シャワールームから、シャワーの水音に紛れて2人の吐息が微かにもれている。
ルパンとジェシカは、シャワーの下で、長く熱い口付けを交わしていた。
やがてルパンは、彼女を抱き上げるとシャワールームを出て、暖炉の有る奥の部屋へと連れて行き、ベッドの上へと彼女を降ろした。
その部屋の照明は消えていたが、暖炉には火が入っていて、辺りをほの赤く照らしている。
ジェシカは、暖炉の上に左右2台の燭台(しょくだい)が乗っているのを見つけると、それに近付いていった。
銀製の燭台には、キャンドルが3本づつ立っている。
彼女は、それに手を伸ばした。
「・・・?・・・」
だがそれは、暖炉のレンガに固定されているのだろうか、持ち上げる事が出来ない・・・
しかし、それには構わず、ジェシカは、そのキャンドルにマッチで火を点けていった。
ルパンは、ベッドに腰掛けて、彼女の後ろ姿を見ている。
キャンドルに火を点け終わったジェシカが、ゆっくりとルパンの方に振り返った。
暖炉の炎と、6本のキャンドルの炎がユラユラと揺れて、一糸纏わぬ姿の彼女の後ろでオーラの様に輝いて見えた。
その光景にルパンは、思わず「美の女神だ・・・」と呟いていた。
そして、右手を伸ばすと女神の手を取り、ゆっくりと自分の隣に招き寄せた。
「ジェシカ・・・」
「ルパン・・・」
2人の影は、やがて1つに重なり、ベッドへと崩れていった・・・
「ルパンは何処へ行った?」
しばらく前から、ルパンの姿が見えないのに気づいた五右ェ門が訊いてきた。
「ジェシカと一緒だろう・・・」
次元が答える。
「この様な時に・・・」
「それを言うな五右ェ門。ルパンの女好きは今に始まった事じゃねえじゃねえか」
そう言うと次元は、グラスのバーボンを一気に開けた。
五右ェ門の方は、窓の外を青白く照らしている満月をただ静かに眺めているだけだった。
熱く激しい情事の後のまどろみの中に、2人は漂っていた。
ジェシカが訊く。
「今何時かしら・・・」
ルパンは、暖炉の上の壁に埋め込まれた時計に目をやったが、それは無意味だった。
その時計は、壊れていて、ずっと3時40分のままだったからだ。
「そんな事はどうだっていい・・・ 帰らなくていいよ・・・」
「そうね・・・」
ジェシカは、暖炉の方に目をやった。
暖炉の炎と、キャンドルだけに照らしだされて、その部屋は素敵な雰囲気に包まれていた。
「ロマンチックね・・・」
「ああ、綺麗だ・・・」
ルパンはジェシカを見ていた。 それに気づいた彼女がルパンと目を合わせる。
そうして見詰め合う2人のしなやかな体は、また再び重なりあっていくのだった。
――翌朝、ルパンが目を覚ますと、そこにはジェシカの姿は無かった。
パンツ姿のまま、次元と五右ェ門の所へやって来ると、2人に声を掛けた。
「俺の女神ちゃんは?」
「知らぬ・・・」
「さあな・・・ 帰ったんじゃねえか。気が付かなかったが」
「そうか・・・」
ルパンは、頭を掻きながら奥の部屋へと帰っていった。
すっかり火の消えた暖炉の前に、パンツ姿のまま立ったルパンは、昨夜の事を考えていた。
キャンドルは燃え尽き、既にわずかなロウを残しているだけの2台の燭台に、両手を伸ばして持ち上げようとしてみた。
「うん〜〜、うん〜〜」
それは確かに、暖炉に固定されてるように思える。なんとも不自然だ・・・
続いて、暖炉の上の壁に埋め込まれている時計に手を伸ばした。
この時計は、屋敷に来た時からずっと3時40分のまま止まっている。
前面のガラスも開く様子は無く、辺りを見回しても、時刻を直せる仕掛けは見当たらない。
ルパンはもう一度、燭台の方に目をやった。
よく見ると、足の台座には天使が弓を引いている姿のレリーフが施されていた。
その矢先が台座の外周の方にむけられていて、あたかも台座そのものがダイヤルの様にも見える・・・
それを発見したルパンは、目を輝かせてニヤリと笑った。
「なぁるほど・・・」
