運命の流れが一巡りした時
〜ハルディア〜
横 顔-5-

 吐き出す様にそう言うと、彼は穏やかにフッと笑った。
「私の身体一つで、この旅が続けられるなら、安いものでしょう?」
 レゴラス…、あなたという人は……。
 彼は少し背伸びをして、私の首に両腕を回す。そして耳元で囁いた。
《抱いて下さい、ハルディア》
 冷たい彼の身体を、寝台に横たえる。
 腕の中のレゴラスは、やはり抵抗するわけでもなく、私の愛撫に時折声を上げるだけで、心はここに在らずという感じだった。
 これは、彼を無理矢理手に入れようとした、私への罰だ。
 グロールフィンデル様の腕の中のあなたは、あんなに官能的な声をしていたのに。
 レゴラスの足を開かせ、露わになった蕾へ指を挿入させる。
 ビクリと身体に緊張が走るが、すぐに弛緩し私の指を受け入れ始める。
 体温の低い身体とは裏腹に、レゴラスの中は私の欲情を燃え上がらせるには、充分過ぎる程熱かった。
 彼は遥か彼方を見つめ、大きく息を繰り返し、何か言おうとする唇を震わせる。
「……っあ…んっ」
 出し入れする指が、レゴラスの感じる場所を探し当てた様だった。
 更に本数を増やし、そこを重点的に攻める。
 レゴラスの呼吸が次第に早くなり、声も高くなる。身体も熱を持ち始めた。中心は勃ち上がり、先端から液体を滴らせ、腰を淫らにくねらせる。
「はぁ…ぁ…んっ…」
 下半身に伸ばされた彼の手を払い、私はそれを口に咥える。
 舌を使い舐め上げたり、歯で先端を少し強めに噛んだりと刺激を与える毎に、それは固く大きく変化して行く。
 前と後ろを犯され、耐え切れなくなった肉棒は、一度私の口の中で果てた。
 彼の欲望を飲み下し、後腔を犯す指を引き抜く。深呼吸を繰り返し、息を整えようとしているレゴラスの腰を持ち上げ、今度は私のものを突き立てる。
「あぁ…あっ……!」
 だが、どんなに犯そうとも、彼は私を見る事も名を呼ぶ事も無かった。
 私は心密かにあなたを想っている時も、こうして抱いている時も、あなたの横顔ばかり見ているのだ。私ではない、他の誰かを見ている、あなたの横顔を。
 涙を滲ませ、固く目を閉じ、白い顎をのけ反らせてあなたは声を上げる。
 私は一層、繋りを深くした。
 寝台のシーツを握り締め、美しい彼は頭を左右に振りながら、金の髪を散らす。
「はぁ…ん、あっ…!」
 一際高く声を上げ、何かの言葉を形作っていたレゴラスの唇が言葉を紡ぐ。
「…ぁあ…、ア…ゴルン…!」
 私は動きを止めずにはいられなかった。
 私に犯されながら、ずっと心の中で呼んでいたのは、アラゴルンだったのか。長年の恋人である筈のグロールフィンデル様ではなく、限りある命しか持たぬ人間のアラゴルンの名。
 レゴラスは私の突き上げが止まって、初めてアラゴルンの名を口にした事に気が付いた様に、ゆっくりと目を開け、初めて私を見つめた。
 私は彼の身体を支配している、己のものを引き抜く。
 軽く呻き声を上げ、レゴラスは上半身を叱咤しながら起き上がった。
「…ハルディア…」
「仲間の元に戻られよ」
 そう告げる事しか出来なくて、私はその場を立ち去った。
 マルローン樹を支えとする螺旋階段を降り、下草の生えた冷たい地上へ足を着く。
 そこからレゴラスがいる、寝室の方角を見上げた。
 こうなる事は、予測出来た筈だった。――相手がアラゴルンである事は、予想外だったが…
『例えるなら、そうですね…。彼は蝶ですよ。何人も捕らえる事の出来ないね…』
 あの上のエルフは、当時まだ産まれてもいない人間の存在を、予測していたのだろうか。
 私は額に手を当て、唇を噛み締める。涙が落ちるのを堪え、マルローン樹の幹に背を預け、その場に座り込んだ。
 快楽の余韻の残る、火照った身体を持て余し、彼の中で果てる寸前だった自分のものを扱く。
「…んっ、レ…ゴラス」
 手酷く拒絶されたにも拘らず、私はまだ彼を諦める事が出来ずにいた。
 手の中で果て、掌を濡らした精液をぼんやりと眺め、自己嫌悪に陥った。
 こんな取引など、すべきではなかった。


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