(その壱)
彼は普通科に所属する歩兵であり、携行する武器は64式小銃という日本人の日本人による日本人のための優秀な銃である。
装弾数は20発、その性能は300メートル先で直径30センチ位の的にスコープ無しで集弾させる事が出来る。
スコープを使えば400メートル位でも可能になるらしい。
彼はこの銃を結構気に入っていた。
銃の貸与式で教育隊長から一人一人銃を渡されるとき、いやがおうにも顔がほころんでしまうのを押さえるのに必死であった彼は、ガンマニアでもあった。


(その弐)
歩兵が携行する銃は何も小銃だけではない。
分隊に機関銃1丁が配備される。
62式機関銃である。
これまた日本人の日本人による日本人のための優秀な機関銃であるのだが、ちょっとした小雨でもすぐに錆が浮き始めへそを曲げてしまう、わがままなお嬢様のような機関銃である。
機関銃であるがゆえに引き金を引いていればとにかく弾が出ていくわけだが、自衛隊では6発を一連射として訓練される。
6発弾が出たら引き金を放すわけであるが、とても数えてなどいられない。
訓練では、それを可能にすることを叩きたたき込まれる。 引き金を引いた瞬間から心の中で、
 「ろっぱ〜つ、れんしゃ」と唱えて引き金を放すと、6発で止められると言う。
嘘のような本当の話である。


(その参)
再び62式機関銃である。
初めての実射訓練は10メートル位から射撃場の土手に向かって打つことから始まる。
機関銃の弾は小銃と同じであるが、リンクと言う金具で100発が一つにつながっている物を使う。
ランボー等でおなじみのあれである。
1人づつ交代で例の呪文を唱えながら6発づつ何回か撃っていく。
ある隊員の番になった時、弾切れになり新たに100発のリンクを装填して再開された時、それは起こった。
ドガガガガガガガ・・・・・・・・?。
引き金を放すタイミングはすでに過ぎた。
弾丸は続けて土煙を上げ続ける。
あろうことか、その隊員は初めて撃つ機関銃の反動と発射音に驚き、固まってしまっていたのである。
もちろん、引き金を引いたまま。
100発の弾丸がわずか数秒で目の前の土手に向かって縦横無尽にたたき込まれる。
ドガガガガガガガガガガ・・・・・・・・。
目の前の膨大な土煙を見ながら彼は思った・・・
・・・やってみたい!。 オイオイ


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