持ち上がらないので固定されていると思い込んでいたが、燭台はかなり渋いものの、どうやら回転するらしい。
「3時40分か」
そう言いながら、左の燭台を3時方向に、右の燭台を40分方向、つまり8時方向に回して合わせた。
カチャッと音がしたかと思うと、暖炉が、グググ・・・と音を立てて横にずれていった。
「やったぞ!次元!五右ェ門!」
「どうしたルパン!」
次元と五右ェ門が、驚いて部屋に駆け込んで来ると、暖炉の奥から、ごく有り触れたダイヤル式の金庫が顔を出していた。
「ここか!ルパン!」
「恐らくな。 よし!こんな物はちょちょいのちょい♪」
そうして難なく金庫を開けたルパンは、その中から数冊のファイルを取り出した。
そのタイトルを次々と見ていったルパンは、ついに「スコーピオンの大金庫」と書かれているシークレットファイルを発見した。
「これだ!」
そう言いながら、そのファイルのタイトルを2人の方に見せた。
「やったなールパン!」
次元は、嬉しそうにルパンに右手を差し出した。
金庫の前にしゃがんだままのルパンがその手をガッチリ掴むと、次元は力強く引き起こした。
そして2人は高らかに笑った。
「ムフフフ!アッハハハハ!」
その時、ハーレーのエンジン音が屋敷に近付いて来た。
ブロロローン!キィー!ドッドッドッドッ・・・・・・
そして屋敷の前に止まった。
「ルパ〜ン!」
「不二子か?」 と次元が振り返る。
ルパンは窓から顔を出すと、
「不二子ちゃ〜ん、よくここが分かったな〜」と声を掛けた。
「ルパン、何てかっこうをしてるの?」
ルパンはまだパンツ姿のままだったのだ。
「そんな事より〜、何の用だ?」
「何の用だとはご挨拶ね〜。 忠告しに来てあげたのよ」
「忠告だと〜!」
次元が少し憮然として言葉を返したが、ルパンがそれをたしなめた。
「あなた達を襲ったのは、ジーナという女殺し屋よ。 スコーピオンのゴールドマンていう科学者が開発した《ハイドロジェン》とかいう薬で強化された強化人間らしいわよ。 せいぜい気を付けることね」
「そうか・・・あの女、ただ者じゃねえと思っていたが、ドーピングしてやがったのか!」
とルパンが言った次の瞬間、聞き覚えのあるダミ声が拡声器から響いてきた。
「ルパーン、お前達は完全に包囲された!武器を捨てておとなしく出てこーい!」
「ありゃ〜、銭形だよ・・・厄介なヤツが出てきちゃったな〜」
いつの間にか、屋敷の周りは50人程の警官隊に取り囲まれていた。
銭形が右手を上げて合図を出すと、4発の催涙弾が撃ちこまれた。
ボン!ボンボン!ボン!
たちまち、屋敷の中に煙が立ち込める。
「突入!!」
銭形の号令で、ガスマスクを付けた警官の一団が屋敷の中に突入していった。
「全員確保しろ〜!」
銭形とスコットも、すぐさまマスクを被り、その後に続いた。
2人が屋敷内に入った途端、今度はマシンガンの一斉射撃が屋敷に浴びせられた。
ズガガガガガン!ズガガガガガン!
「何だ〜!発砲の指示は出しとらんぞ!!」
窓から外の様子を伺ったスコットが叫んだ。
「警部!警官隊がみんなやられています!」
「奴らだよ・・・ まずいぞこりゃ」
と次元が言った。
催涙ガスの中、次元も五右ェ門もガスマスクを付けて平気な顔をしている。
近くで涙を流して咳き込んでいるのは、突入して来た警官隊の方だった。
「次元!とっつぁんを頼んだぞ!」
そう言うとルパンは、自分の服を脇に抱えて窓から飛び出し、不二子のハーレーの後ろに飛び乗った。
「おっおい、ルパン!」
シークレットファイルは、ちゃんとその丸めた服の中に隠し持っている。
パンツ姿のまま、ルパンは不二子にしっかり抱きつくと、
「早く出せ!」 と命じた。
「偉そうに何よ!」
そう言うと不二子は、ハーレーを発進させ、銃撃をぬってその場を走り去っていった。
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