immoral -14-

 公衆の面前での行為に、照れ隠しをする為に、最後のピクルスをムキになって振り落とした。
「デカくないよ。普通だろ?」
 言われてみればその通りで、会話のみを聞いてれば、普通の内容だ。
「――で、何をくれるんだ?」
「か、考えておくよ!」
 ニヤニヤ笑いながら、こちらを見ているヴァン・ヘルシングに冷たく言い放って、大口で食事を始める。
「楽しみにしているよ」
 カールをからかうのを止め、自分も食事を始める。
「そう言えば、ヴァン・ヘルシング」
 下心を抱いて、あれこれ考えていると、カールが話し掛けて来た。
「ガブリエルだろ?」
「あ」
 そう言えば、と思い出した様な顔をして、身体をヴァン・ヘルシングにくっ付けると、声を潜める。
「――こ、こんな所で急に恥ずかしいよっ」
「だったら何時なら良いんだ?」
 まるで、約束が違うとでも言いた気な口調は、今までと変わらない大きさだ。
「何時って…二人きりの時じゃダメかな」
 ぴったりと寄り添って、周りに聞かれはしないかと、目を泳がせる。
 突然聞こえなくなったカールの声に、周りは素知らぬ態度で黙々と食を進めながら、全神経を二人に集中させていた。
「……仕方ないな」
 口では渋々承諾したものの、内心ではまた二人だけの秘密が出来た事に、北鼠笑んでいた。
「――で、何だ?」
「何だっけ?――あぁ、そうそう。今日、出発するんだよね? 何時頃に出るの?」
「はあ? 何の話だ?」
 スープを喉に流し込む手が止まる。
「だって、次が決まったんでしょ?」
 確かに次の任務は決まったが…。
「今日が出発だなんて、誰に聞いたんだ?」
 人を疑う事を知らない無菌培養のこの修道僧は、どうやら偽情報を吹き込まれたらしい。
「ジョルジオだけど」
 やっぱりアイツか!
 ヴァン・ヘルシングはスープ皿とスプーンをトレイ置くと勢い良く立ち上がり、自分の可愛い恋人に嘘を吹き込んだ張本人を捜すべく、食堂中を見渡す。
 周りの修道僧達は、一斉に背を向け、わざとらしく会話をしたり、慌てて十字を切り、祈りを始めたりする。
 その相手は意外と近くにおり、ヴァン・ヘルシングと目が合うと、持っていた皿で、さっと顔を隠した。
(あンのヤロー!!)
 ヴァン・ヘルシングはジョルジオを睨み付ける。
「ヴァン・ヘルシング、据わりなよー」
 カールは今にも掴み掛かりそうな勢いのヴァン・ヘルシングを宥めながら袖を引く。
 怒りのオーラを発しながら、渋々腰を下ろす。
「来週だよ。出発は来週だ」
 半ば苛立ちながら、ヴァン・ヘルシングは食事を再開する。
「そうなんだ。でも良かった! あのまま離れ離れだなんて、ゴメンだもんね」
 照れ笑いを浮かべながらそう言うカールに、ヴァン・ヘルシングの視線は釘付けになる。
 言われてみれば、カールの言う通りだった。ジョルジオが機転を利かせてくれなければ、今こうして笑い合ってなどいられなかった筈だ。
「……。ある意味、ヤツに感謝だな」
「え?」
 ヴァン・ヘルシングが漏らした独り言が聞き取れなくて聞き返す。だが、ジッと見つめられたかと思うと、頭を抱えられ、後頭部をクシャクシャに撫でられた。
「や、止めてよっ!」
 その声音はとても嬉しそうで、笑いも混じっている。
「早く食え!」
 二人を囲む、この実際に目には見えていない筈の、ピンク色をした空気を察し、ゴシップ好きの修道僧達には、何があったのかおおよその見当が付いた。
 そして誰もが心の中でこう思った。
 『しばらく退屈しないで済みそうだ』と。

 カツンカツンと、石畳の回廊に足音が響く。
 荷物の入った袋を背負うヴァン・ヘルシングと、その少し後ろを彼の荷物を抱えたカールが厩舎に向かっていた。
「ねぇ。僕、考えたんだけど」
 小走りで、ヴァン・ヘルシングに追い付き、並んで歩く。
「何だ、一緒に来たくなったのか?」
 冷やかし半分、本根半分で問うてみる。
「ち、違うよ!!」
 顔を赤らめながらも、否定の言葉を即答され、内心がっかりする。
「――やっぱり“ガブリエル”は止めようよ」
 その言葉に、少しムッとし、カールをチラリと見下ろす。
「何故だ?」
「だって長いし」


←BACK NEXT→