このページは「演習」の続きである。
一身上?の都合により1ページに書けなくなったので新たに作った訳だが、話のネタがそろそろ尽きかけている・・・・・・・さあ困った。


(その十四)
*月*日 東富士演習場
通信手を兼務する彼は、中隊において従来の任務の他通信に限った仕事を与え
られることもある。
任務の内容は覚えていないが、その日の彼は無線機を背負い、一人山道を歩い
ていた。
定時連絡を義務付けられていたのか、彼は交信を開始する。
しかし、いくら相手方を呼んでも一向に返答が無い。
どうやら彼の居る場所が小高い山に囲まれていることにより彼の送信波が届か
ないらしい。
そう判断した彼は、慌てず騒がずロッドアンテナを取り出す。
ロッドアンテナとは、標準装備のアンテナによる通信が困難な条件下で使用す
る長いアンテナである。
普段は携帯できる長さに折りたたまれており、それを伸ばして3〜4メートル
位のアンテナにし、それをケーブルで無線機に接続することにより、より遠く
まで交信が可能になるのである。
とは言え、周囲の状況が状況である。
予想はしていたがロッドアンテナをその場に立てた位では交信は不可能であっ
た。
それならそれで、しばらく進んで交信可能な場所まで移動すれば時間的に大き
く遅れるものの目的は達せられたかもしれない。
しかし、彼の体に染み込んだ「必通の信念」がそれを許さなかった。
ケーブルの長さは10メートル位はある。
より高い位置にアンテナを設置すれば交信は可能だと確信があった。
山の斜面はかなり急で、短い雑草が所々に生えている程度だがなんとか登れそ
うであった。
彼は無線機を地面に下ろすと、ケーブルの接続されたロッドアンテナを折りた
たみアンテナを立てるための杭に装着すると、ケーブルを引きずりながら慎重
に斜面を登り始めた。
斜面の土は意外と脆く、何度もずり落ちそうになりながらもケーブルの限界ま
で登ることが出来た。
この間10〜15分位かかったろうか。
後は降りて交信するだけである。
降りる時は、登る時より慎重にしなければならない・・・少々の時間がかかる
事が気掛りではあったが仕方ない・・・そう思った矢先・・・・・・・・・・・・ズルッ!・・・
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・どてっ!!。
彼の心配は無用なものになった。
幸運?にも彼は10分以上掛かった距離を、わずか数秒で元の場所まで帰り着
くことが出来たのである。
かくして交信は無事終了した。
残るは・・・・・アンテナの回収だけである。
私は期待を込めて続きを聞いてみた。
彼は・・・・・「ノーコメント」・・・・だとさ。


(その十五〜続 演習場の怪
・消えた小隊
*月*日 東富士演習場
夜が明けるまでまだ少し時間のある頃、彼の小隊は戦闘地域を移動中であっ
た。
この日は通信手の兼務も無ければ、ロケット手でも無い。
愛用の64式小銃だけの、彼にしては身軽な装備であった。
草原の中を走る一本道で待機が掛かった。
結構時間があるらしいことから、ちょうど便意をもよおしていた彼はこの時を
逃さなかった・・・小声で「小隊長!ちょっと***してきます。」
小隊長は「仕方ない」と言った表情ながら「早くしろよ」とだけ言った。
余談ながらこの時の小隊長は教育隊当時の小隊長で検閲で怪我をした彼をお
ぶって運んでくれた、とっても良い人である。
さて、小隊長の許しを得た彼は、そそくさと草原に入ると***をし始めた。
そして、まさにその時、小隊長が彼に向かって言った「出発するぞ〜、この先
は直線で一本道だから道沿いに真っ直ぐ追いかけて来い!」
彼は、「そんな馬鹿なぁ」と思いつつも「りょうか〜い」と気軽に答えた。
それでも2〜3分で早々と用をたした彼は急いで小隊の後を追う。
現段階では小隊の移動早くない。
いくら彼の足が遅くとも走ればすぐに追いつく・・・・・・はずであった。
走れ**!・・・**は走った。
10分程走った・・・・・誰もいない。
さらに走る・・・・・・道が右にカーブしていた。
「直線じゃないのか?」彼はそう思ったが、とにかく追い着くことが先決で
あった。
カーブを曲がった所で数人の人影を見つけた彼は、ようやく小隊に追い着い
た・・・・と思った。
その人影が小隊単位の部隊であることを確認し「ほっ」と一息つこうとした
時、彼はその小隊の顔ぶれが違っていること気がついた。
「俺の小隊じゃない。」
演習場で他の部隊と遭遇することも珍しくは無いが、彼は近くの部隊員に聞い
てみた・・・「**小隊はこの先ですか?」
その隊員は、いぶかしげに答えた・・・「ずいぶん前からここに待機してるけ
ど、誰も通ってないぞ。」
・・・・・彼をパニックに陥らせるのには十分な言葉であった。
追い抜く筈は・・・いや、追い抜ける筈が無い。
もちろん他にわき道は無く、言われたとおり道沿いに・・・・彼にしては、ま
じめに走って来た・・・しかし自分の小隊はどこにも居ない。
正直、彼は泣きたくなってきた。
その時、彼はひらめいた・・・「無線で連絡を取ってもらえばいいじゃない
か。」
彼にしては起死回生のひらめきだった。
早速、その小隊の小隊長に事の次第を説明し始めたとき、突然後ろから彼を呼
ぶ声がした。
「**、こんなところで何しとるんだぁ〜っ!。」
振り向くと、そこには小隊長が居た。
「お前が、ちっとも来んから心配しとったぞ!。」小隊長はちょっと怒ってい
るようだ。
彼は「いや・・だって・・・走って・・・真っ直ぐ・・・小隊長が・・・来いって・・・あれっ?。」
彼のパニックもここに極まった。
そんな彼に小隊長は言った・・・「お〜っ、出発してすぐに道を外れて偽装し
とったわ・・・・・気付かんかったか?。」
「そんなもん気付くかぁ〜。」と思いつつ、彼の口から出た言葉は・・・・・
「すいません。」だった。

マークの用語解説
「偽装」 とは?
サバイバルゲームをやっている方は、良くご存知思うが、周囲の状況と一体化
し相手から発見され難くする為に草などを体に装着することである。
ただ草を付ければ良い訳ではなく体のライン、特に肩のラインをぼかす事がポ
イントになる。
もちろん周囲に生えている草の種類や状態を考慮し場所が変われば常に追加変
更をすることも重要である。


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