不二子は、キングの部屋でソファーに寝そべっていた。
すでに、キングを自分の魅力の虜にしたと確信しているのだろう。リラックスした様子で、時々キングの方に艶かしい視線を投げている。そこに、黒服の男がキングに報告にやってきた。
「ルパンの始末に失敗しました・・・」
その報告に、キングはわずかに苦々しい表情を見せたが、すぐに平静をとりもどして訊き返した。
「それで、ジーナは?」
「まだ戻りません・・・」
その話しを聞いていた不二子は、心の中で『やっぱりね・・・』と呟きながらソファーから立ち上がると、キングの机の方に歩み寄って行った。
そして、キングの膝の上に横座りに乗ると、長く美しい腕を彼の首に絡めた。
「ねぇキングさん、ルパンの事なら私に任せて下さらない?」
耳元でささやかれる不二子の声に、キングはゾクリとした。
「たとえ強化人間が出ていっても、ルパンは簡単にはやられないわ・・・ それは貴方も知っているでしょう」
「そっ、そうだな・・・」
「それに、ルパンなら、きっと大金庫を開けるわ」
「不二子!」 キングの顔に急に怒りの表情が現れた。
「いやぁ〜ん♪そんな恐い顔し・な・い・で・・・」
そう言って、不二子は、柔らかな胸のふくらみをキングに押し付けた。
「ルパンに金庫を開けさせて、その後でお金を頂きましょう。私が協力するわ。貴方も、金庫の中のお金が必要なんでしょう?」
「そこまで知っていたか・・・」
「私をタダの女だと思っていたの? 私は峰不二子よ!」
「ふっ・・・」 キングは、仕方がない・・・といった表情になっていた。
「10億ドルで手を打つわ」
「随分と欲張りだなぁ・・・」
「あらっそう、これでも遠慮してるのよ」
そう言って、不二子はキングの頬に軽くキスをした。
・
例の屋敷の中で、ルパン、次元、五右ェ門の3人は、ただ黙って座り込んでいた。
またいつスコーピオンが襲って来るかもしれないのだから、本来ならシークレットファイルの捜索を急がねばならないのだが・・・
その時、突然屋敷のベルが鳴る。 リン!リン!リン!
「あたし〜〜!」
「ジェシカちゃ〜ん!」
ルパンが急に元気になって、玄関へと走っていった。
五右ェ門が次元に訊く。
「誰だ?」
「ルパンが軟派した女だよ・・・」
「・・・・・・」
五右ェ門はそれ以上は訊かなかった。
玄関を開けると、ジェシカが、食材とワインの入った大きな紙袋を抱えて立っていた。
「来てくれたんだ〜!」
「ルパン、ご免なさ〜い、こんなに遅くなっちゃって・・・」
時刻は夜の9時を回っていた。
「食事、済ませちゃった?」
「いやな、今日はいろいろゴタゴタしてて、メシどころじゃなくてなぁ・・・まだなんだよ」
「よかった!」
ジェシカは、ホッとした様子で、素敵な笑顔を見せた。
屋敷に入って来ると、五右ェ門を見つけて、
「あらっ、五右ェ門さんですね!ルパンからお話しを伺ってます。はじめまして、ジェシカです」 と明るく微笑みかけた。
さらに中へと進んだ彼女は、部屋を見回しながら、
「なんか、昨日の話しよりひどいわね・・・」と感想をもらした。
「まあな・・・」
ルパンは、頭を掻いて苦笑いをしながら答えた。
昼間の襲撃で、もともと傷んでいた屋敷の状態が更に悪化していたのだ。
「キッチンはどこ?」
キッチンの入口のすぐ横の壁にもたれ掛かっていた次元は、親指で入口を指しながら、
「こっちだ」 と答えた。
ジェシカが、次元の横を通ってキッチンへと入って行く。
その時次元は、彼女から微かな硝煙の匂いを嗅ぎ取っていた。
「あんた・・・銃を撃つのか?」
彼女は、照れながら振り返った。
「分かっちゃいました〜。さすがですね〜」
「あんたみたいな娘には不似合いだが・・・」
