【Around The World -2-】
By-Toshimi.H

[2]

 ミディール。
 密林に囲まれた、温泉とライフストリームが名物の、この星最南の街。熱帯雨林気候の地域で、温泉が湧き出るとは、非常に珍しいといえる。
 街の中にはヘリコプターで降りられない為、密林の入り口に着陸して、それから整備された一本道を歩かねばならない。
「ツォン、歩くのか?」
 ルーファウスの顔は、このシャングルを見て、明らかに不機嫌そうである。
「文句言わないで下さい。ミディールの温泉に行きたいと言ったのは、あなたですよ。それに、歩くと言っても、密林の道無き道を歩くわけでなし……、街まで10分も掛かりませんよ」
 ツォンは、ヘリコプターから荷物を降ろし乍ら、わがままな主を宥める。
「まぁ、良いじゃありませんか。苦労の後には、御褒美が待っているものですよ」
(あなたという御褒美がね…♪)
 我知らず口許を綻ばせるツォンの心中も知らずに、ルーファウスは「そういうものか」と、納得したようだった。
 街へ抜ける一本道を二人並んで歩く。
 ルーファウスは時々鳴き声を発する、珍しい南国の鳥を見つけては、ツォンの手を引いて、それらに駆け寄る。
 二人分の荷物を持ったツォンは、汗をかきながらも、ルーファウスの無邪気な様子が、可愛くて仕方がない。そして、幸せな自分に酔いしれていた。
 それは、街に入ってからも同様で、見たことのないものを見つけては、「ツォン、こっちだ」「あれを見ろ」と、ツォンを引きずり回す。
 いつもキチッと撫で付けているブロンドも、今日は下ろし、服もラフな開襟シャツを着ている為、街の住民は誰も、この青年が神羅カンパニーの社長であることに気付かないようだ。
「ルーファウス様、ホテルはこちらですよ」
 夢中になるあまり、道を逸れたルーファウスを呼び止める。
「あぁ、済まない。ツォン、楽しいな。ここには、見たことのないものがいっぱいだ」
 慌ててツォンに駆け寄り、その腕に自分の腕を絡ませた。
 ミッドガルやジュノン、コスタ・デル・ソルから、かなり離れたこの独特の文化を持つ街を、ルーファウスは痛く気にいった様だ。
 碧い瞳をキラキラと輝かせて見つめられると、今夜のお楽しみを待ち切れずに、理性が揺らぐのを感じる。
(かわいい……・←はーと)
 しかし、そこはじっと我慢。今日の為に、あちらこちらに手を回したのだから。



 それは先週に遡る。
 ルーファウスのスケジュールを操作し、予定を空けた後、ツォンは真直ぐ福利厚生課(*2)へ向かった。
 そして、課長の前に立つなり、開口一番、こう言い放ったのだ。
「ルーファウス様が…いや社長が、来週ミディールで休暇を過ごしたいと言っておられる。ホテルを確保したいが、もし他の客に暗殺者が潜んでいるとも限らない。急いでこのホテルを買収してもらいたい」
 慌てたのは課長だけではない。総務部長も慌ててやって来た。
 二人の激しい反論もしれっと受け流し、半ば強引に計画書を作らせ、印を押させた。
「社…社長は、このことをご承知なんだろうな」
「無論です。社長は大変忙しい身。私が代理としてやってきた訳ですから、その点はご安心を。それから……」
 ツォンは、澄ました顔で制服の内ポケットに、計画書と買収先のホテルに書かせる誓約書を仕舞い込む。
「買収には、タークスが向かいますので、その点も心配ありません」
 ここまで進めば、あとは部下を使って、ホテルを買収するのみ。それも、もっと梃子摺るかと思っていたが、意外とあっさり手に落ちた。
 ツォンがこのホテルを買収しようと考えたのには、理由があった。
 まず、ミディールで唯一、露天風呂があるということ。
 そして、部屋がコテージ風になっていて、個室同士が離れているということ。
 支配人を始め、上層部の全ての人間を神羅の社員と入れ替える。こうして、これから向かうホテルは、ミディールで最高級の神羅系リゾートホテルとなったのであった。
(私達(←複数形)の仲を邪魔するものは、誰であろうと許しませんよ…フフフフ……)


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