immoral -11-

 晩課の鐘が鳴り、僧達が慌ただしく食堂に向かうどさくさに紛れ、無許可で外出したのがジネットに見付かったのだった。
 適当な店を選んで、一人で飲んでいると、水商売風の女を連れた男が絡んで来た。
 最初は無視を決め込んでいたものの、しつこく絡んで来る為、次第に怒りが込み上げて来た。
 そして――拳を一発お見舞いしてやった。
 酔いもあって、手加減出来ず、無敵の男に殴られた男は、店の外まで吹っ飛んで行った。
 グラスの残りを一気に呷り、金を払うとそのまま店を後にしたが、アルコール臭をさせたままヴァチカンに帰る事は出来ず、今迄ローマの街を徘徊していたのだ。
 しかし、何処から情報を知ったのか、抜け道の扉を開けた途端、そこに立って道を塞いでいたのは、赤い僧衣を身に着け、額に青筋を浮かせたジネットだった
のだ。
 言い訳をする間も無く、耳を引っ張られ懺悔室へ閉じ込められ、小言を聞かされていたのだった。
 ジネットの言う事は一々正しい。だからこそ、反論出来ないし、頭も上がらない。
(くそーー!――…?)
 蝋燭の薄明かりの中、自分の部屋の前に何かが置いてあるのが目に止まった。
 用心して近付くと、それは蹲って寝息を立てているカールだった。
「カール? 何やってんだ。風邪引くぞ」
 ヴァン・ヘルシングは、すっかり眠りコケているカールの肩を揺らす。
「ぅ…ん…」
 眠気眼を擦り、カールは目を覚ます。
「――ヴァン・ヘルシング!」
 自分を起こした人物を認めると、一気に目が覚め、その名を叫ぶ。
 その声は、寒々としたヴァチカンの静まり返った廊下に響いた。
「しっ! 時間を考えろ」
 ヴァン・ヘルシングは、カールの口を慌てて押さえる。
「ご、ごめんなさい」
「取り敢えず、中に入れ」
 部屋の中に入ると、ヴァン・ヘルシングは被っていた帽子をテーブルに置き、ランプに明かりを入れる。
 決して明るくないものの、橙色の灯の中に俯いたカールの姿が浮かび上がった。
 二人の間に気まずい空気が流れる。
 何か言わなければと、カールが口を開こうとした時、先に沈黙を破ったのはヴァン・ヘルシングの方だった。
「この前はすまなかった」
 ヴァン・ヘルシングの言葉に、カールは顔を上げる。
「――もうしないよ」
 カールは激しく頭(かぶり)を振る。
「そんな事、言わないで下さい! 謝らなきゃいけないのは、…僕の方です」
 カールは思わず叫び、ヴァン・ヘルシングの方へ駆け寄る。
「…僕、やっぱり」
 ヴァン・ヘルシングを見上げる瞳が、揺れていた。
 カールの指先が、ヴァン・ヘルシングの薄らと無精髭の生えた頬を撫でる。
「――あなたの事が…好き」
 カールは背伸びをし、ヴァン・ヘルシングの唇に自分の唇を軽く重ねた。
 唇を離すとしばし見つめ合う。
 既に二人の間に、蟠りは無かった。
 爪先立ちのカールは、踵を付こうとヴァン・ヘルシングから身体を離そうとすると、ヴァン・ヘルシングに抱き締められ唇を塞がれた。
 カールも腕をヴァン・ヘルシングの首に回し、抱き付く。
「…んっ」
 何度も向きを変え、深く口付け合う。
「カール、愛してる」
 唇を離すと、ヴァン・ヘルシングはそう言った。
「僕もだよ」
 それに答え、カールも腕に力を込める。
 でも、まだ「愛してる」という言葉を口にするのは恥ずかしかった。
「良いのか?」
 カールは黙って頷く。
「神の教えに背く事になっても?」
「…うん」
 もう一度カールは頷いた。
「ならば、共に墜ちよう」
 そう言うと、ヴァン・ヘルシングは激情のままにカールを抱き抱え、縺れ合う様に寝台に転がる。
 カールは目を閉じ大きく深呼吸する。
「後悔してないか?」
 目を開くと、ヴァン・ヘルシングの黒い瞳が心配そうに覗き込んでいた。
 カールは笑顔を作ってみせる。
「後悔なんて、とうにしてるに決まってるじゃない」
 そう、自分の気持ちに気付きながらも、彼を拒否してしまった事を。
 こんなに近くに居て、いつしか大切な存在になっていた彼を、危うく無くしてしまう所だった。
 カールはヴァン・ヘルシングの両頬に手を添えると、額にキスをした。
 ヴァン・ヘルシングは苦笑すると、腕の中の恋人の胸先に顔を埋める。
「…ぁ」
 きつく吸われ、息が熱くなる。
 不安はあったが、嫌悪は無かった。
 ヴァン・ヘルシングの唇が、舌が、指先が身体に触れた箇所は、急速に熱を帯びる。
 それが下半身に及ぶと、最高潮に達し、以前の羞恥心は無く、ただ与えられる快楽に身を委ねる。


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