「射撃クラブで撃ってるんです。ニューヨークでは、銃ぐらい撃てないと心配ですからね。 ところで、次元さんの銃は何ですか?」
次元は、背中からマグナムを取り出すと、くるっと回して彼女の方に差し出した。
「スミス&ウェッソンM19コンバットマグナム」
「ほ〜、分かるのか・・・」
彼女は、次元のマグナムを、まるで宝物の様に丁寧に扱った。
「いい銃ですね、私のような素人でも何となく分かります」
「俺の相棒さ・・・」
ルパンが、キッチンのジェシカに声をかける。
「君の顔を見たら、腹減ってきたよ!旨いもの頼むぜ〜」
「OK!ルパ〜ン」
次元は、銃の話しが出来たのが嬉しいらしく、
「いい娘じゃねえか・・・」 などと呟いている。
「ルパンだけでなく、お主までも・・・」
五右ェ門は、次元をたしなめる様に言ったが、
「と、言いたい処だが、確かに、澄み切った心の中を映し出しているかの如き美しい目をしている・・・」 と続けた。
そんな台詞を吐きながらも、五右ェ門はやはり五右ェ門だ。その表情が必要以上に緩むことはなかった。
ジェシカは、手際良く食事の用意をすると、それらをテーブルに並べた。
ルパンとジェシカはワインを、次元はバーボンを、五右ェ門は自前の日本酒を手にした。
「乾杯!」
彼女が作ったのは、簡単なパスタとスープだったが、味は悪くなかったようだ。
・
その頃、ケネディー国際空港に、ある人物が到着していた。
薄茶色のトレンチコートに、同色の帽子をコーディネート?したその男は、いかつい顔をして到着ロビーに現れた。
「ルパンめ、ニューヨークに居ったのか・・・今度こそ、お縄にして日本に引っ張っていくぞ!」
「銭形警部ですね」
「ああ、そうだ」
「私、FBIのウォーレン・スコットです。お迎えに参りました」
「それは、ありがたい」
「警部、貴方に会うのを楽しみにしていました。評判は伺っております」
スコットは目を輝かせながら言った。
「宜しくたのむ」
そこで2人は、固い握手を交わした。
無骨な日本人の代表のようなその男の手は、まさに仕事人といった印象をスコットに与えた。
「早速だが、ニューヨーク市警に協力を要請してくれ」
「手配しましょう」
銭形警部は、スコット捜査官の車に乗り込んで、宝石のようなマンハッタンの夜景のキラメキに吸い込まれて行った。
・
食事の後、ルパン達3人は、やはり思い思いの酒を飲んでくつろいでいた。
ジェシカは、キッチンで食事の後片付けをしている。
「キャ〜〜!!」
突然、キッチンでジェシカが悲鳴を上げた。
ルパンと次元が慌ててキッチンを覗くと、シンクの蛇口付近から水が噴水のように噴き出していた。
蛇口が折れてしまったのだろう、ジェシカが手で押さえているが、そんな事で止まるはずもなく、彼女は全身に水を浴びてしまっていた。
次元が、ワインの栓でようやくその水を止めた。
「びしょ濡れになっちまったな〜、シャワーを使いな」
ルパンは、そう言いながら彼女をシャワールームへと連れて行った。
ジェシカがシャワーを浴びていると、シャワールームのカーテンが突然開かれた。
そこには、全裸のルパンが立っていたのだ。
彼女は、「キャッ」と小さな悲鳴を上げて両手で胸を隠したが、ルパンは構わずシャワールームへと入って来た。
そして、彼女の目を見詰めながら、「ジェシカ・・・」 と熱くささやきかけた。
ジェシカは、ルパンの行動と、彼の♂の高まりに戸惑ったが、ルパンの真剣な表情を見て、彼のキスを受け入れた・・・
「ルパ〜ン・・・」
体を打つ熱いシャワーとルパンの口付けで、ジェシカは、体の奥が痺れるような感覚に酔っていた。
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