「警部、2人は逮捕できましたか?」
その声に銭形は顔を上げた。
「スコット!どこに行ってたんだ!」
そう言いながら、半分ほど吸った煙草を吸殻が山になった灰皿で揉み消した。
銭形は、あれからルパン達の行動が掴めなかったので、やむを得ずニューヨーク市警に戻っていたのだ。
とはいっても、ただ情報を待っているというのは銭形の性分には合わない。
イライラと、煙草ばかりが進んでいた。
そこに、ジーナを追って姿を消していたFBIのスコットが戻って来たのだ。
「勝手をして申しわけありませんでした。 ―――それで、次元と五右ェ門は?」
「取り逃がしたよ・・・」
「そうですか・・・」
「そっちはどうだったんだ」
「はあ・・・ あのジーナとかいう奴の後を追ったんですが、現場近くに帽子とコートが捨ててありまして、おまけにライフルまで捨ててあったものですから・・・」
「そうなると、発見は難しいってわけだな」
「ええ、遠くから帽子とコートの姿を見ただけですからね・・・」
スコットは、少なからず落胆した様子を見せていた。
「そうか、わかった」
そう言うと銭形はやおら立ち上がって
「スコット、メシ食いに行くぞ!」 とさっさと歩き出した。
時刻は午後2時を少し回ったところだ。
スコットも昼食は食べ損ねていたにもかかわらず、あまり食欲はなかったが、銭形の後を追って歩き出した。
「こんなもんでどうだ?」
ルパンは、キングに変装し終えた顔を不二子に見せながら訊いた。
「いいわね」
「不二子さん・・・」 と今度はキングの口調をまねしてみせた。
「OKよルパン。じゃあ予定通りにね」
そう言うと不二子は、先に部屋を出ていった。ここはモーテルの一室。
不二子と、〈ナイルの瞳〉を取り返す為の作戦を打ち合わせていたのだ。
〈ナイルの瞳〉を取り戻すというのは、不二子に協力させる口実で、ルパンの本当の狙いは〈青龍の涙〉というエメラルドなのは云うまでもない。
「まったく、不二子がいいタイミングで情報を持って来たもんだ。出来過ぎだな。グッフフフ・・・」
ルパンは鏡を見ながら、自分のニヤケた顔を両手の平でパンパンと2回たたくと、キリッとした表情を作り、
キングの声色で 「さあ、行くか!」 と言うと立ち上がった。
「この仕事は、体力が勝負だ。食える時に食わなきゃだめだ」
銭形は、残り少なくなったハンバーガーを口に放り込むと、コーヒーをゴクッといって、すぐさま2つ目のハンバーガーに手を伸ばした。
スコットの方は、ようやく半分程食べ終わったところだ。
「警部、ルパン達は何故スコーピオンに狙われているんでしょう?」
「詳しいことは分からん」
銭形はハンバーガーをモゴモゴさせながら答えた。
その時、銭形の視線は店の外の通りに釘付けになった。
「不二子!」
不二子のハーレーが、信号待ちで止まっていたのだ。
「スコット!車だ!急げ!!」
銭形はそう言うなり飛び出していった。
信号が変わって走り出したハーレーを、銭形はもの凄い勢いで走って追いかけていく。
200m程走ったところで、スコットの車が銭形に追いついてきた。
車を右側に寄せて、減速した途端、銭形は車の窓に頭から飛び込んで来た。
「無茶しないで下さい警部!」
「かまわん! 見失うなよ!」
「了解!」
銭形は、やはり噂通りの熱血警部だった。とスコットは嬉しくなっていた。
「社長、出てらしたんですか?」
ちょっと驚いた様に、受け付け嬢が声をかけた。
社長であるキングが、会社のビルの正面玄関ホールに一人で現れたからだ。
受付嬢にちょっと片手を上げて答えると、キングは平然と中へと入っていった。
―――その15分程前、最上階のキングの部屋では・・・
「ねえキングさん、一緒にプールに行きましょう♪」
不二子がキングを誘っていた。
「少し待って下さい。そしたら一緒に行きましょう」
キングは机で資料に目を通しながら答えた。
「あら、そうなの? それなら、黒服さんにオイルを塗ってもらおうかしら・・・」
キングも、その言葉には弱いようだ。
「不二子さんにはかなわないなぁ・・・ では行きましょう」
と嬉しそうに、社長室からペントハウスへ行くための専用エレベーターへと入っていった。
―――その10分ほど後、社長室の入口手前にある秘書室では・・・
「社長、出てらしてたんですか?」
驚いた様に、今度は秘書が声をかけた。
「気が付かなくて申し訳ありません」 と謝っている。
キングは今度も、ちょっと片手を上げて、
「気にしなくていい」 と言いながら社長室へと入っていった。
「不二子のヤツ、予定通りキングを外に誘い出すのに成功したようだな」
社長室に入って来たキングは、中に人の気配が無いのを確認してそう呟いた。
この呟きはすでにキングの声色ではない。ルパン本人の声だった。
キングに変装したルパンは、急いで机の引出しを開けると、そこにあるボタンを押す。
後ろの壁が開くと、そこに黄金のサソリの像が現れた。
「これか・・・確かに、スコーピオンらしい悪趣味なもんだぜ」
ここまでは、これといったセキュリティーはなかった・・・
不二子の話通りに黄金像が現れた・・・
「まったく無用心だぜ、キングよう」
そう言いながら隠し部屋へと足を踏み入れた途端、けたたましい警報が鳴り出した。
「赤外線センサーか!」
ルパンは素早くサソリ像へと近付くと両目のエメラルドを外し、それを両手に握りしめた。
扉の外に、駆け寄ってくる数人の足音がする。
「さっそくお客さんが来やがったか」
ルパンは、薄笑いを浮かべて扉に鋭い視線を投げていた。
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