evidence2 -1- By-Toshimi.H
不意にデスク上の電話の外線ベルが鳴った。
ナンバー表示は、記号の羅列。――これは雇っている情報屋からの印。
「私だ」
濃紺のスーツに身を包んだ長い黒髪が印象的な男は、受話器を取ると短く答えた。
『あぁ、主任さん? 例の男の件ですが…』
「待て、盗聴されてないだろうな?」
『大丈夫です。例の男、裏が取れました。奴さん、今晩にでもミディールに高飛びするつもりですぜ』
「判った。金はいつも通り渡す」
『あぁ、もう切るぜ? ヤバいんだ』
「また連絡する。お前もしばらくミッドガルを離れてろ」
『あぁ、そうさせて貰う』
男は受話器を置いた。そして振り返ると、部下に命ずる。
「…仕事だ」
人通りも疎らになった夜のオフィス街。
大手銀行ビルの裏口に、一台の黒塗りの高級車が停まった。
後部座席から、男が二人降りる。
「よし、ルード。行くぞ、と」
赤い髪の華奢な男が、相棒の大柄な男に話掛けながら、口にしていた煙草を足許に落とし、火を踏み消した。ルードと呼ばれた相棒は、それに頷いた。
「イリーナ、そっちは大丈夫かー?、と」
耳に付けたインカムで話しながら、男は車に振り返る。
『こちらイリーナ、異常ありませ〜ん♪』
車の運転席にはブロンドの女性が、こちらを向いてブイサインを送っていた。
『レノ先輩、ルード先輩っ。気を付けて下さいね!』
「………」
これから任務を実行する為に、気を引き締めなければならない所で、彼女ののほほんさに赤毛の男・レノは士気を削がれる。
「まぁいっか。行こう」
裏の通用口へ向かい、二人の警備員を鮮やかな手並みで縛り上げる。
「侵入した」
『了解』
車内で待機するイリーナの膝上には、ノートパソコンが置かれ、その画面にはビルの見取り図と、二つの赤い点が表示されている。
レノとルードはエレベータに乗り込むと、目的の三十五階へ向かう。
エレベータは一度も停まる事無く、目的階で停まった。
扉が開き、廊下へ出る。
「おい、イリーナ。これからターゲットの部屋へ侵入する」
『了解。生体反応はありませんから、任務続行して下さい』
「よし、とっとと片付けるぞ、と」
レノはニヤリと相棒に笑うと、顎で合図する。
二人共、濃紺の制服の内ポケットから拳銃を取り出す。
ターゲットのいるオフィスの前で立ち止まる。
壁に背を付け、レノは銃を構える。
そしてルードに「やれ」と目で合図した。
相棒の巨漢は、僅かに頷くと、豪奢な扉に蹴りを入れぶち破った。
「何者だ!!」
「おっと、動くなよ、と」
二人は銃を構えたまま、部屋の中にいた中年男に歩み寄る。
「それは何かな?と。経理部長さん♪」
男は机上の伝票や書類を、慌てて掻き集める。
「往生際が悪いぞ、と。アンタが反神羅組織に、裏金を横流ししてるのは、裏が取れてるぞ、と」
「…ま、まさか、タークスか!?」
男はワナワナと椅子に座り込む。
「ピンポーン! 大正解♪ でも豪華賞品は出ないぞ、と」
レノはニッコリ笑ってそう言うと、デスクを軽々と飛び越え、そこに腰を下ろした。
ルードは回り込んで、男の頭に銃口の狙いを定める。
「さて、と」
レノは銃を仕舞うと、代わりにストップウォッチを取り出した。
アナログのシンプルなものだ。
「お前に二、三質問がある。正直に答えるんだぞ、と」
「わ…判った。何でも話すから、い…命だけは助けてくれー」
レノはストップウォッチの文字盤を男に向ける。
「後一分で、お前の運命が決まるぞ、と」
男の額から、脂汗が流れ落ちる。
カチッと音がして、針が進み始めた。
「まず、この写真を良く見ろ。この男を知っているか?と」
内ポケットから一枚の写真が取り出される。黒髪のウータイ人の三十代半ばに見える男だった。
「し…知らない」
「じゃあ、横流しした金の行き先は?」
「ア…アバランチだ」
男は喉から声を搾り出す。
「あぁ? アバランチっつても、デカいのからちっこいのまで、ピンからキリまであるだろ?と 後三十秒」
チチチ…と音を立てて、秒針は進んで行く。この音が男の恐怖心を煽る。
「…弐番街だ、スラムの。ボスはミスター・ファン=デル。直接逢った事はない。ただ…ミスターの父親は、元ウータイ陸軍の少佐だ。ミスターの神羅に対する憎しみは尋常じゃぁない」
ルードの拳銃の劇鉄が下ろされる。
「ひいぃ! や…止めてくれ!」
「んじゃ、もう一個。今、俺達に殺られるのと、組織にバラされるのとどっちが良い?」
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