「あ…。うん、大丈…夫」
カールの後腔から、白い液体がトロリと流れ落ちた。
「カール、ちょっと待ってろ」
ヴァン・ヘルシングは寝台から降り、何処かへ行ってしまった。
体勢を変え、背中を丸めると、腰に痛みを感じる。眉を顰めるが、幸せだった。
神はこの事を、お赦しにならないだろう。しかし、「共に墜ちよう」と言ってくれたヴァン・ヘルシングの言葉が有れば、何も怖く無かった。
カールは二、三回目を瞬くと、眠りに落ちた。
翌朝。
カールが目を覚ますと、ヴァン・ヘルシングの逞しい腕の中に居た。
「起きたか?」
寝ぼけ眼で、ぼんやりした頭のまま、声のする方へ顔を上げると、ヴァン・ヘルシングの顔が覗き込んでいた。
「ヴァン・ヘルシング!」
彼の顔を見た途端、昨夜の事を思い出して、一気に熱が上がる。
自分も彼も一糸纏わぬ格好の為、秘め事が夢ではないと悟った。
「お早う、カール」
額に掛かった金色の髪を退け、ヴァン・ヘルシングはそこにキスをした。
「お…お早うございます」
寝顔をずっと見られていたかと思うと、気恥ずかしくて、まともに顔が見れなかった。
彼は瞼や鼻先、頬へと顔中にキスの雨を降らせる。
目を閉じて享受していると、最後に唇を塞がれた。
「…っん」
唇を離し、ゆっくり目を開くと、ヴァン・ヘルシングが優しい目指しで見つめていた。
「愛してるよ、カール」
その言葉に心臓が跳ね上がる。
自分も何か返さなければ…。
「僕も…好きです」
「それだけ?」
「え?」
「好きなだけ?」
カールは首を振る。
「…大好き」
「それから?」
音を立てて、もう一度額にキスをする。
カールには勇気を貰った様な気がした。
背中に腕を回し、ヴァン・ヘルシングの厚い胸板にしがみつく。
「僕も愛してる、ヴァン・ヘルシング」
とうとう口にしてしまった。
でも後悔や懺悔の気持ちよりも、嬉しさや恥ずかしさの方が強かった。
しばらく抱き合っていると、ヴァン・ヘルシングが口を開いた。
「なあ、カール。その敬語止めて、普通に喋ってくれないか?」
確かにヴァン・ヘルシングの方が年長者だと思われる為と、仕事のパートナーという立場上、カールは彼に対して敬語を使っていた。
「そ、そうで…そうだね」
今はもっと近しい存在になったのだから。
「それから、俺の事は名前で呼んでくれないか?」
「名前?」
キョトンとしてヴァン・ヘルシングを見る。
「ヴァン・ヘルシングでなく、ガブリエルと」
この男がここに来て、自分の名前すら判らないと判明した時に与えられたフルネームが『ガブリエル・ヴァン・ヘルシング』だという事を、すっかり忘れていた。
照れているのか、目を合わせてくれない。
「――恋人同士だからな」
本当の名前ではないが、一番大切な人に呼んで貰えれば、聖騎士団の一人としての存在意義がより上がる気がした。
少ししんみりとしたヴァン・ヘルシングを元気付け様と、明るく返事をする。
「うん! 判ったよ。…ガブリエル」
慣れない呼び方に、ほんの少し戸惑う。
「ありがとう、カール」
ヴァン・ヘルシングは恋人の身体を抱き締めた。
久し振りに二人でとる食事だった。
以前の様に、隣り同士に座り、回りはモンスター・ハンターを恐れて、席を一つ二つ空けて座る修道僧達が取り囲む。
いつも通りの風景だった。ただ違うのは、仲違いしていたこの二人の仲が元鞘に納まった原因を探るべく、ゴシップ好きの周囲の修道僧が聞き耳を立てている事だった。
「ヴァン・ヘルシング」
「ガブリエル」
カールがヴァン・ヘルシングの名を呼ぶと、空かさず訂正される。
「う、うん。そうだね。――これあげる」
カールには呼び直す事が出来ずに、いつもの様に、食べられないピクルスを、一つ一つフォークに突き刺し始める。
「食ってやるから、他にも何かくれよ」
その様子を見ながら、ヴァン・ヘルシングは見返りを要求する。
「そしたら、僕の食べる物が無くなっちゃうよ」
突き刺したピクルスを振り落とすが、なかなか落ちなくて苦労する。
「別に食い物じゃなくても良いんだがなー」
「……!」
左肘をテーブルに付き、もう片方でカールの相変わらずの寝癖頭を梳く。
この指先の動きで、言葉の意味する暗喩を読み取ると、ピクルスを皿に振り落とす手が止まり、顔が赤くなる。
チラリとヴァン・ヘルシングを見ると、その瞳は恋人を見つめる目だった。
心臓が早鐘の様に打ち鳴る。
「こ、声がデカいよ!」