evidence2 -2- By-Toshimi.H
ストップウォッチは規則正しい音を立てて、針を一秒一秒進めて行く。それを操る者、操られる者、見ている者の意思に関係なく。
「後十秒〜♪ はーち、なーな、ろーく……。おら、早く決めろよ、と」
「い…嫌だ!」
男は恐怖のあまり、失禁した。
「ブッブー。時間切れ〜」
男のこめかみを右から左へと弾が貫通し、肉片が飛び散った。
ルードの拳銃の銃口から、煙がユラユラと揺れていた。
「…ファン=デルね」
何処かで聞いた事があるぞ、と思いながらレノは息絶えた男を一瞥する。
「……レノ。行こう」
ルードは銃を仕舞いながら、レノを促す。
「イリーナ。任務完了」
『了解。お気を付け…!? 先輩! 急いで下さい!!』
突如、ビル内に警報ベルが鳴り響く。
「な…何だ? バレたか?」
部屋を出て、逃走経路を探す。
『先輩! どうしましょう。警備会社の車がいっぱい!』
「チッ。縛り方が甘かったかな。それとも…イリーナ、非常階段から脱出する」
『了解しました。下でお待ちしてます』
レノとルードは非常階段を駆け降りて行く。
ビル内は既に警備員で溢れているだろう。
「レノ、主任に応援を」
「ツォンさんに? しゃーねーなぁ」
その時。銃声と共に、非常階段の手摺りに、弾が当たった。
地上を覗くと、ライフル銃のホロスコープの赤いライトが点々と見える。
「ルード、下は駄目だ。屋上へ行こう。イリーナ、俺たちは屋上へ向かう。ツォンさんに応援を」
弾を避ける為に、身体を屈めて今度は階段を駈け登って行く。
携帯電話の呼び出し音が鳴った。
ツォンは腕の中で眠る、恋人を起こさない様にベッドから降り、電話を取る。
「私だ。……判った、すぐ向かう」
電話を切り、ベッドの中で無防備に寝息を立てている人へ振り返る。
急いでワイシャツを着て、最低限の身支度を済ませると、愛しい人の目許に唇を寄せる。
「申し訳ありません。出掛けて参ります」
「さすがに…あそこから階段で屋上に出るのはキツいな、と」
感覚が無くなった足を、叱咤しながら非常階段を登る。襲撃されてから、既に二十階分は登っただろうか。
「レノ、後少しだ」
「ヤツらに先回りされてたら、お終いだな、と。弾有るか?」
「……心配するな」
「頼りにしてるぞ、と。相棒」
ニヤリと笑って見せるのが、やっとだった。
必死の思いで屋上に辿り付く。
「イリーナ、そっちはどうだ?と」
レノはその場に座り込んだ。足が言う事を聞かない。
『こちらイリーナ。ツォンさんに応援要請しました。間もなく到着すると思います』
「そうか、ならお前は先に退避しろ」
『いえ、良い考えがあります。逃げるのはそれからでも良いでしょ』
そこで通信は切れた。
「アイツ切りやがったぞ、と。ま、いっか…さて、と」
通信を切ったイリーナは、助手席の箱からあるものを取り出す。
「これを一般人に使うのは、気が引けるんだけど」
ビルの方を見ると、ライフルを構えた警備員が二人、慎重にこちらに向かって来るのが見えた。
イリーナは車のウィンドウを開ける。
そしてバイバイと、その二人に手を振ってみせた。
それに気が付いた男二人は、イリーナの乗る車に向かって走り出す。
「じゃあね♪」
イリーナはおまけの投げキスを送り、窓から箱から取り出した黒く丸い物体を放り投げた。そしてアクセルを踏み込むと、車を急発進させ、その場から去る。
アスファルトの道路に落ちた瞬間。それは爆発した。
「お〜。イリーナの奴、下で何か派手にやったぞ、と」
爆音は四十階建てビルの屋上まで聞こえ、火薬の匂いもする。
屋上へ出る鉄の扉が開かれ、武装した警備員が数人雪崩れ込んで来た。
タークスの二人は、貯水タンクの後ろへ身を隠す。
「動くな!」
ライフル銃を構え、辺りを警戒しているのが見える。
警備員の数も、どんどん増える。
「…レノ」
レノはルードの視線の先を見やる。
そこには高層ビルの谷間を縫って、一機の黒いヘリコプターがこちらへ向かって来ていた。
「やっと来てくれたぞ、と」
警備員達は、一斉にこのヘリコプターに向けて、構えたライフル銃を乱射し始める。しかしヘリコプターは巧みに頭上を旋回し、なかなか命中しない。例え命中しても、堅い外装に守られた機体に穴を空ける事は出来なかった。
ヘリコプターの扉が開かれ、ステンレス製の縄梯子が降ろされる。
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