■エピローグ■
「お祭り」の夜から半年余りが過ぎたその日、リンクは『夢幻水族館』を訪れるべく南地区行きのオートロードに乗って、過ぎ行く街並みを眺めていた。
≪空の庭≫市は、現在も「マザー」の管理下に置かれている。
それはそうだろう。
いくら真実を知らされたとは言っても、人々も街もすぐに変わる事などできはしないし、現実に生活に必要な環境を整えてくれているのは「マザー」なのだ。
それでも、以前のように「マザー」が人々の思想にまで干渉してくる事はなくなった。
やがては、街の運営そのものも市民に任される日が来るだろう。
今は、それまでの準備期間のようなものだ。
そんな事を思い巡らせている内にステーションに到着して、リンクは弾む足取りでオートロードを降りる。
今日は、『夢幻水族館』の再開店祝いだ。
あの後すぐに産休に入ったマリナは、無事母親似の女の子を出産した。
どうやら、人の肉体は少しずつ環境に適応し始めているらしい。
金色に近い茶色の瞳をしたその子はモナと名づけられ、元気にすくすくと育っている。
サンディは、≪空の庭≫市のエンジニアを続ける傍ら子供達に機械弄りを教えるようになった。
「マザー」が独占していた技術を広めるのが目的だと本人は言っているが、周りはただの趣味だと信じて疑っていない。
ちなみに、相変わらず仲間達の間では便利屋としてこき使われていたりする。
アリスは、≪空の庭≫市から公式に情報の管理を任され、【aquarium】を引き継ぐ事になった。
主を失ったプログラムを管理する者が必要だと彼女自身が立候補したそうだ。
ダレスに逢えなくなってどこか淋しそうにしていた彼女だけれど、最近は以前の明るさを取り戻しつつある。
カイリは、≪空の庭≫市のブレイン候補をあっさり降りると大学の生物学部に飛び級で進学した。
「ブレイン候補なんて勝手に決められた事だから関係ない」とは彼の言だが、やはり意外という感は拭えない。
だが、喪われた生き物を甦らせる為という志望動機は、ロマンティストな彼らしいと思えた。
ウィルは、宇宙港に眠っていたシャトルを動かそうと頑張っている。
いつか必ず地球に還るのだと熱を込めて語る彼に惹かれて、同志が集っているらしい。
彼なら、そんな夢も本当に叶えられそうな気がするから不思議なものだ。
そして、リンク自身はと言うと、相変わらずはっきりとした未来像を描けずにいた。
ただ、最近は≪空の庭≫市のブレインを目指してみようかと考えている。
皆のやりたい事が叶えられるように、少しでも手助けできたら良いと思う。
ふわりと潮の香りの風が吹いて、リンクは長い髪を抑えながらふと空を仰ぐ。
漆黒の夜空で、碧い光を放つ望の地球に満ち足りた微笑を浮かべて、リンクは『夢幻水族館』の扉を開いた。