、そもそも俺達は「叡智の塔」を乗っ取るつもりでいるんだから、大丈夫。心配いらないよ」
何が「大丈夫」なのか、物騒な台詞を吐くカイリの不敵な笑みは集まった子供達の胸を騒がせた。
そんなカイリのタラしぶりに、サンディは内心苦笑する。
同じようにカイリに誑かされなかったウィルが、それまでの沈黙を破って話を引き戻した。
「それで、外壁を上れば外に出られるのか?」
まっすぐ視線を投げかけるウィルに、カイリは小さく肩を竦めてみせる。
「構造上、≪空の庭≫市を覆うシェルターは二重になっているらしい。俺達の視界は外壁の基礎部分に遮られてるわけだけど、外壁の上まで行けば少なくとも街の外の景色は見えるようになる。シェルターから出られるかどうかは解らないけど、とりあえず外の世界をこの目で見るっていう目的は果たせる筈だよ」
それから、一同は「お祭り」の具体的な打ち合わせに入った。