仮にも修道士の身分で、大天使の名を呼び捨てにする事は躊躇われたし、ヴァン・ヘルシングを呼んでいる気分にはなれなかった。
ヴァン・ヘルシングの方は、今迄の方が長いだろ、と言いたかったがそれを堪える。
「だったら何なら良いんだ?」
「そう! それでさ。考えたんだけど、“ガブ”ってなら、呼んであげても良いかなーって!」
悪戯っ子の様にこちらを見上げる上目遣いに、ダメとは言えなくなる。
それにこちらの呼び方の方が、親密度が増す事に気が付いた。
「オーケー、判ったよ」
そう言うが早いか、カールの肩を抱き、頬にキスをする。
「もう!!」
抱えていた袋を石畳に落とし、振り上げた拳で、ヴァン・ヘルシングの背中をポカポカ叩きまくる。
「怒るなって! 嬉しかったろ?」
「う…ん…」
本心を見抜かれて、不満で口を尖らせる。
「なら、良いじゃないか。荷物、拾って来てくれよ」
背後からでも、ヴァン・ヘルシングが鼻歌でも歌い出しそうな程、ご機嫌なのが伺えた。
「でも二人きりの時だけだよ!!――もう、待ってよ!」
その背に向かって叫び、袋を拾い上げると、パタパタと小走りでヴァン・ヘルシングの後を追う。
カールのコロコロ変わる表情に、ヴァン・ヘルシングは苦笑する。喜んだり、落胆したり、怒ったり…。どの仕草も可愛くて、わざとそう仕向けるのだ。
(しばらくは寂しくなるな)
秘めた想いを抱き続けて二年。やっと恋人同士になれたというのに、すぐに離れ離れにならなければならないのは、苦汁の思いだった。
「…ガブ?」
遠慮がちに名を呼ばれ、カールを見下ろすと、彼は怪訝そうに僅かに首を傾げた。
その表情が、悪戯心を擡げさせる。
ヴァン・ヘルシングはニヤリと笑うと、カールの鼻を摘んだ。
「も…ぅ! 何するのさ!」
手をバタつかせて、ヴァン・ヘルシングの手を振り払おうする。が、ヴァン・ヘルシングの大きな節くれ立った手は直ぐに放され、頭をクシャクシャと撫でられた。
「行って来るよ」
担いでいた荷物を愛馬の背に乗せる。
「うん、行ってらっしゃい」
カールは、自分が持っていた手荷物を彼に渡す。
「――気を付けてね」
「あぁ」
それを受け取ると、帽子を被り直す。
「僕、待ってるから」
少しの間とはいえ、別れるのが寂しくて、涙が滲んで来る。
何度も見送りしている筈なのに、こんな事は初めてだった。
返事の代わりに、ヴァン・ヘルシングは今にも泣き出しそうな修道僧の唇に、自分の唇を重ねた。
いきなりの事で目を丸く見開き、思考が止まる。
「寂しいからって、浮気するんじゃないぞ」
人差し指でカールの額を突っ突き、怯んだ隙に馬に跨がると、ヴァチカンを後にした。
「もう…そんな事する訳ないだろ」
額を擦りながら呟いた声には、嬉しさが滲んでいた。
そしていつもの様に、彼の無事を祈り、十字を切った。
終