[1] 「はぁ〜、こう忙しいと、堪らんな」
ルーファウスは、ため息を一つ付き乍ら、先程リーブが持って来た書類にサインをした。
『即決』と書かれた書類トレイには、まだまだ沢山の書類が「これでもか!」と、言わんばかりに積まれている。
あと一時間もしたら、再び会議である。
「文句言わずに、進めてください」
珍しくブーブーと文句をたれるルーファウスに、紅茶を煎れて持って来たのは、ツォンだった。
ルーファウスお気に入りのティーカップを脇に置く。
「ここに置きますよ」
「あぁ、うん」
気分転換に、うーんと背伸びをする。
毎日毎日、書類とにらめっこ。
何故オレが、秘書課の職場懇談会のお菓子代金のサインまで、やらなくちゃいけないんだ? 大体、こいつら何でこんなに食うのだ? 本当に懇談会の時だけに食う、菓子代なんだろうな、と怒りにも似た感情を抑えつつ、ツォンの煎れた紅茶を口に運び乍ら、不承不承サインをする。
「あっ! もし零したらどうするんです!?」
「うるさいなぁー。こうでもしなきゃ、片付かないんだよ!」
こう反論しながらも、一旦書類を脇にやって休憩に入る。その辺は、ツォンの教育の賜物と言うべきであろう。
当の本人は、ルーファウス専用のパソコンでスケジュールを検索(*1)し、ペラペラと手帳を捲って、次々と追加されている予定を書き込んでいる。
何度も頭を上下に往復しているところを見ると、また大量の会議やら、下らない接待が入っているのだろう。
うんざりだ。
「あ〜ぁ。たまには、ゆっくりとしたいモンだなぁー」
頬杖をついて、態とツォンに聞こえるように言う。
チラリと横目で見遣るが、聞こえないのか、相変わらず画面に向かっている。
「そうだなぁ。コスタ・デル・ソルも良いけど、ミディールの温泉なんかも捨て難いな」
そう言った途端、ツォンの手が止まった。
一体どうしたというのだ?
「おや、ルーファウス様。来週、お休みが取れますよ」
実に白々しい口調である。
「……! 本当か!?」
それでも、そんなことはお構い無く、嬉しくて思わず身を乗り出す。
「ええ。……何ということでしょう! 偶然にもこの日は、私もスケジュールが空いているじゃないですか」
口許も目も、溢れて来る笑みを一生懸命に抑えている顔だ。それは。
「………………………………」
(ツォンのやつ、絶対何か小細工をした筈だ……!)
「嬉しくないんですか?」
そうニッコリと笑ってみせたツォンの笑顔には、何やら企みが含まれていた。