私は握り拳に力を入れる。
「――あなたを愛し、あなたを見つめているのは私だけで充分…」
「グロールフィンデル様も嫉妬なさるのですね」
レゴラスは僅かにこちらを見て、笑った様に見えた。
「――そういう理由なら、許して差し上げます」
ヨロヨロと立上がり、腰帯を結ぶ。
私はレゴラスの足許に落ちている薄緑色のローブを拾い上げ、後ろから肩に羽織らせる。今度は手を振り払われる事は無かった。
「愛してますよ。あなたを愛してる…」
レゴラスの両肩に手を添え、左頬に唇を寄せる。
レゴラスは私の愛の言葉に、甘い口付けで返してくれた。
「私は大丈夫ですから。先にお戻り下さい」
しかし彼の口から出たのは、私への愛の言葉ではなく、拒絶とも取れる言葉だった。
レゴラスは静かに、ゆっくりと私から身体を離すとロスロリアンの森の奥へ姿を消した。
プライドの高い彼の事だ。このまま誰にも知られぬ様、情事の跡を消すのだろう。
私の手で後処理までするのが本当なのだが、今回に限り、無粋な事は出来なかった。
辺りには、香油の甘い残香が仄かに漂っていた。