evidence2 -5- By-Toshimi.H


「あれー? ツォンさんは、と」
 不躾に社長室に現れたのは、赤毛の部下だった。
 ルーファウスもいくら言っても全く聞こうとしない部下には、諦めて何も言わない。
 レノは当たり前の様に、ルーファウスのデスクの上に腰を下ろした。
「今日は外だ」
 書類に目を通しながら、不機嫌そうにレノを一瞥する。
 不機嫌の原因は、レノの態度なのか、ツォンが仕事以外で外に出ているからなのか。
「あー、いつものやつね、と」
 どうりで連絡が取れない訳だ、とレノは肩を竦めた。
「――じゃ、良いや」
 レノはデスクから、ピョンと飛び下りると、社長室から出て行った。
「お、髪型変えた? 良い感じだぞ、と」
 階下の秘書の一人に調子良く話し掛ける。
「やだー、本当?」
「俺様が嘘言った事があるかよ、と」
 秘書の腕を肘で小突き、秘書室を出た。
 エレベータの下向き矢印のボタンを押す。
 室内から笑い合う声が聞こえるが、レノの顔は、仕事人の顔付きに変わっていた。
「…っそぅ、早く来いよ!、と」
 遅々として到着しないエレベータにイライラしながら、一人ゴチる。
 裏切り者の口から出た、弐番街スラムの巨大反神羅組織・アバランチのボス、『ファン=デル』の名。情報屋から手に入れた、ウータイ人の隠し撮り写真。
 この二つは見事に一致した。
 ローヒル・ファン=デル――元ウータイ陸軍通信司令部責任者。ツォンの元上司だった男。
 血の繋がりを重視するウータイ人なら、ツォンに何らかの恨みを抱いているのは確実だろう。
 甲高い音が鳴り、エレベータの扉が開く。
 それに飛び乗り、調査課のある階のボタンを押した。
 音も無く、降りて行くエレベータから、次第に近付くミッドガルの街を忌々しげに眺める。
 この街の何処かに、自分達の命を狙っている輩がいる。
 再び甲高い音が鳴り、エレベータの扉が開くが、レノは扉を押し広げる様にエレベータから降りた。
 扉の外で待っていた女性社員が、レノの余りの勢いに驚き、短く悲鳴を上げ、道を空けた。
 調査課の扉を開けても、ツォンの姿は無く、レノは大きく深呼吸した。
「…っそぅ」
 先日のクラウド達に依る魔晄炉爆破で、今までなりを潜めていた反神羅組織が俄かに活気付いて来た今、弐番街のアバランチは早々に潰しておきたかった。
 ツォンの指示で、クラウド達を泳がせている今が、絶好の機会なのだ。
 不意に背後の扉が開く。
「ツォンさ…、何だイリーナか、と」
 扉の向こうから姿を現したのは、金色の髪をした後輩だった。
 緊張の糸が切れたのか、レノはガックリと肩を落とした。
「ツォンさん、掴まりました?」
 イリーナは持っていた段ボールを、自分のデスクの上に置いた。
「…いや。まだ携帯の電源は入ってないみたいだぞ、と」
 レノはイリーナの隣りの、ルードのデスクに腰掛ける。
「今は待つしか無いですね…」
 レノは自分を落ち着かせる為に、煙草を吸おうとライターに火を点けたた。
「あ! レノ先輩!! ここは禁煙だって何度も言ってるじゃないですか!! 外で吸って下さい!」
 ビシッと扉を指され、レノは渋々喫煙所へ向かった。
 ガラス張りで隔離された喫煙室には、数人の一般社員が自販機の紙コップを片手に休憩を取っていた。
 空いてる壁に背を預けて、吸い損ねたタバコに火を点ける。
 勢い良く紫煙を吐き出し、一般社員達を見やる。
 どいつもこいつも、裏で何が起こっているのか、何も知らず談笑してやがる。今、こうしている間にも、この会社を潰そうとしている輩がいて、少なくとも上司の身が危険なのだ。
 レノは落ち付か無げに、半分程吸ったタバコを、灰皿に押し付けた。


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