| ルパンが買った例の屋敷の中では、スコーピオンの大金庫に関する資料の捜索が始められていた。 次元が2階に上がる階段の横にあるドアを開ける。するとそこにはコンクリートの床があるだけだ・・・
「ルパン、こりゃなんだ?」
へばりつくようにして壁に聴診器をあてていたルパンが振り向く。
「ああ!そこは、下に降りる階段があって、地下研究室の入り口だったところだ」
「だった?!」次元は驚いてルパンの方に振り返った。
「だったってどういう事だ!」
ルパンは意に介せずといった様子で言葉を続けた。
「この屋敷の改修工事をした奴から聞き出したんだが、地下室は改修するのが難しいってんで、そのままコンクリート詰めにしたそうだ」
「何だって!! じゃあ、このコンクリートは地下室全体に詰まっているのか?!」
次元は、そのコンクリートの床をコンコン叩きながら言った。
「そういうこったなぁ」
「ルパン!何、のん気な事言ってるんだ。一番怪しいのは、この地下室じゃねえか!」
ルパンは耳から聴診器を外しながら、
「次元、でかい声出すなよ・・・」
「しかしだなぁ!」
「心配すんなって。地下室はなぁ、5年前に俺が徹底的に調べたが、大金庫の資料は無かったんだよ。きっと他の場所だよ」
ルパンはちょっと真剣な顔をみせて言った。
「しかも・・・、改修工事でも発見されないような場所だ・・・」
「だが、もしこの中だったらどうするよルパン。――これは大変なことだぜ・・・」
コンクリートの床を見ながら、次元は憂鬱な気持ちになっていた。
「だから!そのもしもの時の為に、五右ェ門も呼んであるんだよ」
そう言いながら、ルパンは次元にウインクしてみせた。
「なぁ〜るほど」
次元もやっと安心の表情を浮かべた。
ハドソン川のほとりに、赤茶色のレンガ造りのマンションが建っている。
その1階店舗部分に、[ジョージ&マーリー不動産]と書かれた真鍮製のプレートが付いたドアがある。
そのドアの前に、紺色のスーツを着た男が現れた。
身長180センチ位、スマートな体型で、ブロンドの髪は綺麗にセットされていた。
男はドアのベルを押す。
中から、ベルの音に続いて「は〜い」と返事があり、ドアが開く。
「いらっしゃいませ!」
ルパン達に屋敷を売った例の不動産屋が顔を出した。
紺のスーツの男は、胸から身分証を出し、それを見せながら言った。
「FBIのスコット捜査官です。お電話ありがとうございました」
スコットは店の中に入るなり話を始めた。
「あの家を買ったのはどんな人です? 事件の事は話したんですね。それを承知した上で購入したんですね?」
――不動産屋は、問われるままにいろいろな質問に答えていった。
そして最後に「何でもなければ、それでいいんですけどね」と結んだ。
「お話は分かりました。一応調べてみましょう。それでは」
そう言ってスコットは出て行った。
FBIのスコット捜査官。彼は5年前の事件以来、アメリカに進出したらしいスコーピオンを追っていたのだ。
もしかすると、これが久しぶりの手掛かりになるかもしれない。彼はそう思っていた。
人通りも、車も少ない郊外の夜道をクリーム色のフィアット500が走っている――
「ルパン、あの屋敷の中には何も無いのと違うか?」
次元はダッシュボードに足を投げ出した格好で言った。
一日中、屋敷の捜索をして、疲れきっていたのだ。
足を投げ出したといっても、いかんせんフィアット500である、なんとも窮屈そうだ。
「そんなはずはねぇ。きっと有る!必ず探し出す」
ハンドルを握るルパンの言葉は力強かった。ルパンには、なぜだか分からないが確信のようなものがあったのだ。
彼一流の勘というやつかもしれない・・・。
すると突然、ヘッドライトの光の中に、道に倒れている人影が飛び込んできて、ルパンは急ブレーキを踏んだ。
キィーーー!!
次元の体がわずかに宙に浮いて、ドカッとシートに沈む。
「何だルパン?!」
「女が倒れてる!」
ルパンは、急いで車から降りると、その女性を抱き起こした。
「大丈夫か?!」
顔を覗き込んだ瞬間、ルパンはその女性に完全に魅せられてしまった。
肩まで伸びたストレートの金髪に、ブルーアイ。美人でありながら、大きな瞳に可愛らしさを感じる女性だった。
「・・・ちょっとめまいがしただけです・・・ だいじょうぶです・・・」
彼女は、ルパンの腕の中で少しの間休んでいたが、やがてゆっくり立ち上がって、服のホコリをはたいた。
「ありがとうございました。もう大丈夫です」
「本当に大丈夫かい?家まで送るよ」
そう言いながら頬を赤らめているルパンを見た次元は、深くかぶった帽子の下で、あきれ顔になっていた。
「本当に大丈夫ですから」
彼女の顔には笑顔が戻っていた。その笑顔がまた可愛い!!
「じゃあさ、一緒に食事に行かない?俺たちこれからメシ食いに行くとこなの」
その言葉に彼女は、大きな瞳をくるっと回して、ちょっと考えるそぶりを見せたが、
「いいわ!行きましょう」と明るく答えた。
小さなレストランで、3人はステーキを食べながら、今回買ったお化け屋敷の話などしていた。
3人といっても、話していたのはルパンと彼女だけで、次元はただ聞いていただけだったが・・・
彼女はジェシカという名で、26歳だという。
ジェシカは、本当に素晴らしい笑顔の持ち主だった。その笑顔が彼女の素敵な心の中を表し出しているのだろう。
ルパンは食事の間中、ジェシカの顔を見詰めていたが、彼女の方もまんざらではないといった様子だった。
「一度見てみたいわ」
お化け屋敷の話を聞いたジェシカが、そんな事を言い出した。
「来て!来て! 男二人でつまんないと思ってたとこなのよ」
次元は、チラッとルパンの方に視線を投げたが、すぐに言葉を飲み込んだ。何を言っても無駄だった・・・。ルパンは有頂天になって彼女を家へと誘っている。
そして、明日食事を作りに来るという約束を取りつけて、その晩は別れた。
帰りの車の中で、ルパンは口笛を吹きながら、ハンドルを軽快に握っている。
次元の方は、また、足をダッシュボードに投げ出していた。
「さっきの店のステーキは旨くなかったなぁ、ルパン」
「えっ、そうか〜?」
ルパンが上の空で答えると、次元はあきれた様子で言った。
「どうせおめ〜は女に夢中で、味なんか分かんなかったんだろうよ」
「フフフ、あっははは!」
ルパンは陽気に笑った。
|