摂食・嚥下へのアプローチ



―在宅・施設における歯科の対応―
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T.摂食・嚥下とは
 T.先行期  U.準備期  V.口腔期  W.咽頭期  X.食道期

U.リハビリテーション医療における摂食・嚥下障害の位置付け

V.摂食・嚥下障害のスクリーニング

W.摂食・嚥下障害の対応
 T.機能面へのアプローチ
   1)間接的訓練
    (1)先行期の問題への対応(2)準備期の問題への対応
    (3)口腔期の問題への対応(4)咽頭期の問題への対応
    (5)食道期の問題への対応
   2)直接的訓練
   3)手術

 U.能力面へのアプローチ
 V.環境面へのアプローチ
 W.心理面へのアプローチ

Q&A

1.嚥下性肺炎で注意しなければならないことは何ですか。
2.診療所と病院施設との連携をはかるにはどうしたら良いでしょうか。
3.嚥下障害を有する人の口腔ケアについて教えて下さい。

摂食実習の手引き

引用、参考文献

参考資料
 
嚥下障害問診票
 
嚥下障害の簡単な検査と評価の方法
 
食事の前の嚥下訓練


T 摂食・嚥下とは

 通例として嚥下運動は口腔期、咽頭期、食道期の3期に分けられます。しかし、「食」にお
ける一連の動きを問題にした場合、それを広く摂食行為として捉え、先行期、準備期を含め5
期に区分します5、6)

 T.先行期認知期 anticipatory stage)
   食物が口腔に入る前の時期で、何をどのくらい、どのように食べるか決定し、行動する段階。

 U.準備期咀嚼期 preparatory stage)
   食物を捕食し、続いて咀嚼してから嚥下運動が行われるまでの時期。

 V.口腔期(oral stage)
   口腔から咽頭へ食塊を送る時期で、随意運動から不随意運動へと移行する。

 W.咽頭期(pharyngeal stage)
   食塊を咽頭から食道へ移送する段階で、反射運動となる。

 X.食道期(esophageal stage)
   食道から胃への蠕動運動である。





T.先行期

 これから摂取しようとしている食物の硬さ、
味、臭い、食べる早さ、口ヘ運ぶ量、噛む力な
どを確認したり、予知したりします。(図1)

図1




U.準備期

 食物を前歯で口腔内に取り込みます。続いて、
舌により臼歯咬合面に運ばれ、食物は、咬断、
粉砕、臼磨され、食塊(咀嚼後唾液と混合され
た食物が一回で飲み込める状態となったもの)
となります。(図2)

図2




V.口腔期

 食塊を口腔から咽頭へ移送する時期です。咀嚼が停止し、形成された食塊は、ほぼ舌中央
部の舌背のくぼみに位置しています。軟口蓋の上面は鼻咽頭方向に引き上げられはじめ、 
咽頭筋の収縮によって生じる隆起が軟口蓋に接近してきます。随意運動から不随意運動へ
と移行しています。(図3)


          図3







W.咽頭期

 舌骨が最大挙上し、喉頭が上方に
向かいます(喉頭挙上)。その一方
で、舌根部が後下方へ
進むことにより喉頭蓋が下がり、喉
頭口を塞ぎます。その喉頭蓋が下が
ったところへ食塊が下降してきます。

 輪状咽頭筋の弛緩と喉頭の上前方
への挙上により食道入口部は開大し
て、食塊は咽頭から食道に向かいま
す。(図4)

図4






X.食道期

 咽頭後壁の蠕動波により食塊は
さらに下方へと移送されます。蠕
動波頂部は、下がり切った喉頭蓋
の上の喉頭蓋谷に入り込みます。
咽頭筋下部(輪状咽頭筋)が弛緩
しているために、食塊は開大した
食道口から食道へ入っていきます。
(図5)

図5


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U リハビリテーション医療における摂食・嚥下障害の位置付け


 リハビリテーション医療における「摂食・嚥下障害」とは、先行期、準備期、口腔期、咽頭
期、食道期のいずれか、あるいは複数の時期に障害があり、円滑な摂食・嚥下が困難であった
り不可能な状態を言います。

疾 患 機能形態障害 能力障害 社会的不利
摂食・嚥下に使われる器官の障害。 軽食・嚥下ができるといった能力の欠如。 家庭に戻れない。生活する環境に適応できない。
|_______________ ____ 心理的障害 ___ ________________|
生きていても楽しくない。

 従来より障害は機能形態障害、能力障害、社会的不利といった側面に心理的障害が加わった
構造として捉えられています。この構造を摂食・嚥下障害の場合にあてはめると上のような図
式になります1)

 一般的にリハビリテーションは能力障害に対するアプローチに重きをおくことになります。
たとえば、歩けなければ車椅子や杖を使ったり、右手が麻痺していれば左手による利き手交換
をしたりなど代償機能を利用し、能力障害を克服するわけです。

 しかし、摂食・嚥下障害は、なかなか代償がききにくいため、麻痺したり器官に直接働きか
けて機能形態障害の克服をはからなければならないといったところに難しさがあります。

 いずれにせよ、摂食・嚥下障害を論ずるにあたり、常に4つの側面(1.機能面、2.能力
面、3.環境面、4.心理面)を念頭におきアプローチしていきます。

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V 摂食・嚥下障害のスクリーニング


食事を始める前に、患者が覚醒していることを確認して、以下のスクリーニングを行います。

・食べ物を見ても反応しない。
・絶え間なく食事を口に運ぶ。
・ガツガツ食べる。 
Yes───────→ 認知期の問題
No
・口の中に食事を取り込めない。                ・口から食物をよくこぼしたり、流涎がある。         ・盛んにモグモグするが、口の中を開けて見る
 と食物がそのままの形で残っている。
Yes──────→ 準備期 の問題
No

・盛んにモグモグするが、一向に飲み込まない。   
・モグモグしている最中にムセやすい。       
・上を向いて飲み込もうとする。          
・飲み込んだと思い、口を開けると食物残渣が目立つ。 
Yes─────→ 口腔期の問題
No

・飲み込むとムセる。 
・嚥下後しばらくしてムセる。     
・嚥下後、痰のからんだような声になる 
・固形食よりも水でムセやすい。  
・濃厚な痰がよく出る。     
Yes───────→ 咽頭期の問題
No
・就寝してからムセる。
・肺炎(熱発)を繰り返す。
飲んだ物が逆流し、嘔吐する時がある。
      
−−−−−−−→ 食道期の問題
 
 以上の問題は単期だけの問題であることは少なく、複数の時期にまたがって、摂食・嚥下障
害を引き起こしています。

 その他の日常注意しておかなくてはならない点

1.体重の減少、食欲低下。        4.食事時間の延長。

2.水分摂取の減少。            5.食事が疲れやすい。

3.ムセない誤嚥(silent aspiration)。   6.失禁頻度の増加。


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