■butterfly-2-■ 「いいえ、違いますよ。私の身体が、あなたの匂いに包まれてる、って事ですよ。確かに綺麗にして欲しいですけど、このコートにはあなたの過去の苦労が、全てが染み込んでる」(←レゴ匂いフェチ?)
アラゴルンはそれに答えず、顔を背けると「火を起こしてやる」と言うと、薪を拾いに森の中に消えてしまった。
レゴラスはつまらなさそうに溜め息を吐くが、悪戯を思い付いた子供の様に笑うと、アラゴルンのコートを持ったまま再度、川の中に入って行った。
程なくして、彼が帰って来たのが見えた。
辺りを見回してる所を見ると、自分を捜しているのか。
「アラゴルン! ここですよ!」
肩まで水に浸かり、手を振る。
「俺のコートは!?」
まさか探していたのはこのコート?と、何か釈然としないものを感じる。
「それもここです」
プカプカと浮かびながら、コートの袖を振ってみせる。
「返せ!」
レゴラスが腰を下ろしていた岩の上から、コートの持ち主は叫ぶ。
「嫌です。私を捕まえたら返してあげます」
そう言って、軽く手を振ると、川の中に頭から身を沈めた。
しかしアラゴルンは直ぐに追い掛ける様な事はせず、小悪魔なエルフが水中から現れるのをじっと待ち、水面に目を凝らす。
長い時間が経った様に思われたが、エルフが現れる気配が一向にしないので、流石に心配になって来る。
目を盗んで、川から上がったか? 反対岸まで見渡せるここから、見つからない様に岸に上がるのはまず不可能だろう。
まさか溺れて? 最悪な結果が脳裏を横切る。
自分から潜っておいて、そんな間抜けな事をするレゴラスではない、と思いつつも、こんなに息が続く筈がない、と心配になる。
ブーツを脱いで裸足になると、川の中に入って行く。
凍る様な冷たさが、中に入る事を躊わせる。が、今はそんな事を感じている場合ではないのかもしれない。
「レゴラース!!」
膝まで浸かった所で、彼の名を呼ぶが、当然と言うべきか返事は無い。
仕方無くもう少し深みまで進み、意を決して水中へ潜る。
夜の闇で視界は悪いが、水は澄んでいた。
全神経を集中して、レゴラスの気配を探る。後は僅かに差し込む月の明かりと、手探りで捜すしかなかった。
水中から見る月明りは、初めて見る光景で酷く幻想的に見える。
その中に僅かに、だがはっきりと見えたのは、紛れも無く水中を漂うレゴラスの金髪。
そちらの方に急いで泳いで行くと、向こうから右手を掴まえられた。
引き寄せられて、首にレゴラスの左腕が回され、美しい顔が目の前にある。
ゆらゆらと川の流れに漂う金髪。
幼い頃に読み聞かせて貰った御伽話に出て来た人魚は、こんな感じなのかもしれない。但し、目の前にいる人魚は男で、不老不死の命を持ち、おまけに欲しいものを手に入れる為には、手段は選ばないという、最悪な性格の持ち主だ。
レゴラスの顔が近付き、唇同士が重なり合う。
目を閉じ、アラゴルンは足の生えた人魚の裸体に腕を絡ませ、細い腰を抱く。だが、何度キスし合おうと、身体を重ね合わそうと、二人が結ばれる事は決して無い。
――あの御伽話の様に。
それは同性である事。
種族が違う事。
お互い求めているものが違う事。
アラゴルンはこの旅が無事に終われば、人間の王となり、アルウェンと結婚する。そしてレゴラスは純血のエルフ故、魂は常に海を求め、やがては海を渡りヴァリノールへ向かうのだ。
唇の向きを変えると、端から空気の泡が漏れて行った。
それを防ぐ様に、深く深く口付け、口腔内で舌を絡ませ合う。
やがて流石のアラゴルンも息が続かなくなり、レゴラス共水面から顔を現す。
腕を首に回したままのレゴラスは、何と腹立たしい事に、愉快そうに笑っている。右腕には件のコートを抱き締めて。
「あぁ、捕まってしまいましたね。なかなか来てくれないんだもの…」
悪びれた様子も無く笑うレゴラスの言葉を、アラゴルンは怒気を含んで遮る。
「お前! 俺がどれだけ心配したか!」