immoral -2-

 そんな彼の為に徹夜をするのはバカらしくなり、夜着に着替えるとベッドに潜り込んだ。
 しかし怒りで直ぐに眠れる訳も無く、枕を抱えてヴァン・ヘルシングへの思い付く限りの悪態を突いた。
(傲慢で向こう見ずで気取り屋で…えーと、意地悪で横柄で何を考えてるか判らないし、それから…)
 そこまで考えて、カールは今まで寄せていた眉間を緩めた。
(――でも、優しいんだよな)
 現に先程も、うたた寝をしていた自分に、何も言わずコートを掛けて行ってくれた。
(そう言えば、この前帰って来た時も…)
 彼が自分にしてくれた数々の出来事を思い出して、まるで恋をしている様だと、思った瞬間、胸の鼓動が早くなるのを感じ、頬も火照ったのを感じた。
(何をバカな事、考えてるんだ)
 不貞な考えを振り払う様に、抱えている枕に、顔をグリグリと押し付ける。
 自分は一生を、神に身も心も捧げる修道士だ。同性愛などもってのほか外。自分の役目は、神の御名に於いて、彼の為に武器を創るだけだ。
 彼が無事に、ここへ帰って来れる様に。

 翌朝。
 食堂で一人、朝食を食べていたカールの横に、ヴァン・ヘルシングがやって来た。
「カール」
 口をモグモグさせながら、相手の顔を見上げる。
「……ブァン…んぐ、ヘルシング。お早うございます」
 彼の名を呼びながら、口の中のものを慌てて飲み込む。
「お早う」
「ゲホっ…ゲホっ…、く…苦し…」
 続けて水を流し込んだカールは、気道に水が入り込み、噎せ返した。
「慌てるな。頼みがあるんだが、良いかな?」
 ヴァン・ヘルシングは労る様に、カールの背中を擦る。
「う…ん、ケホっ、良いよ」
 片目で、如何にも苦しそうな顔をこちらに向けて来たカールの目尻には、薄らと涙を滲ませていた。
 噎せ返しがようやく治まったのを確認し、安心させる様にカールの背を軽く叩く。
「武器を直して欲しいんだ。刃がボロボロでね」
「じゃあ、直ぐに取り掛かるよ」
 食べかけのパンが乗ったトレイを持って立ち上がろうとするカールを、ヴァン・ヘルシングは制した。
「飯の後で良い。部屋で待ってる」
「ヴァン・ヘルシング、あなたは食べていかないの?」
 カールはパンを一口、放り込み、去って行く彼の背中に問い掛けるが、手をヒラヒラさせただけで、食堂から出て行ってしまった。
(あんな目で見られたら、こっちが耐えられない)
 涙で潤んだ碧い丸い目を思い出し、自室へ向かいながら、ヴァン・ヘルシングは身震いをした。
「ヴァン・ヘルシングは、また、キミの部屋に入り浸る気なんだな」
 カールの斜め向かいで食事をしている僧が、身を乗り出し、声を掛けて来た。
「あぁ、うん。そのつもりの様だね」
 質素な料理の中の一つのゆで卵を頬張りながら、半分上の空でそれに答える。
「ここへ帰って来ると、いつもそうだよな」
「そうやって、僕にプレッシャーを与えているのさ」
 卵を味付けの薄いスープで、喉に流し込み、最後の一口のパンを放り込む。
「――あの怖い顔でね」
 ナプキンで口を拭い、トレイを持って立ち上がる。
「えぇ!? カール。本気でそう思っているのかい?」
「何で? 違うの?」
 僧があまりに驚くので、カールは目を丸くして、反対に聞き返す。
「え、いや…。本当にそう思っているなら、何も問題は無いよ。ただ、彼の場合、見え見えだからさ」
 カールは、僧の隠し事をされている様な口振りに、眉を顰める。
 特に、ヴァン・ヘルシングとは仕事の繋がりも無い目の前の男は知っていて、自分は何も知らない隠し事には、不快感を覚える。
「だから何がだよ? ジョルジオ、きみの言ってる意味判らないよ」
「何って…」
 ジョルジオは小さくカールを手招きする。
 カールは興味をそそられ、再び椅子に腰を下ろし、身を乗り出して耳を男に近付ける。
「――ヴァン・ヘルシングがキミの事、好きだって事だよ」
「えぇっっ!!?」
 カールは思わず大声を上げ、飛び退いた。
 周りの修道士達が、ジロリと睨んで来る。
「ま、まさか…そんな事有り得ないよ」
 再び、身を乗り出して声を顰める。
「――だって、ジョルジオ。彼は傲慢で向こう見ずで気取り屋で…えーと、意地悪で横柄で何を考えてるか判らない人じゃないか!」
 何処かで聞いた彼への悪態を、早口で捲し立てる。
「へー」
 ジョルジオは意味深な視線で、余裕の無くなったカールを見る。
 それは何処か楽しそうで。
「余程、キミはヴァン・ヘルシングの事が嫌いな様だね」


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